『アビイ・ロードの伝説』_Posted at 09:08

アビイ・ロードの伝説」と聞くと、
ビートルズを連想する方は少なくない。
けれども
その伝説が生まれた場に注目する人間は
決して多くはない。

もちろん
彼等の逸話も盛り込まれているけれど、
エンジニアを始めとするスタッフ
アラン・パーソンズ!!)の証言など
その周縁から中心部を攻めていくのも
中々面白い試みである。



アビイ・ロード
今の技術を支える
さまざまな実験的な録音を行った
間違いなく記念碑的なスタジオだ。

「ジョージ6世とエリザベス2世女王の戴冠式も、
BBC経由でウェストミンスター寺院
アビイ・ロードを結ぶ通信回線で録音」(p26)

「1946年、[…]
戦争中にドイツで行われた
磁気録音の開発を研究するために訪れた。[…]
彼らは
(=アビイ・ロード関係者を含むオーディオチーム)
軍備装備のなかに、
ドイツ軍司令部が暗号解読に使った、
磁気テープを利用した
モニタリング・システムを見つけた[…]
磁気テープの導入により、
それまでより
はるかに自在なレコーディングができるようになった。」
(p34)

技術者だけではない、
製作者やマネージメント関係者の
果敢な挑戦も見逃してはならないだろう。
例えば
かのジョージ・マーティン

ジョージ・マーティンは、[…]
前任者からコメディ熱をいっしょに引継ぎ、
しきりに失敗と挫折を予測する
先輩たちの忠告をよそに、滑稽路線を突き進んだ。」
具体的には
ピーター・ユスティアノフ
(こっちでいう
声帯模写で有名な江戸屋猫八のようなコメディアン)
の一人オペラや
「セッションは必ず衝撃や轟音とともに終わる」(P43)
ピーター・セラーズ(『博士の異常な愛情』出演)
との危険な録音である。


失敗を恐れない実験と経験が
ビートルズへ技術的な後押しとなった。
なぜなら
彼等の音楽が
「このスタジオで録音され、
あるいはミキシングされ、アレンジされ、
カッティングされている」(p113)からだ。
彼等の世界的な成功によって
アビイ・ロード
もしかしたら
ビートルズ記念館になっていたかもしれない。
しかし、
アビイ・ロードはそれを選ばなかった。




アビイ・ロードは65年にわたって
ありとあらゆるタイプの音楽録音と
ポストプロダクションを
一手に引き受けてきた稀有なスタジオだ。」(p192)

アビイ・ロードの持つ
伝説の意味とは
過去の栄光を湛えつつ
現役のスタジオとして
今尚そこに生き続けているということだ。