木田元 最終講義

最終講義

最終講義

最終講義であるからして, 内容は非常に軽い*1. 軽いものの, 木田元による現象学研究の, この時点での総括であることにも違いはないわけで, この辺の内容に通じた人が読めば(軽量だが)良質のサーヴェイであり, 通じていない人が読めば*2現象学が成立した歴史や動機・思惑といった背景が解り易く書かれたガイダンスである.
個人的にはハイデガーよりも後半の講演で解説されているマッハの「現象学的物理学」のアイディアの方がとっつき易く, ここをとっかかりにして現象学を理解できるのではないか, という淡い希望とやる気を起こさせてくれた.
しかし, ダーウィン現象学の契機の一端を担っていたり, クリムトのデザインが現象学の影響を受けていたり. 哲学というのは決して役立たずの思考ゲームには留まらないのだ, という実例が, 今さらながら興味深かった.

追記

ちょうどこれを読んだ直後にソフトウェア工学に関連するとある講演を聴いた. ソフトウェアは, それを利用する組織や社会における経済的損益はもちろんのこと, その慣習や制度といったをも含めて考慮して「デザイン」しなければいけない, といった内容だった(と理解している)のだが, このアイディアの元がハイデガーの哲学にあるらしい. むう, どう繋がるのか, よくわからん.

関連図書

存在と時間〈上〉 (ちくま学芸文庫)

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存在と時間〈下〉 (ちくま学芸文庫)

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マッハ力学史〈上〉―古典力学の発展と批判 (ちくま学芸文庫)

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マッハ力学史〈下〉―古典力学の発展と批判 (ちくま学芸文庫)

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感覚の分析 (叢書・ウニベルシタス)

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*1:とは言え, 「講演を文章におこしたもの」ではなく, 講演のための原稿をもとにした文章なので, 実際の講演内容よりかなり内容はあるようだ.

*2:もちろん僕は「通じていない人」である