『つげ義春の温泉』

つげ義春

(2012年6月10日刊行,筑摩書房ちくま文庫・つ-14-10],東京,222 pp., 本体価格780円, ISBN:9784480429537版元ページ

モノクロ写真・マンガ・エッセイの三点セット.この陰々鬱々とした湯治場のうらさびれぶりが格別に好ましすぎる.「やりきれないほど侘しい.…こんな侘しい所に泊まる者はいないのではないか.しかし,暗くて惨めで貧乏たらしさに惹かれる私は,穴場を発見したようで嬉しくなった.屈託したときはここへ来て,太い溜息でもつくには格好の場所である」(『つげ義春の温泉』p. 212).予定調和的に屈折してるなあ…….寂れた湯治場を「姥捨て」だの「世捨て」と言いつつ,賑やかな温泉場を忌避してしまうキャラクターの著者.『つげ義春の温泉』の時代設定は「昭和40〜50年代」.ほんの数十年前の写真やエッセイだが,そこに漂う雰囲気は大正時代の温泉紀行本:田山花袋温泉めぐり』(2007年6月15日刊行, 岩波書店岩波文庫 31-021-7], ISBN:9784003102176)にかぎりなく収斂している.天動説な著者であることを実感した.