7日(水)C5:インターネットガバナンス:過去、現在、そして未来

プログラム自体は、タイトルのリンクを参照。僕が最初に50分ほど概要を一通り喋り、次に丸山直昌さんがIAHC - International Ad Hoc Committee について喋る、その後はパネルディスカッション、という体裁。
僕の部分は2004年5月に日経ネット時評に書いて以来(あれも実際はかき始めたのは年始くらいだった)、何度となくインターネットガバナンスに関してお話させていただく機会を頂いて、その時々に、またそれ以外のときにも、あれこれと考えてきたことの総大成のような趣きで書きあがって、喋るときも含めてそこそこの満足感があったのですが、パネリストの錚々たる皆様を前にすると、なんとも浅薄だなぁというか、ちょっと技術寄りの運営担当者の低い視点でしかないなぁと思い知らされる思いがしました。
 
パネルディスカッションは、実物を見るとさすがに凄い人たちを呼んだものだと思いました。
ICANN GACチェアである、マレーシアの Sharil Tarmizi。彼が好んで喋る、three blindsの話。「同じ象を触っているのに、あるものは大きな木の幹,あるものはひも,あるものは壁だという。皆正しいといえると同時に、皆間違っているともいえる」。これで3度目に聞くんだけど、いや、確かにインターネットガバナンスというものに関してはそれぞれがそれぞれの視点を持っていて、問題意識が違うってことですが、今回のパネリストの皆さんをとってもそうですね。
日本政府のGACやWSISへのdelegate総務省データ通信課の藤本さん。日本政府の民間主導体制支持を触れながら、WSIS Prepcom3での苦労話などご披露。
ICANN Board、富士通 経営執行役の加藤さん。ICANNはそりゃつっこまれるように問題点も多いが、それを過去に例を見ないほどのスピードで解決してきている。それに比べると法律や条約を調整して制定することは非現実的な時間が掛かるのだ、と、ご自身のお仕事の経験から。WSISチュニスのときの日記に書いたように、インターネットは国境や場所制約の少ないインフラで、インターネットの社会はそういう社会だとすると、インターネット社会を律するルールは、国際条約と国内法の連携なくしては作れないということになるわけで、それが例えば10年掛かるっていうのはもはや非現実的です。そういうところにも、インターネットが作ってきた対話の手法,動かしながら作っていく手法、そういうものが多少でも参考になるといいのかもしれない。IGFが、拘束力がないにせよ国連の下でマルチステークホルダー・アプローチで動くというのはそういうことを可能にしていく可能性があるということであってほしいと思います。
IGTF事務局長、だけじゃ足りないけど、会津泉さん。今回の会津さんの発表、ご本人も「野党的」と評していましたが、極めて辛口。WSISチュニスは成果を強調する論調も多い中、あらゆる勢力が勝利宣言するくらい多義的で、確固たる成果は一体どこにあったのだろうか、と。うん、そうですよね。だれかそれを言わないといけないんだと思います。ただ、僕の立ち位置からはやっぱりできるだけ現状の成果を認め次に進めたいという感じになるので、ああは評せない。
JPRS堀田さん。ccTLDレジストリの立場から、淡々と状況分析なさっていました。時間足らなくてごめんなさい。
 
僕の概説のスライドでもそう書きましたが、チュニスアジェンダの第35項に書いてある(超要約ですよ)、

インターネット問題は技術的側面と公共政策的側面があって、それぞれの関係者で協力しながら進めるべきである。

  • 国家主権は公共政策
  • 政府間組織は公共政策の調整
  • 民間セクターは技術と経済活動
  • 国際インターネット団体は技術規格や関連政策
  • 市民社会は地域社会のインターネット問題

というのがやっぱり象徴的で、僕の中でもやもやしていたことの整理になっています。それは、前にも書いたとおり当然のことなのですが、市民の権利を守る云々の公共政策は国家主権以外にありえず、その調整は政府間組織にしか担えない。技術と技術政策は、今までちゃんとやってこれたように民間や民間国際組織がちゃんとやればいいし、ちゃんとやらないといけない。市民社会は、国家が感知できないような社会レベルの問題をやるんでしょう、ということだろう、と。勿論、公共政策と技術政策の境目はどこですか、とかあるんですけどね。
 
インターネットウォッチの記事が、相当的確に僕が言ったことを要約してくれています。