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水平対向エンジン

一般

水平対向エンジン

すいへいたいこうえんじん

レシプロエンジンの形式の一つ。

 クランクシャフトを中心にしてピストンが左右対称、180度に配置されており、そのピストンの動きがボクシングの選手が繰り出すパンチの様に見えることから「ボクサーエンジン(Boxer engine)」とも呼ばれている*1

 直列型やV型に対するアドバンテージとしては、まず左右に配列されたピストンがお互いの振動を打ち消し合う事で、直列型やV型に比べると低振動で、またバランサーシャフトなしでもスムーズに回転する事があげられる*2。また、相対的に全長、全高がコンパクトに抑えられるという利点がある。このように、一見良いこと尽くめだが、ピストンが左右に分けられて配置されている故、自働車や航空機など、大きさの制約をより受ける場合は一般に排気管(エキゾーストマニホールド)の取り回しが大変複雑になってしまうという短所も存在する。



自動車の場合

 レシプロエンジンは、自動車の動力源としては圧倒的な多数派*3だが、その多くは直列型とV型が占め、現在この水平対向型を自動車に採用、生産しているメーカーは「富士重工スバル)」と「ポルシェ」のみである*4

 全高の低い水平対向エンジンを低い位置にマウントする事により、その重心を低い位置に設定する事が可能になる他、スバルポルシェ二社ともに、エンジンを縦置きに配し、そこからギアボックス、トランスファープロペラシャフト、リアデファンシャルなどの重量物を自動車の中心に、一直線上に配置している。これにより、重量バランスに関しても理想的な機構になっている。

 排気系に関してスバルの例をあげると、現行インプレッサ(一部グレードのみ)や現行レガシィ登場以前はピストンの1-3番と2-4番、つまり左右に分けられたピストンの近い方同士の排気管をまず集合させ、そこからさらに1本に集合させていた(4気筒の場合)。これは、取り回しとしては合理的だがピストンの爆発順に集合させていないため、排気干渉が生じてしまうデメリットがあった。しかし、現行インプレッサ(一部グレードのみ)、及び四代目レガシィではこれを爆発順に集合させる「等長等爆エキゾーストマニホールド」を採用。複雑な形状を樹脂で作ることによりクリアーし、排気干渉の生じない合理的なエンジンとなった*5


二輪車の場合

 BMWが長く水平対向型を採用している。重心を低く抑え、直進性を高める利点があるが、高トルクになると車体を傾かせるという欠点がある。

 又、バイクレースなどでは車体を傾けて高速カーブを可能にするが、シリンダーヘッドが左右に張り出している水平対向エンジンでは深い角度のバンクが取れないという欠点がある。


鉄道の場合

 鉄道車両ディーゼルエンジン、特に気動車用エンジンでは広く用いられている。

 というのも、鉄道の場合は客室の床下にエンジンを設置するために、エンジン高さを抑えられることは非常に喜ばしいことである上、ピストンやバルブ部分の保守整備に都合がよい*6ために、気動車に非常に多く利用されている。

 特に戦後の無煙化政策に伴う大量の気動車増備で昭和28年から始まった一般形のキハ10形系列、その後のキハ20形系列、キハ45形系列、急行形のキハ58系特急形のキハ80系などは全てのDMH17系エンジン、或いはそれの改良型を搭載しているが、みな水平対向型であった。その後も大出力エンジンであるDML系、現在でも改良を加えられつつ使用されている新潟鐵工所のDMF系、一部にみられる米国カミンズ社製エンジンなど、旅客ディーゼルカーはその多くに水平対向型が利用されている*7

 現在では小型車両が増えてきた上、エンジン自体も小型・高出力化、車両の軽量化などもあり、横置き直列型が増えてきているが、自働車と異なり、排気系の取り回しに使えるスペースが広い鉄道車両の特徴がみてとれる。



備考

  • 「水平対『抗』」と表記されている事があるが誤記。ピストンが「向かい合う」のだから「水平対『向』」が正しい。
  • 水平対向エンジンはその構造上、エンジンの組み立てラインにて裏表を何度も裏返さないといけないという複雑さがある。それ故、他社が水平対向エンジンを作る場合、エンジンを裏返せるラインを新規に作らなくてはならず、非常に効率が悪い。逆にスバルは軽のエンジンを除けば全車種水平対向エンジンなので、エンジン組み立てラインは一つで済む。

*1V型エンジンバンク角を180度に広げれば水平対向エンジンという見方もあり、実際にフェラーリでは180度V型エンジンを「ボクサー」と称しているモデルもある。しかし、180度V型と水平対向では、前者が向かい合うピストンが1つのクランクピンを共有しているのに対し、後者は共有していない。したがって180度V型は向かい合う一方のピストンが上死点であれば、他方が下死点にあるのに対し、水平対向ではどちらも上死点(もしくは下死点)にある。つまり、180度V型エンジンは広義の「水平対向」ではあるが、厳密には「ボクサー」とは言えない。

*2:特に6気筒エンジンの場合は理論上「振動ゼロ」になることをして「究極的なエンジン」とも言われている

*3:少数派としては、化石燃料を使用するものではマツダロータリートヨタなどのハイブリッド燃料電池などを使用した電気モーターなどがあげられる

*4:以前はトヨタなども製造していた

*5:それまでの型のターボモデルは、主にエキゾーストマニホールドが不等長なことによる「ボロロロ……」という独特な排気音を特徴としていた。「ボクサーサウンド」と呼ばれるこの音にはファンが多く、等長等爆マニホールドがこの排気音を失なったことを残念に思う向きも多い。NAモデルは以前よりマニホールドが等長だったため、ボクサーサウンドは生じなかった

*6:90度横に寝かした直列ならともかく、ふつうの直列やV型では客室床に整備ハッチを開口する必要があり、防音上不利になってしまう。乗客への騒音問題を考慮しないでいいディーゼル機関車などでは話は別。室内にV型などを置いている。

*7:最近ではターボチャージャー&インタークーラーなど、自動車顔負けの装備だったりもする