平成24年 重要判例要旨(知的財産法)

知的財産法
大阪地裁 平成24年9月27日

異なる医薬を単に併用する行為は,それらの医薬を「組み合わせてなる医薬」の「生産」には当たらないから,それらの医薬を単体として製造,販売する行為についても特許法101条2号の間接侵害は成立しない

東京地裁平成24年8月31日
発明の名称を「メディアプレーヤーのためのインテリジェントなシンクロ操作」とする方法の発明について、被告製品を用いたシンクロ(同期)方法が同発明の技術的範囲に属さないと判断された事案

知財高裁 平成24年8月28日
発明の名称を「繰り出し容器」とする被告の特許について,原告が無効審判を請求したところ,被告は訂正請求書を提出し,特許庁は,訂正を認めて審判請求不成立の審決をしたため,原告は,審決の取消を求めた。裁判所は,本件発明の課題は,容器の分別後に,使用済みか否かを確認できるようにすることであり,本件発明の構成により解決できるものであって,技術的意義を有し,特許法上の「発明」に該当する等として,請求を棄却した事例。

知財高裁平成24年8月8日
携帯電話機用釣りゲームにおける魚の引き寄せ画面について原告の翻案権侵害の主張を排斥し,これを肯定した原判決を取り消した事例

東京地裁判平成24年2月23日
原告が被告らに対し,被告らが共同で製作し公衆に送信している携帯電話機用インターネット・ゲームソフト(以下,被告作品)は,上記同旨の原告のゲームソフト(以下,原告作品)の魚を引き寄せる動作を行う場面の影像等,ユーザーが必ずたどる画面の選択・配列等が酷似しており,被告作品を製作して公衆に送信する行為は著作権(翻案権・公衆送信権),著作人格権(同一性保持)を侵害する等として,被告作品の公衆送信等の差止め・損害賠償・謝罪広告の掲載等を求めた事案。裁判所は,被告作品の魚引き寄せ画面は,原告作品に依拠した翻案物で,原告の著作権を侵害しており,同一性保持の侵害等により著作権法112条1・2項に基づき,被告作品の複製・公衆送信差止め及び記録媒体の廃棄を求められるとし,同法114条2項に基づく損害金(限界利益に対する原告の寄与度を30パーセントとして算出)の支払及び上記認定範囲の請求を認容した事例


知財高裁平成24年5月28日
名称を「腫瘍特異的細胞傷害性を誘導するための方法および組成物」とする発明について、進歩性を欠くとして特許拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決が取り消された事例

知財高等判平成24年4月11日
原告は,名称を「医薬」とする被告各発明に係る特許に対し,特許無効審判を請求したが,特許庁が同請求不成立の審決をしたため,その取消しを求めた。裁判所は,当業者であれば,作用機序が異なる両剤の併用による作用効果として,両剤のいわゆる相加的効果が得られるであろうことを容易に想定することができた等として,請求を認容した事例。

知財高裁判平成24年4月11日
一 出願日当時、製造可能となっていたことが明らかで、作用機序が異なることが技術常識であり、併用投与した場合に拮抗するとは認められない二つの異なる糖尿病予防・治療薬を併用投与する発明についての明細書の記載が、実施可能要件を満たし、当該併用投与に関する実施例の記載がなくてもサポート要件を満たすとされた事例
二 優先権主張日当時、作用機序が異なることが技術常識であり、併用投与した場合に拮抗するとは認められない二つの異なる糖尿病予防・治療薬について、明細書が併用投与した場合の相加的効果を裏付けているにとどまる場合、当業者は、これらを併用投与する構成が記載された引用例から、当該併用投与する発明を容易に想到することができたとされた事例


大阪地裁判平成24年3月22日
名称を「貯水タンク及び浄水機」とする発明(本件発明)の特許権者である原告は,被告Y1による製品(浄水器)の製造販売等及び被告Y2による販売等が原告の特許権を侵害するとして,特許法100条1項,2項に基づく本件製品の製造販売等の差止め及び廃棄並びに特許権侵害による不法行為に基づく損害賠償等を求めた事案で,本件製品は,本件発明にいう「スペーサー」を具備しないもので,本件発明の技術的範囲に属しないとして,請求を棄却した事例

