木走日記

場末の時事評論

これは国民に対する背信行為じゃないのか?〜国民(多重債務者)を見捨てアメリカ資本(サラ金)に配慮する金融庁

●半永久的に金利だけを消費者金融に払い続けている多重債務者S氏の実態

 私の実家が東京近郊の商店街の理事をつとめている関係で、私も時々地元商店主からの相談事を持ち掛けられることがあります。

 S氏は商店街で小さな飲食店を経営している個人事業主であります。

 彼はいわゆる消費者金融多重債務者であります。

 資金繰りの悪化から消費者金融に手を出し、現在では5社から総計390万円の借金を背負っています。

 A社100万円枠、B社100万円枠、C社150万円枠、D社30万円枠、E社10万円枠、5社からそれぞれの信用枠目一杯、総計390万円の借金を毎月分割で返済しています。

 返済額はA社3万円、B社3万3千円、C社4万9千円、D社1万円、E社3千円、毎月合計12万5千円の返済となっているそうです。

 問題は、いわゆる利息制限法が認める15〜20%の金利と、刑罰がある出資法の上限29・2%の間の「グレーゾーン(灰色)金利」が彼の借金にも適用されているために、悲しいことに例えばA社の月々返済3万円の内訳ですが、元金充当額はわずか1万2千円ほどであり、金利返済分のほうが大半なのであります。

 計算すると12万5千円も払っているのに元金充当額はわずか4万5千円ほどにしかならないわけです。

 で、この12万5千円の返済が滞り無く進めばよいのでしょうがもともと消費者金融に借り入れるほどの経済状況にあるわけですから、この毎月の12万5千円の返済は彼にとって大きな負担になっているわけです。

 結果、彼は毎月12万5千円の返済をし、その結果元金を充当して新たに発生した借入枠4万5千円を次の月の返済のために再び借り入れてしのいでいるのです。

 つまり毎月12万5千円を払い続けても翌月には再度返済のために新たに借り入れるのでいっこうに元金は減らないわけですから、彼は半永久的に8万という金利だけを消費者金融5社に払い続けているのです。

 彼の場合はまだマシなのは、借入総額を増やさないギリギリのところで踏みとどまっていることです。彼の年収からこれ以上消費者金融で信用枠を増やすことは不可能ですから、もし不慮の出費で返済が滞ったら高利のヤミ金に手をつけサラ金地獄に陥ることになることでしょう。

 このS氏の場合、まじめに返済をしていて一度も滞納はしていませんが借金はいっこうに減りません。

 彼を救済する手段は単純です。今すぐ29%という「グレーゾーン(灰色)金利」を廃止し、適正水準まで金利を下げることです。

 そうすれば月々の返済額の元金充当額の割合が改善され、彼の借入金額は減少していくことでしょう。

 S氏だけではありません。このままでは29%という「グレーゾーン(灰色)金利」のために、返済破綻しヤミ金融に手を出してしまうであろう多くの多重債務者を、「グレーゾーン(灰色)金利」を廃止すれば救済することになることは明らかです。

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 S氏の場合、彼のお店自体が幸いにもここ3年黒字に転じたことから、組合を通じて公的融資を何とか150万円できることになり、そのお金でもっとも負担の大きなC社の150万円枠の借金を完済させ、比較的低利の公的融資に切り替えることができたのでした。

 これにより彼の月々の返済総額は10万5千円と2万円も減ったにもかかわらず、元金充当額は5万円と逆に5千円増えたために、S氏の月々の資金繰りは大きく改善されたのでした。

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●「規制を強化すると(消費者は)ヤミ金融に走ってしまう」〜詭弁まみれた消費者擁護論

 金融業界側ではなく消費者救済の立場を取るならば、29%という「グレーゾーン(灰色)金利」は即刻廃止すべきであることは誰が考えても自明なのですが、金融庁は一体全体なぜこんなにも消費者金融寄りの「改革案」にこだわるのでしょうか。

 金融庁自民党金融調査会に示した改正案では現在、年29・2%の出資法上限金利を、利息制限法上限金利の同15〜20%に引き下げグレーゾーン(灰色)金利を解消するまで、改正法施行後3年間の経過期間が設けられています。その後も、少額短期の融資には同28%の特例金利を最長5年間認めるというのです。

 この何とも煮え切らない金融庁の改革案に産経を除く主要4紙は一斉に社説で批判を展開します。

【朝日社説】貸金業規制 どこを向いた改正案か
http://www.asahi.com/paper/editorial20060907.html
【読売社説】[灰色金利撤廃]「『特例』容認で骨抜きにするな」
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20060905ig90.htm
【毎日社説】貸金業規制 この業界配慮は何なのだ
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/archive/news/2006/09/20060908ddm005070029000c.html
【日経社説】金利規制「例外」は最小限で(9/7)
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20060906MS3M0600306092006.html

 各紙の社説は金融庁が腰砕けになった理由を自民党を通じた貸金業界の圧力と、金融庁自体の優柔不断な自己都合にあるとしています。

 朝日社説から抜粋。

 なぜ金融庁が腰砕けになったのか。自民党を通じた貸金業界の圧力に加え、金融庁の都合もあるようだ。

 業界の隅々にまで目が届いているわけではない。自主規制機関として育てようとしている貸金業協会への加入さえ、登録業者の半分にとどまる。急に締め付けてやみ金融が増えれば、自らが批判の矢面に立ちかねない。

