SISTERS (PARCO劇場)を観劇


7月16日(水)に、PARCO劇場で、

「SISTERS」

(長塚圭史 作・演出)

を見た。

午後7時開演。場内表示の上演時間は、135分。休憩なし。観劇日は、カーテンコールが終わったのが、9時23分くらい。

公演プログラム、1500円。
ポスター(大)、1000円。
ポスター(小)、500円。

いずれも、購入しなかったのだが、ポスター(小)を買うべきか買わざるべきか、かなり迷った。代わりにということではないが、前々から欲しかった「ピローマン」の戯曲(翻訳)を買った。


この16日は、PARCO劇場近くの渋谷C.C.Lemonホール(渋谷公会堂)では、氷川きよしコンサートが昼・夜行なわれていて、夕方、近くのコンビニエンスストアに入ると年配のお客さんが大勢、歩道には渋谷公会堂へ向かうひとの流れが出来ていた。

さて、それはともかく、

「SISTERS」である。


松たか子鈴木杏なら魅力的な顔合わせだが、昨年の市川海老蔵の吸血鬼(同じ作・演出家の「ドラクル」)があまり面白くなかったので、観劇予定を組まずにいたところ、朝日新聞の劇評(7/11付夕刊、大笹吉雄・筆)が「SISTERS」を絶賛しているのを読み、11日夜の「おしん」の幕間に、ファミリーマートでチケットを購入、足を運んでみた次第。

朝日夕刊の劇評での賛辞にたがわず、とても刺激に満ちた魅惑的な作品だ。これだけの舞台にして、劇評を見てからでもまだ前売りが普通に買えたというのは、うれしいことであった。


新婚の馨(松たか子)は、シェフをしている夫の尾崎信助(田中哲司)と、とある田舎のホテルへやって来る。夫の信助が、そのホテルの経営者である従兄弟(中村まこと)に料理の指南を頼まれたためだ。ホテルの一室には、児童向けの冒険小説で知られる作家、神城(吉田鋼太郎)とその娘の美鳥(鈴木杏)が長期滞在しており、美鳥と知り合った馨は、神城と美鳥の父娘の間に、自分の過去と同様の関係があることを見抜く。

序盤は、登場人物の会話や演技が不協和音を奏でるようだし、大きな亀裂が入ったホテルの部屋、その部屋を同じ間取りの別の部屋としても使う場割りや役者の出入りなど、舞台全般が、見心地の悪さを漂わせる。これは、あとで振り返れば、ミステリアスで効果的な演出として頷けるのだが、芝居の導入部分としては退屈さと紙一重にも感じる。


主人公の馨は、神城と美鳥の関係に、自分の父親と妹の姿を重ねて見る。救えなかった妹の代わりに、美鳥に神城との忌まわしい関係を絶ち切らせようと迫るが、その働きかけが、結果として、悲劇の再現を招くとともに、馨の抱えていたトラウマの正体を明らかにしてしまう。

心理サスペンスふうの展開は巧みで、クライマックスでの馨と美鳥、馨と神城の対峙は、なんともドラマティック。緊張感がみなぎる応酬の最中、いつの間にか部屋の床が水に濡れていて、次第に水浸しになる部屋が、インモラルな雰囲気を掻き立てる。
父親との関係から逃れて結婚したと思われた主人公が、じつは、父親に選ばれなかった娘だった(父は馨でなく、彼女の妹を選び取ったのだ)と分かる衝撃の結末には、気持ちが昂揚した。

死を連想させる赤い花のイメージをまとった美鳥の存在感が、格別。ドラマの内容が内容だけに、途中の制服姿は、やけに生々しい。


近親相姦を扱った芝居なので、あるいは好みが分かれるかも知れないが、常識的なモラルや道徳を跳び超えて、性(=生)の深淵を観客に垣間見せる。タブーに秘められた魅力や、禁断の果実が放つ死の香りが舞台を覆い、心を鷲掴みにされる。
こういう作品を傑作というのだろう。「SISTERS」というタイトルも効いている。