さがしています

さがしています (単行本絵本)

さがしています (単行本絵本)


人によって作られて、人の生活の中で使いこまれてきた道具たちは、人と一緒の時間のなかで、人と一緒の物語を紡ぐ。
人と一緒のリズムで呼吸しながら。
使いこまれた道具と人とは気の合う相棒のようだ。
だけど、ある日、なんの前触れもなく、突然、相棒が消えてしまったら。
傍らで常に聞こえていた心地よいリズムが、ふいに消えてしまったら。
突然、置き去りにされてしまったら。


道具は律義にずっと相棒をさがしているのだろうか。
物語の続きが始まるのをずっと待っているのだろうか。


アーサー・ビナードさんが、広島の原爆資料館で聞いた「声なきものたちの声」と、見えてきた「持ち主の暮らし」を、
岡倉禎志さんの写真とともに、絵本にしてみせてくれた。
ものたちの姿と、ビナードさんが聞いた声と。そして、巻末には、持ち主のエピソードが。
あの刻限のまま止まった時計、ぼろぼろの軍手、今食べるばかりの弁当箱…
こんなふうに、単語を羅列しただけでも、やはり、その単語の向こうに、生きた人々の、かけがえのない「物語」が、感じられる。
資料館の地下収蔵庫の2万1千点の中から、選び抜かれた14点。
とても続けて読むことはできませんでした。
その一番最後の写真を見たとき、その言葉を読んだとき、とうとう涙腺が決壊した。
朽木祥さんの『八月の光』の一場面が鮮明に蘇ってきて、どうにもこうにもたまらなくなってしまった。


アーサー・ビナードさんの「あとがき」の言葉が、心に残ります。

>「原子爆弾」も「核兵器」も、核開発をすすめた人たちがつくった呼び名。
それに対して「ピカドン」は、生活者が生み出した言葉だ。
生活者によって生み出された言葉は、「道具」に似ているのだ、と初めて気がついた。


*追記
表紙の写真、小さな画像で見ると、小さな亀か蜘蛛のように見える。下を向いて、砂の上で無心に何かを探しているように見える