Fool in Trance

それはあった。それは二度とないだろう。思い出せ。

『レディ・ガイ』(ウォルター・ヒル)

レディ・ガイ [Blu-ray]

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 ドタバタしている内にもう2月が終わろうとしている。早いよなあ本当に。現在劇場で見たい新作映画がたくさん公開されていて、『霊的ボリシェヴィキ』に『悪女AKUJO』に『デトロイト』に『スリー・ビルボード』にイーストウッドの新作も始まるし、新作だけでなくて『早春』のリバイバルなんてのも・・・。


 先の週末にやっと映画館へ行く時間が出来たので、喜び勇んで最寄のシネコンに飛び込んだ。で、結局見たのはウォルター・ヒルの最新作『レディ・ガイ』。優先順位的には1番じゃなかったんだけど、空いた時間でタイミングがちょうど良かったのがこれだった。もしや劇場は貸切状態ではないかと危惧していたら、思ったよりはお客さんがいた。(とはいえ三分の一も埋まっていなかったが)


 凄腕の殺し屋フランク・キッチン(ミシェル・ロドリゲス)が組織の裏切りに遭い、フランクに恨みを持つ女医(シガニー・ウィーヴァー)によって性転換手術を施されてしまう。無理矢理女性にされてしまったフランクは、組織と女医に復讐を開始するが・・・というお話。粗筋だけ聞くとどう考えても珍品以外にはなりようのない企画のような気がするが、意外にちゃんとした映画だった。「ちゃんとした」というのは、「馬鹿映画として楽しむ」ような見方ではもったいない魅力を放っているという意味である。


 性転換された殺し屋を演じるのはミシェル・ロドリゲスミシェル・ロドリゲスは特殊メイクと付け髭で男性時代のフランク・キッチンも演じている。男役を演じている時はどことなく「女性が男性を演じている」という風に見えるのだが、性転換されて女性となってからは、どう見ても男性にしか見えないのが不思議だった。こんな突飛な役を演じてそれなりの説得力を持つ女優はそういないだろうなと思う。対する狂気の女医を演じるのがシガニー・ウィーヴァー。ハンニバル・レクターよろしく身体を拘束衣で縛られながら己の美学を滔々と語り続ける。この映画は性転換された殺し屋とこの女医のエピソードがほぼ対等に描かれている。それともう一人、殺し屋を匿うことになる女性が重要な役割を果たす。この3人の女性がそれぞれの立場で連帯したり対立したりする姿がアクションの中に描かれてゆく。


 ウォルター・ヒル監督といえば、中学生の頃にTVの吹替洋画劇場で『ウォリアーズ』を見て以来の長い付き合いとなる。ウォルター・ヒルの映画は、デビュー作『ストリート・ファイター』の頃からやってることはほとんど変わらないように見えるのだけど、いつからか映画の魅力はどんどん薄いものになっていった。最初にあれっ?もしかして面白くないかも?と思ったのは『ダブルボーダー』だったなあ。設定もいい役者もいいストーリーもシンプルでいい、音楽もいい上映時間もタイトでいい、1対1のタイマン勝負の見せ場も外さない、なのに何故か面白くない、という。新作が封切られる度に「今度こそは」と期待して見に行って、毎回失望するという繰り返しになっていた。それが今回は、殺し屋の復讐劇という直線的な物語に、3人の女性が醸し出す陰影が面白いニュアンスを付け加えていて、映画を思いのほか魅力的にしているように思った。果たして、主人公が成し遂げた復讐とはどんなものだったのか。ラストはこれまでのウォルター・ヒル作品とは一味違った情感を湛えていて悪くないと思う。


 さておき、こういうちょっと工夫を凝らした味のあるB級映画の存在はありがたい。ポップな演出をしようと試みたのか、場面転換にアメコミ調のイラストが使われていて、これが何かイマイチだったりするあたりはご愛敬。音楽(テーマ曲)がジョルジオ・モロダーだったりして、これにも驚いた。


(『レディ・ガイ』 THE ASSIGNMENT 監督/ウォルター・ヒル 脚本/ウォルター・ヒル、デニス・ハミル 撮影/ジェームズ・リストン 音楽/ジョルジオ・モロダー、ラネイ・ショックニー 出演/ミシェル・ロドリゲストニー・シャルーブ、アンソニー・ラパリア、ケイトリン・ジェラード、シガーニー・ウィーヴァー、テリー・チェン 2016年 96分 アメリカ)