「地球持続の技術」を読む

 今更ながら読みました。
「1999年に書かれた本とは思えない」というのが率直な感想です。
それもそのはず、この本の目的は2050年に向けたマスタープランを立てること、言い換えれば、持続可能型社会を実現するために注力すべきはどこか(=選択と集中)を見定めることです。
著者があとがきで書いている通り、抜け漏れもたくさんありますが、取り上げられた内容に関しては具体的な数字も交えて論理が展開されており説得力がある内容となっています。
なにより、地球環境という壮大かつ漠然とした課題に対して繰り広げる、どこが課題なのか(1,2章)→細かな課題対策案はなにか(3,4,5,6章)→それらをまとめるとどうなるのか(7章)という論理展開は圧巻でした。


 自分が語るまでもない名著でしたが面白い視点がいくつかあったので引用させていただきます。

省エネルギーはどこまで可能なのかを考えよう。(中略)その場合、製鉄、プラスチックの製造、エアコン・冷蔵庫・自動車の使用などといった、エネルギーを消費しているそれぞれの活動ごとに理論上の最低エネルギーを求めていけばよいのだが、それではきりがないだろう。そこで、ここでは人間の活動を基本的な素過程に分解するという方法をとりたい。(P66)

実際には素過程に分けた後で、エネルギーの出入りを0,1,10,100,1000といったように決めて各活動に適用しています。その方法で、それなりの省エネ目標が出てくるからすごい。
これは科学技術者の世界で”あたりづけ”と呼ばれている、何かをするときのいわば必須作業です。しかしながらそれを省エネルギーというとても大きな課題に適用できる方はあまり多くはいないでしょう。さすが東大総長になられた方だと思います。

今後生産を続けることで人工物の蓄積量が増し、それに比例して廃棄される量も増加する。廃棄物からの再生が増えるにつれて、資源の消費は減少に向かう。(中略)こうして鉱物資源は枯渇性の問題を免れることができるのであり、真に憂慮すべきは、エネルギー資源の未来ということになろう。(P114)

慧眼でした。鉱物資源(鉄、アルミ、etc.)の大量消費とエネルギー資源(石炭、石油、太陽光、etc.)の大量消費をおぼろげに十把一絡でみていましたが見方を改めようと思いました。同時に、物の分別がちゃんとなされればこの話が現実になる可能性があがるのだと実感できました。8章にも書いてありますが、こういった気づきを社会に与えることこそ技術者の役目なんだと自分は思います。


 1999年に書かれたこのマスタープラン(ビジョン2050)の考え方は実際日本社会に十分浸透しているだろうか、と考えた時、自分は否だと思っています。
著者の論理にしたがえば、その原因は『その領域の専門家が知識を構造化できていないから』ではないでしょうか。
環境問題において、専門的なことを極めて分かりやすく人々に伝えることができる人(著者やアル・ゴアさんなど)がもっと増えることを祈りつつ、自分も一技術者としてその底上げをしたいと思わせてくれる本でした。


 おすすめです。[他人に勧める度合:★★★★★★★☆☆☆]

地球持続の技術 (岩波新書)

地球持続の技術 (岩波新書)