ツービートの元ネタはミヤコ蝶々?『たけしの“これがホントのニッポン芸能史”』

BSプレミアムで放送された『たけしの“これがホントのニッポン芸能史”』がものすごくおもしろかった。今まで観てきたお笑いの番組でもトップクラスだったといっていい。

ビートたけしを博士、所ジョージを助手とした芸能史についての番組でテーマは漫才。冒頭でたけしが「芸能史ってのはあんまり知られてないんだよ。一部の芸能評論家がなんか書いてるけど、そんなに正しくないぞと、現場にいたオレがだな、徹底的に教えようと。みんなが思ってる漫才の歴史はつまらない。今回は私の独自の解釈でホントの漫才の歴史をおしえてあげよう!(一部略)」と言っていたが、Twitterやブログで誰でもお笑いのことを独自の感性で分析することが増え、それが目に付くようになった今、改めて歴史というものを学べ、そうすればもっとおもしろくなると言ってるようにも思えた。

まるで学校の授業のように展開され、お笑いには教科書がないとよく言われているが、それを二時間で作ってしまったようなきらいがある。もしかしたら芸人の養成所ではこういう授業があるのかもしれないが、たけしのお笑いに対する造詣の深さと解釈も加わって、お笑いを分析するという意味でもすごくおもしろかった。芸人を目指してる人は元より、プロとして活動している人にとっても良い教材になると思われるほどだった。

例えばエンタツアチャコの代表的なネタだと言われている「早慶戦」は元々アボットコステロというアメリカのコンビのネタに「メジャーリーグ」というものがあって、それを絶対見てたはずだと解説。実は今の日本の漫才のスタイルはアメリカから来たものだったという新説をとなえる。

同じくお笑いに造詣が深く、浅草を拠点に活動しているナイツも登場し、晴乃チックタックの「いいじゃないー」は日本エレキテル連合の「いいじゃないのー」に似てると指摘して、その元はジェリールイスとディーンマーティンだったという。さらにチックタックは喋り言葉が女性的だからこそ、女性がマネしやすくアイドル的な人気を得たのではないかという分析のあと「昔は女芸人は逆に男の言葉使いだった。ハリセンボンの近藤春菜のやってねーよ!なんてまさにそう」と続ける。このたたみかけに所ジョージも「おもしろいねー(あのいつもの感じで)」というしかない状況。

第二世代が打ち出した、ボケがたくさん喋るという近代漫才にしても、一分間にどれだけセリフを言ってるか?さらにボケとツッコミでその割合はどのくらい違うのか?というところから分析。ツービートとB&Bから一気に喋る量が増え、ダウンタウンやすきよ以下のレベルまでスピードが落ち、さらにウーマンラッシュアワーがツービート以上のスピードでやってることが明らかになった。そのスタイルの元祖は二年間だけ活躍して表に出てこなかった浮世亭ケンケン・てるてるだと紹介されていたが、たけしはそもそも片方だけよく喋るというスタイルは男女の漫才が元だといいだし「ミヤコ蝶々さんとかボケの女性が早口でまくしたてて、男性が短いフレーズでツッこんでいた。だからオレらがやってたことは新しいかと思ってたら実は昔からある形で性別が変わってただけだった。ネタの振り方とかまったく同じでそれがおもしろい」とさらに独自の分析を重ねる。

と、全部紹介してたらキリがないのだが、一事が万事この調子で、他にもダチョウ倶楽部の「熱湯風呂」についてもおもしろいくだりがあったり、音楽ネタにしても、漫才には音曲漫才というジャンルがあり、実は本流であることが歴史と共に紹介され、玉川カルテットのすごさについて語ったり、養成所時代、練習として人のネタをするのにみんながダウンタウンのコピーをしていたなか、中川家だけダイマルラケットをやっていたなど、お笑い好き/マニアにはたまらないエピソードがバンバン飛び出す。

番組の後半では、漫才の歴史を総ざらいするかのごとく、いろんなコンビのネタを総集編で見せるのだが、これもチョイスがよかったのか、古さを感じさせず楽しく見れた。特に若き日の上沼恵美子がやっていた海原千里・万里のネタは途中で長々と歌いだして、歌い終わるまでツッコミが待ち続けるなど、フットボールアワークマムシがやってるようなことをすでにやってて驚いたし、Wヤングなんかは知的なオジンオズボーンって感じがした。

亀田音楽専門学校」、「スコラ」、「ニッポン戦後サブカルチャー史」、「岩井俊二のMOVIEラボ」など、近年NHKでこういう番組をやることが増えたが、それのお笑い版がついに登場したかという感じだった。番組内で「漫才だけでこの長さだったら次がどうなるかわからない」と言っていたのでもしかしたら第二弾の放送もあるのかもしれない。再放送があるかもしれないので、お笑いに興味があって見逃した方は録画してでも観て欲しいなと思った。