グラン・ヴァカンス / 飛 浩隆

昔読んで、記憶の断片に残ったままずーーーーっと探していた。

記憶の中にあったのは、石に宿した力を使う物語っていうところだけ。
それから、なぜか「鉱泉ホテル」というキーワード。

本屋に行くたびに、小説コーナーを見て回っては表紙が全く思い出せない。
これかなと思ってめくってみても、たいがいはずれ。

結局、昔の彼女のおすすめだったし、彼女のだったからしょうがないけど
もどかしくてしょうがなかった。
ただ、その面白さだけは覚えていてどうしても思う一度読みたかった

それが、あった。

仕事先の大学病院の生協に平積みでポンと置いてあった。
そして、その表紙を見たとき、記憶の回路が光の速さでつながった。
あっけないもので5年以上を費やした探索が
「あ、これだ・・・」
で終わった。

そして、ちょっと学生の目が恥ずかしながら即買いして・・・・

ここからレビュー



バーチャルリアリティー空間の物語って書くと、夢の話を聞かされているようで
あまり食指は動かない人も多いだろう。
しかし、この物語は違う。
飛浩隆の言葉の力に圧倒され、世界の中にあっという間に没頭してしまった。
それが二回目でも、だ。


仮想リゾート「数値海岸」の一つ「夏の区界」。
そこに「数百年」暮らすAIたちに起こる突然の災厄。
区界に暮らすAIたちがその「災厄」に立ち向かう。


仮想空間の登場人物というものは、極端な話
ドラクエの村の人だ。
「武器は買ったら必ず装備するのだ。」
と、何を聞いても言い続ける不気味な村人。
そして、単なる風景の一つ。
そんな認識でいると、何してもぜんぜんOKという気持ちになるのも当然だろう。
勝手にタンスを開け、樽をひっくり返す。
だが、彼らに実は高度なAIが備わっており
プレイヤーの知らないところで帰る家があって、家族がいて、
愛する人がいるとしたら・・・。


AIが人間たる時代はいずれ訪れるのだろうか?
AIに人格を持たせることはできるのか?
果ては、AIに「人権」あるのか?


そんな問いに飛浩隆は緻密なバックグラウンドの虚構世界をもって
一つの答えを示してくれている。



なぜ、そこに世界があるのか?
夏の区界とは?
襲ってくる災厄「蜘蛛」の正体とは?
それに対抗するAIの切り札「石」になぜ力があるのか?


AIは何者なのか?



すべて、解決されず物語は終わる。


そして、以前は勧められたのに全く読まなかった第2章
ラギットガールですべての答えが明かされる。




久しぶりに、電車降りたくないほどの小説を読む。