分断されると恐れるアメリカ

少し前から思ってたけど、やっぱりどっか私たちの知らない先へ行こうとしているアメリカ、なお話。


アリゾナ発「移民弾圧」第2幕 | アメリカ | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 アリゾナ州で4月23日に成立した移民法は、不法移民の弾圧強化を目指す保守派の戦いの始まりに過ぎない。この戦いはさらに広がり、アメリカ合衆国憲法の修正にまで発展する可能性がある。

 先週、リンゼー・グレアム上院議員共和党)はFOXニュースに対し、アメリカ国内で生まれた子供が自動的に市民権を得る権利を定めた合衆国憲法修正第14条の変更を検討している、と語って物議をかもした。不法移民の子供にはそうした権利を認めないようにしたいというのだ。

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ああ、それ知ってます、ロバート・A・ハインライン大先生ですよね。僕も大好きです『宇宙の戦士』。かいつまんで説明すると「退役軍人にのみ選挙権を与える」的な世界のお話。
それに構図は近い物があると思います。

こんにちは宇宙の戦士たち

以前も書いたかもしれないけど、よくアメリカが「移民の国」だなんて言われるけれども、実際の所はそんな事はないわけで。
アメリカは、それこそかつてのヨーロッパに幻滅しそこから脱出して理想社会を築こうとした人々が「新たに」*1作り上げた社会である。 そしてその新しい社会に何かを見出した人々が移住する事によって、アメリカは発展した。だから別に他所からきた移民たちが主導権か何かを持って新しいアメリカという社会を作り上げた訳では絶対に無い。
しかしそれならそれで、これまでも当然あったはずの「移民」を拒否するような意識にまで、何故彼らは至ってしまうのだろうか?


サミュエル・ハンチントンが確か『分断されるアメリカ』辺りで語っていた所によると、アメリカに移民した人びとが感じる被差別意識には、ある時期(1965年ごろ)を境にして、二つのものに分かれるんですよね。

一つはその境から以前にあった「移民した人びとが、アメリカに溶け込もうとした時障害があった時に感じる差別」
もう一つはそれより後に生まれた「移民した人びとが、自分のアイデンティティを守る際障害があった時に感じる差別」

つまり、現代の移民たちは古い意味での「移民者」たちではない。厳密な意味では彼らはアメリカ人になりたいわけではない、アメリカ「で」暮らしたい金を稼ぎたいだけであると。そして少なくとも一部の人びとは確かにそう考えている。
その意味で引用先のような事を主張する彼らは確かに保守派である。彼らが夢見ているのは「かつてのアメリカに同化しようとする移民」であるから。だから彼らはこうも思っている、そう思っていない新しい移民に何故無条件でそれを与えなければならないのか? と。


ハインラインが『宇宙の戦士』の中で「共同社会に滅私奉公することができる人間だけが、共同社会の意思決定を行うべきである」と語っていたように、彼らは「アメリカ人とはアメリカ人になろうとするものだ」というかつての解りやすい理想を忘れられない。
スーパーパワーとして唯一超大国だったアメリカがその相対的な凋落と共にそうした懐古主義的な声が盛り上がるのは、まぁつまり偶然ではないんでしょう。それはある種のネガティブさの表れであると。

*1:それまで住んでいた原住民達を追い出して