ひがし大雪アーチ橋群・タウシュベツ川橋梁見学ツアー

 1987年に全線廃止された旧国鉄士幌線は、もともと大雪の森林資源と十勝北部の農作物の運搬を主とし、1937年〜1939年に造られました。この士幌線は、ピーク時には十勝平野を縦断した急行列車*1もあったが、逆に末期には国鉄再建法による特定地交線指定前に早くも一部区間をバス代行とするなど、かなり早い時期に過疎化(と車への移行)が進行していた路線でもある。発電用ダム湖の湖底に沈むルートを付け替えた関係で糠平地区に2種類の廃線後があるのも風変わり。
 廃線後の2001年に「北海道遺産」に指定された“旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁群(ひがし大雪アーチ橋群)”は、日本の初期コンクリートアーチ橋として全国的にみても貴重なものだとか。その中でも、糠平湖のダム底に沈むことになったタウシュベツ橋梁*2は、春〜秋に水を貯め湖底に沈み、冬には電力使用量の増加によりダム水位が下がり、湖表の氷が橋梁を削りながら湖上に姿を現すという「幻の橋」。第二次大戦前の1937年に造られ、金属が不足する時代に鉄を極力使わずに殆どをコンクリートで仕立て上げたというから、当時かなり重要な役割を果たしたのでしょう。今年のJR「フルムーン」のポスターにも使われていて、こちらは新緑が映えた美しい写真です。

 冬に、このアーチ橋まで湖上を歩いて見学に行くツアーがあると知って、東京の友人id:tech_k氏と無理矢理に予定を合わせて*3やってきました。スタート地点から往復4kmを、かんじきのようなものを履いて歩く。途中は大雪の白樺林と糠平湖の湖上。アーチ一つはだいたい10mぐらいのスパンになっているそうだが、遠くからみると壮観・近くでみると圧倒という感じ。鉄筋は上部のごく一部にしか使われていなく、コンクリート自体は人の頭ほどもある石ころなどが混じるなど粗造だけれど、当時蒸気機関車などが通過できる強度を保ち、今でも*4側面を削られながらも立派な姿を見せている。しかし、ガイドの方曰く「アーチが保つのはあと5年くらい、その間に大きな地震がきたらもう終わりだろう」と。年々劣化がわかり、それもこの1・2年で鉄筋の露出するスピードが急速に進行したとか。ところが、役目を終えた鉄道橋、それも風化具合が評価されているだけに、補修するというわけにもいかず*5、もう後数年といわれる命をただ見守ることしかできないという。

ダムの水が少ない1月頃から凍結した湖面に姿を現し、水位が上昇する6月頃から沈み始め、10月頃には湖底に沈みます。このように、季節によってその姿が見え隠れするアーチ橋はここだけです。幻の橋といわれる所以です。
上士幌町役場:旧国鉄士幌線アーチ橋梁群

 帰りに、宿泊したホテルの売店で置いていた、この写真集がその感を高めてくれました。撮影は自らを「土木カメラマン」といい、こういった土木遺産から近年竣工した橋梁など様々な巨大建築物を撮影されているとのこと。この橋梁は幻の橋たる不思議さと背景の大雪山系の美しさが相まって魅力を引き出している、ということがよくわかります。一度行き、写真集を見。先わずかとはいえまだ見られる可能性がある「幻の橋」が、本当の幻になるまでに、ポスターのような新緑の中に埋められた姿を、もう一度この目に焼き付けに行きたい、更にそう思わずにはいられませんでした。

タウシュベツ―大雪山の麓に眠る幻のコンクリートアーチ橋

タウシュベツ―大雪山の麓に眠る幻のコンクリートアーチ橋

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*1:昭和40年代、糠平〜帯広〜広尾線広尾(廃止)を結ぶ急行「大平原」という列車があった

*2:タウシュベツ橋梁自体は、保存の困難さから遺産指定対象外

*3:そもそもその週明けが札幌出張だからという話で予定を立てたのに、出張なくなったとかで、お互い前後が休めず金曜夜出発・日曜夜〜月曜朝帰りという超強行軍。

*4:急速に劣化しているとはいえ

*5:実際には金銭面の問題が大きいとも