バレエシャンブルウエスト創立20周年記念特別企画 第57回定期公演「くるみ割り人形」全幕(新国立劇場 中劇場)


10月4、5日に、新国立劇場 中劇場で、

バレエ シャンブルウエスト創立20周年記念特別企画
第57回定期公演「くるみ割り人形」全幕

を見た。
過去ログのこの(→http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20080710/p1)公演である。


10月4日(土)午後5時開演、5日(日)午後1時/午後5時開演の、計3ステージあって、ロビー表示の上演時間は、1時間55分(途中休憩20分を含む)となっていたが、終演はいずれも開演時刻から約2時間10分後であった。


公演プログラム、1000円。
(5日ソワレの開演前には、売り切れになっていた模様)


演出・振付:今村博明、川口ゆり子
指揮:福田一

演奏は東京ニューシティ管弦楽団で、オーケストラピット使用。合唱は、なし。


主な配役は・・・

4日17時開演
金平糖の女王:深沢祥子 チャ−ミング王子:逸見智彦
クララ:石川怜奈  フリッツ:神野洸一
雪の女王:楠田智沙 ドロッセルマイヤー:今村博明

5日13時開演
金平糖の女王:吉本真由美 チャ−ミング王子:横関雄一郎
クララ:飯塚萌乃  フリッツ:諸星和己
雪の女王:田中麻衣子 ドロッセルマイヤー:今村博明

5日17時開演
金平糖の女王:川口ゆり子 チャ−ミング王子:逸見智彦
クララ:佐々木万璃子  フリッツ:諸星和己
雪の女王:松村里沙 ドロッセルマイヤー:今村博明




昨年、いちょうホールで見た「くるみ割り人形」と同じかと思いきや、ひと回りスケールアップした観のステージで、「くるみ割り人形」の夢の世界をたっぷりと味わわせてくれた。

新国立劇場中劇場の舞台で、バレエ シャンブルウエストの巨大クリスマスツリーの全貌が見られると、公演チラシに謳われていたが、・・・しかし!吊り上がったそのツリーは、やはりでか過ぎて、客席からはてっぺんまでを望むことは到底かなわず、その巨大さは想像の域にとどまったままであった。中劇場の仕様を見ると、『舞台面からスノコまで21.3m』であるから、客席からは見えなかったものの、舞台上にはツリーの全貌が姿を現していたのだろう。
考えてみれば、ツリーは高さ約20メートルあるというのだから、それを開口部の高さ9メートルのプロセニアム型の劇場で一望のもとに見ることは、客席からではむずかしいというものである。あのツリーは、大きくて全体が見えないことで、より幻想的な雰囲気を醸し出してもいるから、客席からは全体が望めないほうがきっと効果的なのだ。


となると、今回公演の、装置といういうことでのお楽しみは、クリスマスツリーよりもむしろ、いちょうホールにはなかった、気球のゴンドラだろう。第一幕の幕切れ、雪のシーンの最後に、クララと王子が気球で旅立つ演出が登場。ふたりがゴンドラに乗ってのフライングで、幕をとるかたちになった。
ゴンドラは、割りと浅めに出来ているが、クララと王子が立つ後ろに、掴まれるように手すりが付いていた。(ちなみに、6月に見たTYバレエのゴンドラよりもつくりは立派だ)


スタールバウム家のパーティ。クララの友だちは男女6人ずつ。このうち、上手の端にいた女の子が目を惹いた。3ステージともちがう子が演じていたが(柴田実樹ちゃんとか田島栞ちゃんとか)、揃って、表現が大きく演技力に富み、見ていて楽しかった。


ねずみたちが姿を現す真夜中の12時。カッコー時計がボーン、ボーンと12回鳴って、ときを告げる。この音は、いわゆる効果音ではなく、オケピットでパーカッションが生演奏で叩いているのがいい感じで、臨場感をあおる。

