”神岡鉱山”余話

 8月27日付朝日新聞2面の「いちからわかる!」コラムに、宇宙のゆがみでできる”重力波”現象を観測する装置(大型低温重力波望遠鏡<KAGRA>)を、神岡鉱山に設置するプロジェクトが東京大学で進めているとの記事が掲載されていました。
 私は重力波に特に関心が高いわけでなく、「神岡鉱山」という岐阜県の山間にある町の、科学を背景にした歴史的変遷に大いに興味があり、多大の関心を寄せていた一人だからです。

神岡鉱山との出会い 
 私は勤務の関係で昭和43,44年に富山市に住んでいましたが、年に1〜2度、関西の親元に家族帯同でマイカーを駆使して国道41号線を往復したものです。41号線で神通川沿いに南下し、富山県境を過ぎ岐阜県に入りますと、宮川村を経て直ぐに神岡町です。そして道路沿いに車窓から神岡鉱山の薄茶けたダスティな全景が見られます。私は初めて目にした異様にも見えるこの光景が印象的で、「これが日本の科学の頭脳を集めたと謂われる”三井金属鉱業(株)神岡鉱業所”か!」と感慨深く想いましたね。
          かつての神岡鉱山全景

イタイイタイ病の元凶
 丁度この頃、神岡鉱山の主要鉱物である亜鉛鉱に含まれるカドミウムを原因とする、富山県神通川流域で発生した大規模な公害病が有名な「イタイイタイ病」です。神岡鉱山は被告となり、1審2審とも敗訴で、日本の4大公害病裁判に於いて、最初の原告勝訴判決で、その後の公害病裁判に大きな影響をもたらしたのはよく知られるところです。
 神岡鉱山の採掘・精錬加工技術で神岡町は鉱山町として隆盛と衰退を共に味わい 昭和40年頃までの最盛期には人口は27,000人にもなったと言われています。現在は推測ですが1万人を切っているのではないですか?

スーパーカミオカンデの基地
 鉱山の跡地利用として建設された東京大学宇宙線研究所のニュートリノ観測装置は”スーパーカミオカンデ”と呼称され、世界最先端の研究施設の設置場所に選ばれています。ノーベル賞受賞の小柴昌俊博士はじめ世界各地から科学者が集まっているようです。
 この鉱山跡地の”観測装置への適性”として、イ、必要な巨大な地下空間が堅牢な岩盤でできていること。ロ、使用する純水の調達に坑内湧水が豊富にあること。ハ、坑内気温が13〜14°Cと一定しており環境の保持が容易なこと。が挙げれています。

重力波現象の観測装置設置場所
 冒頭に記載したものですが、宇宙空間は天体同士が衝突したり合体した際に伸び縮みし、その生じたゆがみの広がりを”重力波”と謂うそうです。
 この重力波の観測につきましては専門的になり、よく分かりませんので省略しますが、なんでも、一辺が3kmのL字形のトンネルの中にレーザー光線を流す大規模な設備で、この接点からか神岡鉱山に白羽の矢が立ったのでしょうかね。
 この重力波観測は、未だ世界どの国も実現しておらず、米国や欧州も同規模の観測施設を造り、初観測を狙っているようですから、日本も頑張って欲しいですね。

 今回、急遽思い出したように神岡鉱山を採り上げ、余り脈絡のない話で恐縮でしたが、私が外側から視た神岡鉱山のイメージとは大きくかけ離れた、内容の濃い凝縮された科学の先端を走っていることに、改めて敬意を表したく”余話”として採り上げ、応援歌を送らせて貰った次第です。