たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

花見沢Q太郎作品の中毒性を、初期作品から考えてみる。

●今も昔も花Q●


いやー、「スイカと海と太陽と」を買いなおしたのですが、なんだろうこの中毒性。
作者の花見沢Q太郎先生、略して花Qは今でも「REC」「ももいろさんご」で人気のあるマンガ家さんです。ちょっとエッチな作風で知られている彼は、元々エロマンガ出身でした。
エロマンガといっても、そんなにドギツくエロではないんですよね、今の青年誌に載せられるくらいです。
その後、ヤングキングエロコメや特殊なタイプのマンガ(白い月光、冒険どきの私達伝説など)を描き、今に至ります。
 
花Q中毒患者、結構いらっしゃると思うんですよ。
自分はもちろん中毒患者です。「夏の日」「月家の一族」あたりからさらって、一通り読んできた気がします。
激烈に心くすぐるエロがあるわけでも、ダイナミックなストーリー展開があるわけでもないのですが、どうにも心にするする入ってくるような描写と、病み付きになる絵柄。ほんと花Qマジックとしかいいようのない魅力があるんですよ。
今回は初期作品の「スイカと海と太陽と」「HONEY BLUE」「痛快すずらん通り」あたりから、その魅力を自分なりに考えて見ます。
 

●ファーストインパクト・シュールなコマの多さ●


「スイカと海と太陽と」から。
はじまって数ページでこれです。
これはなんだろう?とキバヤシばりに意味を考えたくなりますが、はっきり言って全く意味のないコマです。本編との絡みもまったくありません。
 
とにかく花Qマンガといえば、こういう謎コマが多いのも魅力の一つ。初めて見た人で一番心に残るのは、まずこういうコマかもしれません。だってシュールすぎるんだもの。

このなんともいえない間がたまりません。なかなかこれを素で描ける人はいない気がします。

また、花Qといえば、カバー裏のぐだぐだ近況マンガ。これもほんと、意味があるのかないのか分からないノリと、妙にマッチョな自画像、バニーの奥さんという不思議ワールドが魅力。これ目当てに本を買う人もいたとかいないとか。
中毒性、という意味ではこのシュールさは大きなエッセンスになっている気がします。でもそれだけじゃただの色物。花Qのよさは、やはり本編の中に、山のようにあります。
 

セカンドインパクト・繊細でやわらかい少女像●


「痛快すずらん通り」より。
花Qの描く少女像って、ものすごく柔らかいんですよ、線が。柔らかいけど独特の骨格の硬さがあって、非常にほっそりとした少女性の強いキャラクターになっています。

そして、抱きしめたら壊れてしまいそうな、少女独特の脆さがにじみ出ています。これは今のRECなんかでもそうですよね。ガリガリというわけではなくスレンダー。幼児体型というわけではなく少女的。
この線の細さが非常にエロいんです。ここが中毒になるポイント。
別にロリコンの人じゃなくても、花Q絵って、男性から見た女性の感覚をすごい細かいところでつついていると思うんですよ。
なんだか、触れたら壊れてしまいそう。すごく柔らかい。ときどきガラスのように硬く鋭い。
それが現実であるかどうかは別として、そういう男の中に眠っているぼんやりとした「女性のイメージ」が、少女の形を借りて具現化されているんですよね。
ふっと初めて触れた、女の子の手の柔らかさ。
それが、花Qマンガの女の子の描き方だと思うのです。
そんなときめく女の子描かれたら、中毒にもなるってものです。
 

サードインパクト・顔を赤らめた少女描写の秀逸さ●


「スイカと夏と太陽と」より。
シチュエーションがまたいいんですよこれ。主人公の先輩と、この子がエッチしていたところを偶然見てしまった後に、弁解するシーンなんです。
花Qの描く少女は、とにかく赤面します。いや、赤面だけではないです、感情表現がものすごく豊かな子が多いんですよ。ものすごくいつも笑顔だったり、めちゃめちゃ怒ったり、ぐちゃぐちゃに泣いたり。その感情がわくごとに、赤面するわけですが、ものすごく激しい感情でありながら、これがまたほんのちょっぴり硬めな表情なのです。こりゃ心もわしづかみにされます。

主人公と流されるままエッチしてしまった経験のある少女が、「友人とも、その、したんでしょ?」と問いたずねるシーン。この独特な表情、複雑な感情、羞恥の感覚。お見事であります。
初期でこれだけのことをしていますから、現在ではさらにこの花Q表情の妙は洗練され磨かれていますよネ。「REC」の赤のかわいいことときたら。
 