ねずみは、王様と、大きなねずみが10匹、小さなねずみが22匹で、プログラムを見較べると、昨年公演より小ねずみが1匹増えた布陣。

ねずみたちとくるみ割り人形+兵隊(10人)の戦いの場は、シャンブルウエスト版は、客席の下手側から見るより、上手側で見るほうがおもしろい、と気づいた。途中から舞台が、下手にねずみ、上手から兵隊というかたちになり、ねずみも兵隊も舞台を対角に使うシーンがあって、たとえば、ねずみたちが舞台下手奥に並んだとき、それを正面から見ることになるからだ。
(これは昨年公演でも書いた気がするが)鉄砲で撃たれて倒れた小ねずみ2匹が担架で運ばれて下手ソデへ退場したあと、少ししてからねずみの列に戻って来るところがいいな。

小ねずみといえば、舞台中央で縦に6匹並んだ小ねずみが、互い違いに左右に跳ぶ振付は、かわいくて秀逸。ねずみの王様がくるみ割り人形に敗れると、小ねずみたちが泣きながら下手ソデへ引っ込むのも、おもしろい。
ここで、小ねずみが1匹、クララが投げたスリッパを拾いに来るが、4日のスリッパはこのあと王子に変身するくるみ割り人形の足もとに入っていたし、5日ソワレでは演技の流れでスリッパがねずみが引っ込むのとは逆の、舞台上手のほうまで蹴とばされていた。スリッパを拾うねずみも、段取りだけでは済まないものがあると思った。


クララと王子のパ・ド・ドゥから雪の女王の登場。雪のワルツでは、雪を少し降らせておいてから、その雪を照明に替えて、厚みのある粉雪の群舞をたっぷり見せる、という趣向も細かい。奥行きを感じさせる舞台美術が、きれい。

クララと王子を乗せたゴンドラ(気球)が上手から出て、舞台下手側で高く空へ舞い上がったところで、第一幕が了。


第二幕は、8人のエンジェルの登場から。キャンドルを持ったエンジェルたち、進行方向へも客席へも正対せず、半身に構えたような姿勢で移動するところに味がある。
そこへ気球に乗った王子とクララの到着。

8人のエンジェルたちは、昨年のステージでは、二幕の冒頭での登場だけだったと思うが、今年は、終幕のワルツのあと、クララがお菓子の国からスタールバウム家の広間へ戻るときにも姿を現わして、クララをもとの世界へ導く役目も果たし、カーテンコールにも出る。


お菓子の国で歓迎を受けるクララ。キャラクターダンスは、下手の椅子に腰掛けたクララをもてなすべく披露されるかたちのシンプルな構成で、淡々とした進行ながらも飽きさせないのが、シャンブルウエスト版の特長。キャンディの途中で、クララが入って踊るのは昨年同様。

グラン・パ・ド・ドゥは、3ステージあったうち、5日ソワレだけコーダの最後がちがってリフトからのダイブできめたので、びっくり!・・・もしかして、シャンブルウエストの「くるみ割り人形」では、川口ゆり子さんのこのフィニッシュって、例年のお約束なのかしら?


いちばんの注目だったクララ。飯塚萌乃さんが、いかにもクララらしいクララを演じていたのが印象的。第二幕のディヴェルティスマンで、椅子に座っているとき、手をほとんど膝に置かずに、両手を下ろしてポーズをするように腰掛けていたのが、かわいかったし、ダンサーたちへのリアクションを細かくとっていた。
石川怜奈さんは、3人のクララのなかではいちばんリアルなイメージ。クララを踊り手と等身大のキャラクターとして魅力的に見せていた。

佐々木万璃子さんは、昨年12月のクララからまだ1年も経っていないのに、ダンサーらしさがぐんと増していて、その変化におどろいた。振りのひとつ、また、たたずまいにも雰囲気があったのがよかった。(佐々木万璃子さんの出演は、クララの他には、4日がキャラクターダンスの「キャンディ」、5日マチネは「花のワルツ」のコールドバレエ。「花のワルツ」での立ち位置は、ほとんどステージの上手側だった)


ところで、この「くるみ割り人形」では、第二幕のドロッセルマイヤーの出番が、クララがお菓子の国からもとの世界に戻るときに広間に姿を現わすだけ、と少ない。第一幕でも、ドロッセルマイヤーはくるみ割り人形を王子に変身させるまでで、その後の、クララと王子の旅には同伴しない。つまり、バレエ シャンブルウエストのドロッセルマイヤーは、クララの夢の世界のなかには踏み込まず、もとの世界と夢の世界との境界にとどまっている。