「オーフェン」2部完結以降離れてしまった人にすすめたい秋田禎信作品

「オーフェン」も新シリーズがスタートしたことだし、これを機に、ということで。
……単に自分が特に好きな作品を挙げただけ、という話もありますが。



上下巻。濃厚な秋田節で綴られるSF西部劇。復讐のために賞金首であるロングストライドを追う男装の少女ベティ。彼女と旅を共にするのは謎の男ウィリアム、そして先住民とのハーフであるフラニーだった。ベティが「キエサルヒマの終端」のクリーオウを、ロングストライドは「背約者」のクオを連想させるものがあったり、これは「オーフェン」の語り直しだという声も。ロングストライドの魅力ある小悪党っぷり、ベティとウィリアムのハードボイルド少女漫画なLOVEも見所。


機械の仮病

機械の仮病


全1巻。身体の一部もしくは全身が機械化される謎の奇病が蔓延した社会を描く。病気そのものの謎に迫るより、機械化病というガジェットによって現代社会で人々が無意識のうちに見ないふりをしている様々な心理―――特に、損得勘定の上で正しいことだけをして生きていく人々の―――を炙りだすことが目的。秋田の人間描写を楽しみたいならこれ。着想や全体のどろっとした雰囲気は秋田が好きな安部公房に似ているかもしれない。「あいつを恨む気がしないんだ。気持ちが分かるから。お前ら、本当にどうして、人を笑えるんだ?不細工な女とガキを養ってなにが楽しいんだと俺に言われたら、なんて答えるつもりだ?」子持ちの人妻エロスもあるよ!


誰しもそうだけど、俺たちは就職しないとならない

誰しもそうだけど、俺たちは就職しないとならない


全1巻。キャリアセンターでの資料集め、OB訪問、面接など就職活動ひいては現代日本で働くということの理不尽を、噛みあってるようで噛み合ってない会話劇中心に描いたブラックコメディー。秋田の他の作品では『閉鎖のシステム』のテンションが一番近いかな?ああ、俺にとっての秋田ってある意味一部の人たちにとっての西尾維新みたいなポジションでもあったんだなあ、ということを思い出させてくれる。そろそろ発売から3年経つので文庫化切望。


カナスピカ (講談社文庫)

カナスピカ (講談社文庫)


全1巻。周回軌道から落ちてきた人工衛星と少女の心の交流を描いた青春小説。いわゆるライトノベルレーベル以外からの初の出版となった作品であり、秋田の作家活動における転換点のひとつ。「あの秋田がこんなに爽やかな話を!?」と話題になった。



ミズー編のみ全5巻。オーフェンとは対照的に幻想的な世界を舞台にしたガチンコFT。「オーフェン」読んでたならこっちにも手を出し、そして挫折した人も多そうだけれど、展開の遅さが原因なら、とりあえずフリウ編をとっぱらって奇数巻のミズー編だけ読んでみるのも手じゃないかしら。秋田流ハッタリアクションの最高峰なので、読まないのは勿体ないと思うんだぜ。


他に単行本化しているものとしてはカートゥーンニンジャSFアクション時代劇風味「ハンターダーク」、舞城王太郎原作の覆面作家競作企画、ハードボイルドアクション「魔界探偵冥王星O ホーマーのH」、士郎正宗・Production.IG原作のサイバーパンクアニメをノベライズした、秋田節たっぷりの「RD 潜脳調査室」、哀しみをエネルギーにして戦うヒーロー物コメディ「愛と哀しみのエスパーマン」、わりとド直球のライトファンタジー「シャンク!!」など。変り種としては、ニトロプラスの18禁ADV「装甲悪鬼村正」のアンソロジーディスクに収録された「装甲悪鬼村正邪念編 愛しい香奈枝さんの装甲悪鬼村」。あんまりエロくないエロシーンもあるよ!