過失相殺率や判例に関する文献

1 東京地裁民事交通訴訟研究会 編「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」全訂四版、
 別冊判例タイムズ16、判例タイムズ社、2004年。
2 財団法人日弁連交通事故相談センター 専門委員会 編「交通事故損害額算定基準」
 財団法人日弁連交通事故相談センター、初版1970年、20訂版2006年。
3 財団法人日弁連交通事故相談センター 東京支部 編「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」
 財団法人日弁連交通事故相談センター 東京支部、初版1969年、第38版2009年。
4 安藤猪平次「新版 自転車事故の過失相殺 判断基準と判例の検討」
 交通事故判例速報別冊、交通春秋社、上巻 第XI号、2002年。下巻 第XII号、2003年。
5 道路交通執務研究会 編著、野下文生 原著 「執務資料 道路交通法解説」
 東京法令出版、初版1976年、14-2訂版2008年。ISBN:4809011836


交通事故の過失相殺率の基準として1〜3が広く用いられているようです。2は「青本」、3は「赤本」などとそれぞれ俗称されています。
1は東京地裁民事第27部の裁判官が中心となって討議・作成したものです。同部は船舶または航空機事故によるものを除く交通事件訴訟を集中して担当しています。事故態様等を細かく分析し、それぞれの類型について過失相殺率の基本割合及び修正要素毎の数値を示しています。個別裁判例の分析・紹介は割愛されています。
2は判例の紹介が豊富です。1と3に示された過失相殺率も対比して表に掲げられているので、文献ごとの数値の異同が明らかです。ただし修正要素は例示にとどまり、数値は示されていません。
3は実物を未だ見たことがありません。


4は拙稿'04/6/1'06/3/13付既出。自転車事故に関し1〜3や5を補うのに有益です。
5は拙稿'06/5/22'07/2/14'09/2/6付既出。警視庁及び各道府県警本部の法令解釈の拠りどころとなっている文献と思われます。判例も法本則逐条で豊富に紹介されています。過失相殺率に関する記述はありません。

過失相殺率の基準と修正要素

過失相殺率の基準と修正要素についての考え方は上掲判例タイムズ」に次のように示されています。

 過失相殺については、本書に過失相殺率の認定基準を示しているが、これは事故の態様、類型に応じた一応の目安を示しているものであって、事案の内容に応じて、適宜修正要素等も加味しながら、個別、具体的な妥当性を求めるべきものである。

修正要素の例として。

5 その他修正要素として用いられる用語 (3) 著しい過失
 事故態様ごとに通常想定されている程度を超えるような過失をいう。
 (略)
 ここで酒気帯び運転とは、酒気を帯びて車両を運転すること(法65条1項)であり、酒酔い運転を除く。罰則(法117条の4第2号*1 )の適用があるか否かを問わない。(略)(従前、身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあることとされていたが、昭和45年の法改正によって、酒気を帯びた場合のすべてが禁止された。)


具体的な事故態様における過失相殺率・修正要素はたとえば次のようです。


直進自転車と左折四輪車(数値は自転車の過失相殺率、「青本」-「赤本」-「判例タイムズ」の順。「青本」から引用。)
 四輪車が先行の場合
  四輪車が予め左側端に寄っていた場合  20-10-10
  四輪車が予め左側端に寄っていない場合 10-10-10
 四輪車が自転車を追越し左折する場合     0- 0- 0


修正要素
 「青本」(数値なし) 
  加算要素:自転車の高速度進入、自転車の著しい前方不注意
  減算要素:四輪車の合図遅れ・合図なし、四輪車の大回り左折・進入路鋭角
 「判例タイムズ
  自転車の著しい過失又は重過失 +5〜10
  自転車の自転車横断帯通行    -5
  (略)

*1:引用者註・現117条の2の2第1号。拙稿'05/6/10付