インポッシブル

 スマトラ沖地震津波に襲われた四人家族の生還を描いた、勇気と希望と絆を謳う「感動作」らしく、この手の感動作は、今時は当然、例外なく「実話に基づく」ことになっている。もはや虚構には遊戯の悦楽しかなく、人間を感動させる力などない、ということが共通の了解事項になっているのだろう。一応被災者や医師・看護師のボランティアに敬意を表すると言明しているものの、メイキング・ビデオを見ると、津波を再現する技術的仕事に、スタッフ一同嬉々として従事している。
 私も心を動かされたが、それは私の身近に直近で死者(被災による死ではない)がいたためであって、この映画の話に「感動」したわけではない。むしろ、運というものの無慈悲さを改めて思い知らされただけである。これは被災者の生きるための苦闘を描くというより、ある家族の幸運を描く話に過ぎない。あるいは、話の中に、希望を持ち、意志を用いれば必ず報われるものだとか、他人を助けるものは必ず自分も救われるものだとかいう教訓を、こっそり忍ばせているとも思われた。そんな教訓など、絶対的不運の前では嘘っぱっちであることを言わんとして、嬉々として津波の破壊力を再現して見せたのではなかったのか。観光地であるとは言え、現地の人間も大勢被災したはずだが、そちらはあまり描かれない。あまつさえ無事再会なった家族(実話はスペイン人だが、アメリカ人に変えられている)は、よほどいい保険でカバーされていたらしく、被災者がひしめく病院を抜け出し、チャーター機で、よりよい病院のあるシンガポールに向かうのである。被災者の過酷な生き残りのための行動を、まるでわがことのように辛くも経験させられた観客にとっては、タイを脱出するこのラストシーンは、必要な映画的カタルシス場面ではあるが、よく考えると少し興ざめである。


2012年 スペイン J.A.バヨナ