新三本の矢は並の政策

先日、安倍首相の総裁選が終わり、記者会見があった。

新たな3本の矢として、

1)希望を生み出す強い経済
2)夢を紡ぐ子育て支援
3)安心につながる社会保障

という方針を演説した。

テレビで見ていたのだけど、私の考えとして、1については経済(資本主義)という枠組自体に変革が必要と思っているので、無評価とし、2についてはまあまあいいけど、賢者の考えることではないと評価し、3についてはどの政権もどの政党も言うことなので当たり前のことと評価した。

総じて、並の域を超えていないということである。

1については研究中、2については後で述べ、3については姦人(ずるいことをする人)が出ないように、ということで、私がこれらを並と判断して、それ以上の了見を心得ているという証左とするが、2について述べることでさらにこの証左としよう。


私は決して賢者ではないが、2について賢者ならどうするだろうか。

出生率を上げるために、子供を育てやすい環境を作るとは確かにその通りである。しかし、これは出生率を上げるための根本的な解決にはならないと断言する。これは間違いない。というのも、現代の若い人が子供を生まない理由は、子育てがしにくいというものではないからである。

いかに海よりも深く子供を愛し、空よりも高く子供の成長を望む親といえど、子供を生む前には、そのような感情は持ち合わせていない。なぜなら、その対象がまだ居ないからである。現存もしない人を愛して、憧れ、これによって自分の行動方針を決める人は、例えるなら、銅像に恋した男である。こんなことをする人はほとんど居ない。

だから、まだ居もしない子供の成長と、その世話を憂えて子供の出生を躊躇するような人は、ほとんど居ないのである。

そもそも、子育てしやすい環境ができて、子供を生もうと思う人は、子供の好きな人だけだろう。子供をうっとおしいと思い、可愛くもないと思い、あるいはなんとも思わない人は、この政策が実行されたからとて、絶対に子供を増やそうとはしない。

それに、自分以外の子供、子供全般を好きな人は、せいぜい全人口の1割程度であろう。見れば確かに可愛いが、とにかく育てたいと思うほど好きな人がほとんどいないことは言うまでもない。

だから、そもそも子供を好きな人が少ない以上は、子育てが支援されたからとて、子供は増えないのである。


ならば、出生率があがらない本当の理由とはなんだろうか。

一言で言ってしまえば、現代において、子供が多いことは、親にとって何のメリットにもならないのである。だから、夫婦の愛の結晶として一人いれば十分だし、世間体の問題上一人いれば十分だと思うのだ。はっきり言って、それ以上は自分に何のメリットももたらさない。これが現代の夫婦の本音だ。

銅像に恋もしていないのに、この銅像が本物の人間になり、自分に何の利益もないということならば、よほど奇特な人でない限り、銅像を人間にはしない。いかに補助が出るからとて、その銅像を人間にはしない。


では具体的に、何が問題なのか。

以下のURLを見て頂くと分かるのだけど、なんと、現在親と同居したいと思っている「子供」は全体の1割しか居ないのである。つまり、「子供」を苦労して育てても、一緒にいることさえ嫌だと思っている「子供」が10人中9人も居るのである。

なんたることか、子供は親に何のメリットももたらさないどころか、嫌ってくるのである。

http://news.panasonic.com/press/news/official.data/data.dir/2014/01/jn140108-4/jn140108-4.html


さらに絶望的なアンケート結果をご紹介したい。これについては、ラジオかテレビで聞いて、その詳しい数値を記した記事などは見つからなかったのだけど、なんと、世界中でどの国を探しても日本ほど「親の面倒をみたいと思っている子供が少ない国」はないのである。

記憶なので曖昧だし、調査対象が何歳から何歳ということも分からないのであるが、

親の面倒を見たいか、という質問に対して、

「絶対に面倒を見たい」と答えた子供は、日本の子供の30%しかいないのである。これが諸外国とくらべて如何に恥ずかしい数値かというと、「孝」の文字さえないアメリカでも50%で、土産物をメガネにして、事故った新幹線を死体ごと埋めてしまう中国がそれ以上の数値を叩き出して首位なのである。

もちろん、日本のこの情けないアンケート結果の数値は、世界最悪である。

このような状況で、つまり、自分の面倒をみてもくれず、挙句の果てには厄介者扱いするような子供が多い中で、誰が「もう一人子供がほしい♪」などと言おうか?そんなことを言う人は実に奇特な少数の人だけである。

だから言うのだ「子育て支援があっても子供は増えないし、根本的な解決にはならない」と。



では、この問題を解決するためにはどうしたら良いのだろうか?

答えは簡単だ。

親と同居している世帯に補助金を出して、親の面倒をみている子供を表彰して、子供が親の面倒をみやすい環境を作った企業には補助金を出すのだ。もっと言えば、営利の介護ホームには高い税金を課すのだ。簡単にいえば、親孝行を奨励するのだ。

このようにすれば、子供たちはこぞって親の面倒を見るだろう。そして、それを実践した子どもたちは、老後に子供が当てになることを確信し、一人でも多ければそれだけ老後が楽になると思い、自分を必要としている人が増えると思い、こぞって子供を産み育てるだろう。

それが何か?銅像の生きやすい環境を作って、経済と称して子供を親から引き離して働かせ、挙げ句の果てには親の面倒を代行するところに補助金を出すとは?やることがちゃんちゃらおかしいとはこのことである。

私は決して賢者ではないが、それでもこのことは分かる。

政治家と言われる人は、少なくとも私よりは地位があり、少なくとも私よりは人望があり、少なくとも私よりは賢いはずである。なのに、その私よりも劣る並のことを考えて、それで満足してしまっている。これはなんという悲劇であろうか?