妻籠の旅、そして二重国籍のこと再び

1. A子様、豪州シドニーからのメール有難うございました。


大学時代の友人2人が遊びに来て、一緒に旅をしました。旅を終えて、すぐに田舎家をたたんで帰京したばかりです。そんなことで、返事が遅くなり、失礼しました。


旅は、南信の昼神温泉に行き、木曽路を走り、妻籠馬篭を歩きましたが、なかなかよかったです。妻籠を歩きながら友人が「イギリスのコッツウォルズを思い出すね」と言ってました。
英国には山はないけど、「木曽路はすべて山の中である」(島崎藤村『夜明け前』)。その違いはありますが、たしかに雰囲気が似ています。

A子さんも昔、2度行かれてそのうち1度はオーストラリア人の夫と2人旅だった由。
「1月の寒い時期で、とても雰囲気があった」。
時期は違いますが、きっと、冒頭の写真のような姿だったかなと想像しています。



2. 私は、日本の観光地を殆ど知らないので、どこに行っても新鮮ですが、今回の木曽路はとくに印象に残りました。


(1) 妻籠(つまご)と馬籠(まごめ)は、かっての、中山道の隣り合う宿場。いまは前者が長野県南木曽町。後者は岐阜県津川町です。
(2) 馬籠は島崎藤村の生地で、本陣かつ庄屋の家に生まれ10歳まで過ごしました。いまは記念館になっています。
彼の母は隣の宿場・妻籠の、やはり本陣の家から嫁してきました。
(3) 馬籠は明治の末に大火で焼け、その後復元された。他方で妻籠はいまだに江戸時代の家々が残ります。
そして妻籠は「昭和40年代初め、率先して町並みを保存する運動に取り組みました」
「町並みを守るために、家や土地を『売らない・貸さない・壊さない』を中心とする住民憲章をつくり、ここで生活しながら、江戸時代の町並みという貴重な財産を後世に伝えています」と、パンフレットにあります。

(4) 私個人としては、妻籠に魅力を覚え、若い元気なころにここを中心に旧中山道を歩いてみたかったな、と思いました。
(5) ところが面白いことに、馬籠の方が知名度は高いからでしょうか、観光客はこちらの方が断然多く、団体客で賑わっていました。


3. 以上、旅の報告が長くなりましたが、A子さんからのメールの趣旨は、前々回のブログ「豪州の国会議員の二重国籍」問題を読んでの現地からの発信で、たいへん勉強になりました。

(1) まず、なぜ今ごろ大問題になったのか?の説明を頂きましたが、
「ある弁護士が、ニュージーランド(NZ)生まれの某議員が二重国籍を持っている可能性ありとNZ当局に調査を依頼して判明した」というのが事の発端とのこと。

(2) しかも、この調査依頼には政治的動機はなく、熱心かつ深く憲法に興味を持つ一市民として行なった」と言っている由。

(3) さらに、この弁護士自身もNZとオーストラリアの二重国籍保持者である。もちろん、彼の場合は国会議員ではないので全く問題はない。

これがいま大問題になり、数人の議員が辞職した上に、最高裁の判断待ちになっている事件の発端だそうです。


このように、豪州の場合、一般市民は二重国籍を認められている。
しかし、憲法によって、連邦議員にだけは例外的に認められない。

二重国籍を認めている国でこういう特別規定を持っているのが豪州の他にあるかどうか、不勉強で知りません。しかし前回紹介した「Economist」誌は、「他にはアメリカの大統領がnatural born citizenでなければならないというルールがある」とだけしか書いていないので、他国にはないのではないでしょうか?


4. これに対して、日本は前述したように、二重国籍を認めない。
従って、日本生まれで、その後他国に移住した、ノーベル賞受賞の南部・中村両氏やピアニストの内田光子、5歳のときに移住したカズオ・イシグロ・・・各氏は何れも、アメリカや英国の国籍を取得したときに国籍法11条を守って日本国籍を放棄した筈です。

A子さんの場合は存じませんが、、豪州人と結婚した後も、日本国籍を維持しておられるとすると、豪州の(永住権は保持しているが)市民にはなれないとうことでしょうか。

逆に ドナルド・キーン日本国籍を取得したときにやはり11条に沿ってアメリカ国籍を放棄した筈です。

他方で、孫のように、日本人の親から英国で生まれたので、現時点では二重国籍
14条に従い、何れどちらかを選ばねばなりません。
言うまでもなく、二重国籍を認めている国の方が大勢で、ロンドンに住む娘の友人や同僚にはフランス人、イタリア人、ロシア人やオーストラリア人など、皆パスポートは2つ以上持っています。


A子さんの説明では、豪州の連邦議員の二重国籍問題では、与党の副首相が孫と同じケースですね。
「父親がNZ 生まれで、オーストラリア生まれの彼自身はこのことに気づいていなかったというものです。
現在、最高裁による憲法44条の解釈、判断を待っているところです。
多分来月10日頃にrulingがおりる予定ということです。」
とのこと。


5. 最後になりますが、A子さんのメールの以下のコメントに大いに共感しましたので、これを紹介して終わりにしたいと思います。

「(1)国会議員の二重国籍問題ではなく一市民の二重国籍問題ですが、
私も日本国に二重国籍を認めて欲しいと切に願っている者です。
3ヶ月前にパスポートの切り替えのため領事館に行った時に、日本に二重国籍を認める動きがあるのでしょうかと聞いたところ「ありません!」とけんもほろろに言われてしまいました!


経済だけがグローバル化するのではなく、人と人、国と国、文化と文化の交流が大切なはずだと思いますので外国で頑張っている?日本人に対して二重国籍を認めて欲しいと願っていますが…



(2) ドナルド キーンさんですが、東日本大震災の時の日本人の謙虚に耐え忍ぶ姿を目にして、
「この国の人たちと共に死にたい」と思って日本国籍を取得されたと聞きました。
戦後、キーンさんの様な日本を深く理解し、愛してくれるアメリカ人がいてくれたことは日本にとって幸運であったのではないでしょうか。
その彼が今は日本国民なのですから、素晴らしいです!」