タイガーマスクといえば‥「援助する前に考えよう」?

「援助する前に考えよう」

一昨日、自分で書いていながら何なんですが、今話題の「タイガーマスク現象」と、開発教育教材「援助する前に考えよう」を、結びつけて論じるのは難しいと感じました。「援助する前に考えよう」というのは、現在、上智大学教授の田中治彦氏が作成して、開発教育協会(DEAR)から出版した教材で、私もちょっとだけお手伝いしました。
「援助」する前に考えよう―参加型開発とPLAがわかる本|教材|開発教育協会

タイの山岳民族の村にトレッキングで訪れたあなたは、村の小学校で看板を見つけます。そこには「おねがい。この村の学校はお金がなくて困っています。あなたの寄付があればもっと子どもたちに教材や道具を買ってあげられます。どうかあなたの10ドルをこの学校のために寄付してください。アイコ・ナカムラ」と書いてありました。あなたは10ドルを寄付しますか? という問いかけで始まるワークショップです。国際開発援助の現場では、モノやお金をあげる慈善型援助は過去のもので、参加型開発が主流であること。そこで用いられる、現地のニーズ調査の方法「PRA(参加型農村調査法)」は、私たちの社会でのまちづくりワークショップなどで用いられる「PLA(参加型学習行動法)」に繋がっていること、などなど、いろいろ体験型のアクティビティーを駆使して学びます。児童養護施設のニーズを調べることもなく、ただ善意の贈り物をする「タイガーマスク」は、まさに、このワークショップの「アイコ」に似ているというわけです。僕も最初、すぐに「援助する前に考えよう」を思い浮かべたんですが、考えてみると、ちょっと次元が違いすぎる気もしてきました。

タイガーマスクさんたち

大きな違いは「匿名性」。ただ、困っている人たちに善意の行動をするだけなら、何も匿名である必要はない。それから、一般に国際協力に於いてモノを援助したいと考える人は、かわいそうな姿(写真などの映像)を見て自分に出来ることはと考えて行動し、プレゼントをもらって喜ぶ子どもの姿(これも写真などの映像)を観て、達成感を得ています。これが、タイガーマスクさんにはありません。もっとも、マスコミは「ランドセルをもらって喜ぶ子ども」の映像を撮りたがっていることでしょう。でも、こればかりはプライバシー問題もあって、施設の人が許すわけありません。つまり、「ランドセルをタイガーマスク名で置いてくる」という行為で完結しています。もちろん、それが報道されることによって達成感は大きくなったことでしょうけれど。こういった、いかにも日本人的なメンタリティーについて、どなたか研究されたモノはあるんでしょうか?

映画「冬の小鳥」のワンシーン

一昨日も書きましたが、「冬の小鳥」という、孤児院を舞台にした韓国映画を観ました。
http://fuyunokotori.com/story.html
この中の1シーン。贈られてきたプレゼントのいっぱい入った段ボールを開けて、玩具や人形をうれしそうに抱きしめる子どもたちの中で、主人公のジニが一人でつまらなそうにしている。スタッフが「ほら、ジニも見てごらん」と、人形の入った箱を渡す。すると、ジニは突然は箱から人形を引っ張り出すと、ものすごい勢いでクビや手や足を引きちぎり始める。さらに、小さい子どもが抱きしめている人形も奪って、凄い形相で手足を引きちぎる。衝撃的なシーンです。もちろん、ジニが乱暴な悪い子ども、という話ではありません。「プレゼントする前に、この映画を観て考えよう」というのがいいかもしれません。

泉麻人氏の論

今日の毎日新聞の「核心」というページに、泉麻人氏が書いています。「今回の騒動がいまのところ『美談』の方向に進んでいるのは、初代伊達直人が選んだランドセルという贈り物が良かったのだろう。程よく質素な、昭和30年代テイスト漂う学習用具。この第1発信者が贈り物はランドセル、と決めたことによって、暗黙の規約のようなものが出来上がった。(中略)最初の人がいきなり金のノベ棒なんかを選んでいたら、一連のゲームはかなり違った展開を見せていたことだろう。そういう意味でこの現象、現時点ではある種の秩序が保たれているように思う」・・・という視点は新鮮。思わずうなりました。さらに、「贈る人々の多勢は、何かいいことをしたい、素朴な善意の人々、というイメージが浮かぶ。(中略)とはいえ、行為そのものは善意でも、現象全般にどことなく薄気味悪いムードが感じられることは確かだ。」と指摘しています。つまり、「キャラクター名」だけ残して姿を消すのは「日本人らしい美学とも解釈できる」が、表面的には「かい人21面相事件」と同じだということ。さらに、「いま危惧するのは、これまでの秩序が崩れて、不快な贈り物を届ける悪質模倣犯が横行するようなシナリオ。」と結んでいます。マスコミがこぞって「美談」を盛り上げているときに、こういう視点で物事を見ることができるって、やっぱり大事なことですね。プロフィールによると、泉麻人氏、僕と同い年ですね。