大阪地裁判平成24年3月22日
本件発明(名称「炉内ヒータおよびそれを備えた熱処理炉」)の特許権者である原告が,商品名をAとする焼却炉(被告物件)の販売が原告の特許権を侵害したとして,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償を請求した事案で,被告物件が本件発明の技術的範囲に属するか,本件特許は,特許無効審判により無効とされるべきか否かなどが争点とされた。裁判所は,被告物件が,本件発明の構成要件をすべて充足するから,本件発明の技術的範囲に属すると認め,また本件発明は,引用発明に周知技術を組み合わせても,当業者が容易に発明することができたとはいえないなどとして,原告の損害を認め,請求額の一部を認容した事例

知財高裁判平成24年3月7日
名称を「熱応答補正システム」とし,サーマルプリントヘッド上での熱履歴の影響を補償することにより,サーマルプリンタの出力を改善する技術に関する発明の特許出願の拒絶査定不服審判の請求が不成立と審決されたため,その取消しを求めた事案で,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものではなく,本願発明の容易想到性に係る本件審決の判断は誤りであるとして,本件審決を取り消した事例


知財高裁判平成24年2月28日
中国中央電視台(CCTV)のグループ会社で,同国法人である原告は,CCTVの放送用として制作された「中国世界自然文化遺産」と題する記録映画(本件原版)の著作権を有しているが、被告の制作・販売に係る「中国の世界遺産」と題する各DVDは,上記記録映画を複製又は翻案したものであるとして,不法行為に基づく損害賠償を請求した事案で,1審判決は,本件各原版の著作権が原告に帰属するとした上で,被告各DVDは,本件各原版の翻案に当たり,被告が本件各原版の利用許可を受けていたとは認められないが,損害賠償請求権の一部は時効消滅している(認容額10万円余)としたため,双方が各自の敗訴部分の取消しを求めて控訴した。控訴審は,原告の控訴は一部につき理由があり,被告の控訴は理由がないとして,原判決を変更し,損害金,不当利得金など合計1065万円などを認容し,その余の原告の請求及び被告の控訴を棄却した事例

知財高等判平成24年2月22日
一 Xが制作した体験型展示物につき、制作者の個性が表現されたものではなく、創作的な表現であるということはできないとして、著作物性を認めた原判決の判断が否定された事例
二 Xが制作した体験型展示物の著作物性の有無それ自体は、著作権侵害を理由とする請求の当否の前提問題として判断されるべきであって、かつ、それで足り、著作物性が認められた場合における当該著作権の帰属それ自体を争わないYとの間において、同展示物に著作物性が認められるとして、Xが著作権を有することの確認を求める訴えは、確認の利益がなく、不適法である
三 XとYとは競争関係にあるところ、Xがウェブサイトに掲載した注意書は、虚偽の内容を含み、Yの事業がXの権利を侵害する違法なものであり、又は、YがXを脅すなど不当な経緯により事業をするに至った旨を、注意書を見る不特定多数の者に印象付けるもので、Yの営業上の信用を害するものである以上、Xによる注意書のアップロードは、虚偽の事実を流布する行為(不正競争防止法二条一項一四号)に該当し、当該注意書の削除を求める仮処分の申立ては違法ではない


知財高裁判平成24年2月14日
Xが,Yに対し,Yの運営するインターネットショッピングモールにおいて,本件商品を展示又は販売することは,Xの商標権の侵害又は周知・著名なXの商品表示を利用した不正競争行為に該当すると主張し,商標法又は不正競争防止法に基づく差止めと,民法709条又は不正競争防止法に基づく損害賠償の支払を求めた事案。原判決は,被告サイト上の出店ページに登録された商品の販売の主体は,当該出店ページの出店者であって,Yはその主体ではない等として,Xの請求を棄却した。当裁判所は,ウェブサイトを運営するYとしては,商標権侵害の事実を知ったときから8日以内という合理的期間内にこれを是正したと認め,Yによる運営がXの商標権を違法に侵害したとはいえないとし,結論において原判決同様,請求を棄却した。