●フォースインパクト・ぬるま湯のような空気と、張り詰める感情と●

花Q作品の最大の魅力は、ぬるーく進む展開と、山場での主人公達の心理のせめぎあいのバランスだと思います。
ちょっとここで、花Q作品で一番自分が大好きなHONEY BLUE」を元に考えてみたいと思います。

剣道少女の朝が、偶然覗かれたことをネタに、幼馴染の陽太を(性的な意味で)もてあそぶという、なんともドリーミンな話。陽太が徹底的に前半振り回されっぱなしなので、そういうのが好きな人ならたまらないのではないかと思います。
ある種、主従関係にも似たこの二人ですが、そのうちだんだん微妙なバランスの変化が生じてきます。

ほっそりとした少女体型と、花Q赤面のコンボ。これはキきます。
明らかに主導権は朝の方にあったのに、こういうシーンが反復されて徐々に朝が陽太に心が傾いていくんですよ。その描写がとにかく秀逸。
 
時間の流れは非常にゆったりとしています。なんだかぐだぐだとした日常を送っているのもまた花Q作品の魅力です。なんとなく一緒にいて、なんとなくエロいことして、なんとなく一日が終わるのです。そのゆるい時間にうらやましさすら覚えるのですが、きちんとヒロインの感情の機微も描かれているから、見ていて男性主人公キャラと同じような時間の流れで、恋をしてしまいそうになります。

気が付くとすっかり心が振り回される側に。ツンデレっていうレベルじゃないです。ほんと、花Q赤面の表情のバランスは最高です。このなんともいえない宙を見る視線に、読者は恋をしてしまうのです。つか自分が恋をしました。
この後も基本的にはダラダラとした日々が過ぎていくのですが、なんともそれがオタ的に理想のようなぬるま湯っぷりです。どうでもいいキャラが突発的に登場したり、どうでもいいコマが突然挿入されたりしながら、恋愛感情はちょっとずつ変化をしていきます。
こういうぼんやり感が非常に温かく、そしてエッチィのですよ。
 
しかし、そんなぬるま湯もずっとは続きません。「スイカと〜」も「痛快〜」もそうですが、不可避な別れのような一大事件がおきます。
「本当にいつまでも一緒にいられる日々は続けることができないの?」
「気づかなかったけど、本当は私達の関係はなんなのだろう」
ヒロインの心理がグラグラと動き始め、悩んでいきます。その一連の心理描写が花Qの巧みな手腕で描かれていくからたまらない。特に派手なことをするわけでも、おおげさなことをするわけでもないんですよネ。ヒロインの感情を、やさしく表情で描いていくからいいんです。

悩みに悩み、体を壊すほどに悩んだ朝が、出した結論。ただひたすらに彼女の表情と行動でその追い詰められっぷりを描いたあとに、ベッドでこんなにかわいらしい姿態を見せられたら、読者の心が揺れるって物です。ほんと、その微妙なツボをおさえていらっしゃる。エロくてキュートすぎです。めっちゃ剣道強いけど、今にも壊れてしまいそうじゃないですか。

最後に離れ離れになるのですが、再会します。
このくだりは、気が強く陽太を支配しているような朝だったからこそ、ぎゅっとハートにきます。時々ぬるぬるとした時間の流れを描く花Q節ですが、こういう締めるところをぎっちり締めるから、くせになって何度も読んでしまうんですよね。
 

●繊細な花Q少女中毒になろうじゃないか●


「スイカと海と太陽と」より。
男キャラやシュールキャラも魅力的ですが、やはり花Q作品の中毒性は何よりも少女キャラクターの繊細な心理描写と、下品ではない少女らしいエロっぽさにあると思いました。
非常に独特な力の抜き具合ができる漫画家さんだと思います。そして、独自の花Q中毒患者をこれからも生み続けることでしょう。
「白い月光」「冒険どきの私達伝説」はエロなしの冒険物語、「REC」はラブコメ度の高い声優の話、「ももいろさんご」はエロコメディです。純粋にエロメインの傑作集「花ごよみ」もいいのですが、個人的にはストーリーと徐々に変化していく姿がたまらなくかわいらしい「HONEY BLUE」をイチオシしておきます。特におでこスキーな人はゼヒ!

 
ももいろさんご 10 (ヤングキングコミックス) Rec 6 (サンデーGXコミックス)