若冲とジョー・プライス

 いまの日本で江戸時代の絵画に興味のある人はどれほどいるか定かではないが、ブログを見る限り今の若者でも関心ある人は少なくないように感じられる。

 むしろ、江戸時代に伊藤若冲なる画家がいたことを知らなかった自分自身が恥ずかしい。

 若冲になったアメリカ人(ジョー・プライス著)が小学館から発刊されているが、この書は、江戸時代の絵画の美意識が世界で一流だと確信したアメリカ人の収集の歴史を著者自身が語っている。

 著者が初めてニューヨークの画廊で買った作品を、本人は若冲の絵とは知らなかったそうで、「どういうものかわからないままに、ただ欲しくてたまらなくなった」と述べている。

 これが衝動買いというものなのか?この著者の若冲コレクション(109点)の基礎をなしていると考えると、驚きというより奇跡を感じる。

 若冲については、書物なりネット検索でもしてもらえれば詳しいことが書かれてあるが、他の一般的な画家のイメージとは異なる。

 昔から、「芸術家=貧乏」というイメージが強いし、実際もほとんどといって例外はないといっていいように思う。

 それが若冲に限っては、18世紀の京都の金持ちの家に育ち、金にあかせて良質の絵の具を使い、思うままに画を描き、そしてそのスタイルを最後まで貫き通したそうである。

 狩野派や円山派のようなコスト意識はさらさらなく、そこが若冲の異常な面白さ?で当時の日本人には理解されなかったようだ。

 その若冲を理解したひとりがアメリカ人のジョー・プライス氏で、彼によって若冲の絵はメジャーになったのは何とも皮肉なものだ。

 プライス氏自身も資産家の家に生まれ育ち、機械工学や建築を学んでおり、若冲との共通点があるということは大変興味深い。

 江戸時代の画家といえば、狩野探幽・丸山応挙などは知っていたが、伊藤若冲なる貧乏とはほど遠い金持ちのぼんぼんなる芸術家が存在し、しかも同じような境遇に育ったアメリカ人との時代を超えた出あいに魔可不思議さを感じられずにはいられない。

 ちなみに著者プライス氏の妻は日本人だそうだ。

 若冲展が6月で終了してしまったのは残念!!