北陸新幹線を巡る新潟県のドタバタと森喜朗の無力

katamachi2009-06-04

 景気低迷下、追加の経済対策への期待も含めて2009年度の補正予算がいろいろ取りざたされている。
 鉄道マニア的に注目なのは北陸新幹線。東北・九州新幹線の工事が一段落付いたのに対して、ここは今から佳境にはいるからだ。で、下は新潟県の地元紙の記事。

 国の2009年度補正予算に盛られた新型交付金による整備新幹線事業で、北陸新幹線(長野―金沢)の沿線四県の県別配分は、本県が突出して低水準となる見通しであることが1日、分かった(中略)。
 一方、09年度の建設負担金の一部の支払いを留保し、国と協議を続けてきた本県は他県の半分以下の45億円の見込み。事業費の3分の1が地方負担で、今回の新型交付金ではうち9割を国側が負担するため、実際の国費配分ベースでは「13.5億円程度」となる計算。関係者の間では、08年度実績などから国費配分ベースで30億円を期待する向きもあった。
本県交付金、突出して少額配分新潟日報2009年6月2日

 県別の事業費は、富山243億円、石川90億円、長野96億円、新潟分の45億円。新潟県内の工事区間が短いとは言え、予想の半分以下か。
 経緯は以下の通り。

→同日夜に新潟県が方針変更受け入れ


 上の記事には、「本県が負担金支払いを留保する方針を示していたため、政界関係者からは『早くに国側と折り合いをつけていればもっと配分を受けられたのではないか』などの憶測」があると書かれているけど、まあそうだよなあ。
 国の直轄事業負担金制度、確かにかなり胡散臭い制度だし、今年の頭に橋下徹大阪府知事が「ぼったくりバーの請求書」と揶揄したように注目は浴びていた。
 あと、新潟県にとって長野新幹線ってあまり優先度の高いプロジェクトじゃないんだよね。後で紹介する記事にもあるけど、県知事が沿線の促進同盟会の会合に顔を出すこともないらしい。高田・直江津を抱える上越市、そして糸魚川市はともあれ、長岡市とか新潟市にとってはどうでもいい。いや、県も支出している三セクの北越急行は確実に採算悪化の道は辿るし、上越新幹線も相対的に地盤沈下は否めない。新幹線の金沢開業のデメリットは確実に県財政へと直結していく。
 でも、なあ。北陸新幹線なんて、まあ北陸ローカルの新幹線計画なんだし、そこの予算が付こうが付くまいがヨソ者にはどうでもいいことなんだよね。各都道府県が景気対策の予算分捕り合戦をしている最中、正論と本音と自己中心主義に拘りすぎて分け前を減らされたという感じか。



 決定の直前、新潟と同じく、というか、北陸新幹線で一番便益を被る石川県選出の森喜朗元首相がこんなことを言っている。

「新潟の方で暗雲がたれこめている。大変なことだ」。26日、東京・永田町の憲政記念館。新潟や北陸三県など10都府県でつくる北陸新幹線建設促進同盟会の大会で、顧問の森喜朗元首相が語った。 北陸新幹線整備事業の負担金42億円を泉田裕彦知事が留保していることを批判した発言だった。
森元首相、知事の新幹線負担金留保に「新潟に暗雲が」朝日新聞、2009年5月28日

「財源は新規区間に配分を」 北陸新幹線、年内認可へ知事訴え 中日新聞2009年5月27日
 結局、この辺の流れがあって、他県や国交相などとの調整の結果、新潟県も受諾したんだろうけど、こんなギリギリまで粘って、新潟県庁はどうするつもりだったのか。払わないまま押し通せると思ったのか。そこらの見極めは甘甘だったんだろうな。今年の2月から3月にかけては、かなり強気の発言を繰り返していた新潟県知事。かなり格好悪い結末となった。
 で、森からは「東京から金沢まで3時間以上かかってしまう」とか邪魔っ気扱いされているけど、県知事は上越駅(仮称)や糸魚川駅に新幹線を止めるよう求め続けるらしい。もう収拾が付かない。


 じゃあ、この発言で森喜朗が男を上げたかというと、そういうわけでもない。
 確かに、将来、北陸新幹線の建設の歩みが語られる上で、森喜朗の名はその歴史書に燦然と輝くんだろう。90年代から2000年代にかけて事業許可→予算獲得に「尽力」したのは誰も否定できない。
 長野〜上越〜富山間の新幹線フル規格での建設が決まったのは2000年末の予算折衝の過程だが、その大きな力となったのが当時総理大臣であった森である。本人としては金沢までの建設をごり押しするつもりであったが、あまりにも露骨だというので富山までにされた。
 でも、退任後、富山〜金沢〜白山総合車両基地の工事も着手されている。
 白山車両基地は金沢まで10kmほど離れていてなんでここまで敷設しなきゃならないのか。そもそもなぜ白山市車両基地を置かねばならないのか。よく分からない。ただ、確実なのは、ここ白山市が森の選挙区である石川二区に存在すると言うことだけだ。
 元首相なのに、ここまでこじれるまでトラブルを収拾できなかったのは遺憾ともしがたいと言うところ。新潟県庁が白旗を挙げたのも、国交省が「予算執行を留保」という実力行使に出たから。森はなにもできていないんだろ。
 北陸新幹線金沢開業の際には金沢駅小松駅の駅前に銅像が立つんじゃないか……というぐらい、森は一生懸命やってきた。スーパー特急方式で建設を推進しておきながら後でフル規格に変更という裏技も使ってきた。首相任期中に新幹線にゴーサインというフツーの人なら恥ずかしくてできないことことまで強引にしてきた。「我田引鉄」という言葉そのものである。
 でも、それぞれの沿線の足並みがバラバラであることを露呈してしまった。
 まあ、森という人自体、上越新幹線を建設した最大の功労者で浦佐駅に巨大な銅像が立つ田中角栄と比べることすらおこがましい人物なんだろう。
 でも、国の直轄事業をベースとした地方政治のコントロールという高度成長期的政治システムがもはや通用しなくなった。「地方の自立」とかいうメリットよりも、中央の統制がとれなくなったというデメリットばかりが目に付いている。それは、地方財源の自主性がまったく担保されていないからだ。そして、旧来型の政治システムがいまだに根強く残っていて、国の予算の分捕り合戦の成否で地方や政治家が評価される......という側面が露骨に出ている。本来は首相経験者として高所から関連各所の調整役として振る舞うべき森喜朗がいまだに悪目立ちし過ぎているのがその象徴だ。
 以前、「2008年末、政治に翻弄される整備新幹線を取り巻く状況をまとめてみる(前編) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」と「なし崩しにされてきた整備新幹線と並行在来線を巡る政治決着(後編) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」でも書いたけど、一度、政府や自治体、政治家たちが決めたはずの整備のやり方がなし崩し的に反故にされ、地方の財政健全化のためとかなんとかいって、新幹線の規格が中途で変更されたり、第3セクターなどに国のカネが注ぎ込まれようとしている。整備新幹線の沿線以外に住んでいる人間にとっては、腹立たしいことこの上ない。そんなに整備新幹線が欲しいのなら、高齢者福祉や医療を削ってでも自分のカネを注ぎ込めばいいのに……とか考えたりもする。
 ここ数年の地方分権や自主性に名を借りた地方自治体や政治家のカネの奪い合いを見ていると、なんだかもう救いようのないような状態になっていると寂しく思えてもくるんだけど、それはまた別の話。