塚本邦雄の定家撰百人一首嫌いはすさまじく、本書以外にも『新撰 小倉百人一首』があるし、他書でも事あるごとに定家の批評眼について疑問を投げかけずにはいられないようだ。伝統文化として定着してしまった観のある小倉百人一首にそれほど目くじら立てても、状況は大きく変わることはないとは思うものの、塚本邦雄にとっての創作源であり、また新たな古典愛好読者の発掘の契機として、有効に機能していることで、充分意義のある感覚であることに間違いない。本書も講談社文芸文庫になってのち、2021年までの12年間で六刷を数えているのだから、大したものだ。 小倉百人一首との撰出歌人を比較してみると以下のようになる。 小倉百人一…