最判平成24年2月2日
1 人の氏名,肖像等を無断で使用する行為がいわゆるパブリシティ権を侵害するものとして不法行為法上違法となる場合
2 歌手を被写体とする写真を同人に無断で週刊誌に掲載する行為がいわゆるパブリシティ権を侵害するものではなく不法行為法上違法とはいえないとされた事例
要旨
1 人の氏名,肖像等を無断で使用する行為は,①氏名,肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,②商品等の差別化を図る目的で氏名,肖像等を商品等に付し,③氏名,肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら氏名,肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,当該顧客吸引力を排他的に利用する権利(いわゆるパブリシティ権)を侵害するものとして,不法行為法上違法となる。
2 歌手を被写体とする写真を同人に無断で週刊誌の記事に使用してこれを掲載する行為は,次の(1),(2)など判示の事実関係の下においては,専ら上記歌手の肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず,当該顧客吸引力を排他的に利用する権利(いわゆるパブリシティ権)を侵害するものとして不法行為法上違法であるということはできない。
(1) 上記記事の内容は,上記週刊誌発行の前年秋頃流行していた,上記歌手の曲の振り付けを利用したダイエット法を解説するとともに,子供の頃に上記歌手の曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというものである。
(2) 上記写真は,約200頁の上記週刊誌全体の3頁の中で使用されたにすぎず,いずれも白黒写真であって,その大きさも,縦2.8cm,横3.6cmないし縦8cm,横10cm程度のものであった。


知財高裁判平成24年1月31日
原告が被告の左大腿部に施した十一面観音立像の入れ墨は,著作物性を有するとして,被告が,当該入れ墨を撮影した写真の陰影を反転させ,セピア色の単色に変更した画像を書籍の表紙カバー及び扉に掲載したことは,入れ墨の著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害するとした事例



知財高裁判平成24年1月31日
インターネット通信による親子機能を有する機器を利用して、海外等において日本国内の放送番組等の複製又は視聴を可能にするサービスについて、サービス提供者が放送番組等の複製の主体であり、放送事業者の著作権及び著作隣接権を侵害しているとされた事例


知財高裁判平成24年1月31日
インターネット回線を通じてテレビ番組を視聴することができるようにするサービスを提供する被告の行為が,原告らの著作隣接権送信可能化権)及び著作権公衆送信権)を侵害すると判断して,差し戻された控訴審において,被告の過失の成否,原告らの損害の額,原告らの著作隣接権に基づく本件放送の差止請求及び著作権に基づく本件番組の公衆送信の差止請求の可否等が判断された事例


知財高裁判平成24年1月27日
1 いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲について,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在しない場合は,その技術的範囲は,クレームに記載された製造方法によって製造された物に限定されるとした事例
2 特許法104条の3に係る抗弁に関し,いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの要旨の認定について,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在しない場合は,その発明の要旨は,クレームに記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるとした事例


最判平成24年1月17日
著作権法(昭和45年法律第48号による改正前のもの)の下において興行された独創性を有する映画の著作物の複製物を輸入し,頒布する行為をした者がその著作権の存続期間が満了したと誤信していたとしても,同行為について同人に少なくとも過失があるとされた事例

要旨
著作権法(昭和45年法律第48号による改正前のもの)の下において映画製作会社の名義で興行された独創性を有する映画の著作物につき,監督を担当した者が著作者の一人であり,著作者の死亡の時点を基準に著作権の存続期間を定める同法3条が適用される結果著作権が存続している場合において,次の(1),(2)など判示の事情の下では,著作権者の許諾を得ずに,海外において製造した同著作物の複製物を輸入し,国内で頒布する行為をした者が上記映画の興行の時点から所定の期間が経過して著作権の存続期間が満了したと誤信していたとしても,上記の行為について,同人に少なくとも過失がある。
(1) 上記映画の監督を担当した者が同映画の全体的形成に創作的に寄与したことを疑わせる事情はなく,かえって,同人が同映画の冒頭部分等において監督として表示されていた。
(2) 旧著作権法(昭和45年法律第48号による改正前のもの)の下において団体名義で興行された独創性を有する映画の著作物については,一律に,又は団体の著作名義をもって興行された著作物若しくはいわゆる職務著作による著作物として当然に,同法6条が適用され,興行の時点を基準に著作権の存続期間が定まるとの解釈を示す公的見解,有力な学説,裁判例があったことはうかがわれない。