フランステロ事件。「表現の自由」という「法規」

徳川家康を風刺、揶揄、批判するような表現は一切すべきでない(宗教的存在だから)

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150112/p2

毎度のことながら、グリフォンさんのパラドキシカルな言説は面白いし、着眼点に脱帽です。まさに、医者の知性、教師の知性。

一方で、今回のフランスでのテロ事件「後」の出来事を眺めつつやっぱり感じてしまったことは、あんまり、「表現の自由」「言論の自由」を錦の御旗に掲げない方がいいだろうということです。

声高に「表現の自由」の“正義”を「今」言いつのる向きの、右派の人たちに尋ねたいのは、例えば天皇陛下が同様に侮辱されたら、(ムハンマドのように偶像化は禁止されていないものの)どう感じるでしょうか? ということです。

声高に「表現の自由」の“正義”を「今」言いつのる向きの、左派の人たちに尋ねたいのは、例えば、ヒロシマナガサキの原爆投下関連で同じように侮辱されたら、(既にフクシマで同じようなことはされたわけですが)どう感じるでしょうか? ということです。

「そんなの答えは決まってるじゃないか!」とおっしゃることでしょう、もちろん。「言論には言論で対抗すればいいのだ。抗議の声をあげればいいのだ」ということになるのでしょう。「無視されようともあくまであくまで言論で」と……。

当然、自分がテロルで殺されるのは嫌なので私もそれでいいのですが、ここでひとつ確認しておきたいのは、「表現の自由」と言おうが、「言論の自由」と言おうが、それはあくまでも交通法規がそうであるように「法」で定められているからこそのものなのであって、「普遍的な」「天賦の」権利なんかではまったくないということです。

だからこそ、最初から「法治」を無視して来る手合いには、あるいは「法治」を超越した価値を戴く手合いには、いくらスローガンを叫ぼうと、それは空語としてしか聞こえない、ということなのでしょう。

「信仰」というものは、経典なりなんなりを鵜呑みにする人であればあるほど、盲目的に信じる人であればあるほど、そのカテゴリーの中ではステージが高いということなのですから。

ここで、西部邁さんの演説からまたぞろ引用して終わります。

 この前のテロリズム、9.11テロのことを言えば、少しこれは単純化のしすぎですけれども、要するに近代主義モダニズムというのは、自由・平等・博愛といった軽はずみなものにそろそろ世界に普遍的な価値だというふうに思いがちの傾きを指す。つまり、モダニズムというのは、ユニバーサリズム、普遍主義である。この普遍主義をかざしている国はどこか。アメリカだから、ユニバーサリズムは、おおよそイコール、アメリカニズムである。アメリカニズムとは何か。アメリカ的な価値なり、やり方を世界に押しつけようとする意味でのグローバリズムである。

 グローバリズムというのは、ほかの国々の歴史を破壊するわけだから、当然のことながら、国の歴史を破壊されれば、そこで虚無主義ニヒリズムがほかの国々にわだかまってくる。したがって、グローバリズムはほかの国にとっていえば虚無主義ニヒリズムの台頭である。そして、人間はニヒリズムに耐えられないので、ほぼ必ずや価値の原点を探し求めて、いわゆるファンダメンタリズム原理主義)へと回帰するであろう。しかしながら、ファンダメンタリズムは、バイブルであろうが、コーランであろうが、そう簡単に現実化できませんから、この理想と現実のギャップの中で、ファンダメンタリズムは、必ずテロリズムへと近づいていくであろう。

 だから、あえて一直線にいえば、モダニズムユニバーサリズムであり、ユニバーサリズムアメリカニズムであり、アメリカニズムがグローバリズムであり、グローバリズムが要するにニヒリズムをもたらし、ニヒリズムテロリズムをもたらすという脈絡で考えれば、あの9.11テロその他のものは、アメリカが自分たちで結局は招いたものだ。それをどう表現するかは、また政治の問題ですから大変難しいと思いますが、そんなことは私に言わせれば常識として押さえておかなければならないのに、アメリカ人が押さえられないのはいた仕方ありませんが、日本人までもがそれに引きずり込まれていくというのはとんでもないことだと実は思っておりました。

名演説の全貌を読みたい方はこちら

2004年自民党のど真ん中で西部邁は何を語ったか。

http://d.hatena.ne.jp/manji_ex001/20080720/1216531458


【追記】ほら、やっぱり一方通行の『表現の自由』礼賛だった……

仏芸人発言「テロ行為を礼賛」 司法当局が身柄拘束
http://www.asahi.com/articles/ASH1G7WBNH1GUHBI03F.html

仏司法当局は14日、きわどい風刺を売りものとする芸人デュードネ氏の発言が、「テロ行為の礼賛にあたりかねない」とみて身柄を拘束し、取り調べを始めた。(後略)