 だからといって、特例金利などで無用の仕事を増やし、監督体制の拡充に後れを取るようでは元も子もなくなる。

 金融庁の言い分で最も納得しがたいのは、28%の特例金利を8年も続ける理由として、「(業界にも)経過的期間は必要」(自民党片山虎之助参院幹事長)なのはともかく、「規制を強化すると(消費者は)ヤミ金融に走ってしまう」(自民党平沢勝栄衆院議員)という詭弁まみれた消費者擁護論を唱えていることです。

 上記のS氏の例を見ても現実に多重債務に喘いでいるまじめな人々を救うのは29%を28%にしてお茶を濁すことではありません。

 グレーゾーン(灰色)金利を解消することによる貸しはがし(強制取り立て)を厳しく禁止し、かつ特例金利(28%)などのごまかしではなく速やかに適性金利(15%〜20%)にまで金利を下げることです。

 グレーゾーン(灰色)金利こそが多くの多重債権者がヤミ金融に手を染めている元凶である事実を棚に上げて、「規制を強化すると(消費者は)ヤミ金融に走ってしまう」という業界側の主張の詭弁に、金融庁自民党の一部がなびいていることが、この議論が大きく迷走している最大の要因であることは明らかです。



●マスメディアがタブー視するサラ金と大手生保とアメリカ資本のダーティーな関係

 当初業界に厳しく臨んでいた金融庁がどうしてここまで腰砕けになったのでしょうか。

 朝日をはじめ各紙社説が唱える自民党を通じた貸金業界の圧力と、金融庁自体の優柔不断な自己都合もあったのでしょう。

 しかしその分析は間違ってはいなくとも、マスメディアはもっと重要な圧力を読者に隠しているとしか思えません。

 サラ金に資金提供している大手生保、中でも一連の金融自由化により日本に参入してきたアメリカ資本生保の存在です。

 「社長のつぶやき」ブログさんからエントリーを抜粋。

消費者金融

一昨日ブログの「必要悪?」で消費者金融トラブルを挙げさせて頂き、出資法の上限金利引き下げを訴えましたが、今朝の日経新聞に「問われる消費者金融」と題し、アメリカの有力金融集団「フィナンシャル・サービス・フォーラム」がこの上限金利下げに反対の書簡を与謝野金融担当相に送ったとありました。
言い分は「人為的な金融規制は経済に悪影響をもたらす」などです。アメリカの有力金融機関の多くが消費者金融各社に多額の資金を貸し付けているからにほかなりません。
(これは日本の金融機関と同じ構図ですね)
アメリ財務省金融庁に対し金利引き下げ見直しを非公式に求めている力の入れよう。
市民がサラ金地獄と称される多重債務に追い詰められている現実に、金融庁アメリカの圧力との兼ね合いにどのように対応するのか?見守りたいですね。
http://blog.goo.ne.jp/nozakifudosan/e/70ca3a2d27641d22d358c49d67fb6fcc

 8月30日の日経記事に「アメリカの有力金融集団「フィナンシャル・サービス・フォーラム」がこの上限金利下げに反対の書簡を与謝野金融担当相に送った」と記事が記載されていたようですが、この日経記事だけでは読者は何の意味かよくわからないと思います。

 「社長のつぶやき」さんが鋭く指摘しているように、この問題の本質は「アメリカの有力金融機関の多くが消費者金融各社に多額の資金を貸し付けているから」なのであります。

 大手サラ金アコムの場合、2005年度有価証券報告書によれば約7437億円の借入金のうち生保からの借り入れが約1890億円、プロミスでは5570億円のウチ約1950億円が生保を占めています。

 そしてこれら生保の中でサラ金に資金調達している一番手がテレビでも最近頻繁にCMを流しているアメリカ資本保険なのです。

暗躍平成日本タブー大全Ⅲ(宝島社)
大手サラ金と生保がひた隠す、客が自殺しても損しない「死亡保険」
P159資料を参考

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 金融庁は一体全体誰の目を気にしているのでしょうか。

 金融庁及び業界擁護派の一部自民党議員は、自国民、なかでも経済的弱者である多重債務者を救済することを放棄して、アメリカの要求に応えようとしているのではないでしょうか。

 28%の特例金利を8年も続ける本当の理由が、自国民救済を放棄して他国の権益に対する「配慮」であるとするならば、これは国民に対する背信行為と言えましょう。



(木走まさみず)



<木走よりのご報告>

 最近本業が多忙を極めエントリー間隔が乱れて、コメント欄のレスも遅れてしまっております。
 コメント欄においての読者のみなさまとのインタラクティブな議論が大好きな私としては、本当に残念ですが、ここは限られた時間をエントリーに集中させていただき、当面はコメント欄では時間があるときだけ一人のコメンテーターとしてコメントすることで参加したいと思います。
 本業が落ち着くまでの暫定措置としてご了承下さいませ。

 やはり議論できないと寂しいので半日で方針撤回いたしましたです(苦笑