ヴァージンシネマズ六本木ヒルズで「ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女」

mike-cat2006-02-24



約1カ月ぶりの帰京。
せっかくなので、先行よりさらに1日早い限定レイトショーに臨む。
24時の上映開始とあって、さすがの六本木でも人はまばら…
スクリーンはたぶん国内でも最大クラスの7番スクリーン。
壮大なファンタジー世界を楽しむのには、最高の環境だ。


誰もが少なくとも名前だけは知っている、「指輪物語」と並ぶファンタジーの双璧。
ロード・オブ・ザ・リング」3部作、「ハリー・ポッター」シリーズの大成功を受けての、
二匹目のどぜう狙い感が微妙に漂うのは気になるが、
ディズニーもそこまでせこい商売はしないだろう、と信じたい。
原題は〝THE CHRONICLES OF NARNIA: THE LION, THE WITCH AND THE WARDROBE〟
ナルニア年代記の名の通り、壮大なる7部作の始まりとあって、
今後どれだけのスケールでシリーズが続くのか、も気になるところだ。
さまざまな期待を胸に、巨大スクリーンの前で目頭を熱くする。


第二次世界大戦下、ドイツの空襲から逃れ、
ロンドンから田舎町へ疎開したペベンシー家の4人の子どもたち。
ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシーの向かった先は、カーク教授のカントリー・ハウス
ある雨の日、隠れんぼをしていた末っ子のルーシーは、
奥まった部屋の、古びた衣装だんすに隠れ場所を見つける。
たんすの扉を閉じ、毛皮のコートの中を抜けると、そこには銀世界が広がっていた。
そこは、白い魔女によって100年の冬に閉ざされた、王国ナルニア
ペベンシー家の4人は何と、未来の王として世界に春をもたらす、運命の子どもたちだった。


ひとことで言って、この映画はすごい。かなりすごい。
ニュージーランドで撮影されたという、ナルニアの圧倒的で壮大な風景。
衣装だんすの中に広がる、その夢の世界は、思わず子どものころの夢を思い起こさせる。
偉大なるライオンの王アスラン、そして邪で尊大な白い魔女
半獣半人にしゃべる動物たち、ユニコーンなどなど、文字通りファンタジックな世界が広がる。
ダークな部分が強調されている「ロード・オブ・ザ・リング」などと比べて、
世界観そのものはシンプルなのだが、その分、真っすぐ夢を追いかけるような、
ごくごく正統派のファンタジーが、そのまんま壮大なスケールで展開されるのだ。


子ども向け、といえば子ども向けでもある。
実際10歳前後の子どもの視点から、と考えると、
物語そのものはあまりに真っ当すぎてもの足りないかも知れない。
だが、その真っ当な物語を、本気でカネをかけて丁寧に作っているから、
大人の鑑賞に耐えうる、ではなく、本気で大人が楽しめる作品に仕上がっているのだ。


ピーターを始めとする、子どもたちのキャストもいい。
いわゆるイギリスの普通の子どもたちだ。
ヘンに美男美女過ぎない。ヘンに巧すぎない。とても普通な子どもたち。
だが、演技そのものはとても自然だ。
その普通っぽさにそ、誰にでも起こり得るファンタジー、という夢が喚起される。
特に末っ子ルーシーを演じたジョージー・ヘンリーには、
そのまんま親のような視点で、思わず感情移入してしまうある種の引力がある。


子どもたちを取り巻く大人もいい。
血相変えて魔法の杖を振り回す姿がやたらと勇ましいティルダ・スワンソン(「オルランド」)、
クワイ=ガン・ジンそのまんまだが、偉大なる王に貫録と説得力を与えるリーアム・ニーソン(声のみ)。
優しく繊細な半獣半人タムナスさんを演じる、ジェームズ・マカヴォイの雰囲気も抜群だ。
そして、出演時間は短いが、ペベンシー家の子どもたちの成長に、
重要な役割を果たすカーク教授を演じた、ジム・ブロードベンドの慈愛あふれる表情…
誰もがやり過ぎのオーバーアクトを極力抑え、
〝大事にしたい物語〟を心をこめて紡ぐべく、最大限のチームプレーに徹している。


監督は「シュレック」シリーズのアンドリュー・アダムソン
シュレック」ではふんだんに盛り込まれたパロディを
器用さにまとめ上げる演出が、ともすればスケール不足を感じさせたが、
この作品ではスケール感を削ぐことなく、そこかしこに気の利いた演出をのぞかせる。
センス、という簡単な言葉で片付けるのもやや憚られるが、
それでも、その抜群なセンスには、思わず感心するしかないのである。


難をいうなら、しゃべるビーバーやキツネなどのアニマトロニクスが微妙に雑な点か。
特にルパート・エヴェレットが声を担当したキツネは、
リアルなキツネでもなく、アニメっぽいキツネでもない、何だか微妙な生き物になってしまっていた。
サイクロプスケンタウルスなどのクリーチャーと比べ、
実際の生き物が難しいのは確かなのだが、こちらはやや興醒めな感もあった。


とはいえ、欠点らしい欠点と言えば、それくらい。
7部作の第1作でありながら、イントロダクション的な部分も少ないし、
この1作だけでもひとつのストーリーが完結されているので、満足感も高い。
物語の仕立てはシンプル、と先に書いたが、
その中でも子どもたちの成長物語は、きちんと書き込まれていて、これまた好感が持てる。
アスランをめぐる一連の顛末に、ややご都合主義的なものも感じるが、
それはそれでこのファンタジーには、むしろこのオチの方が自然な気がする。


続編ももちろん楽しみだし、この第1作だけでももう1回観たくなるほど、見応え十分。
原作に親しんだ人はどう判断するのか、ちょっとわからないが、
まったく原作を読んだことのない(というか、本でファンタジーは苦手な)僕が、
思わず原作も読んでみようかな、という気にさせられた。
評価は人それぞれ、いろいろあるとは思うが、少なくとも僕は、傑作と言い切りたい。
そのくらい楽しい140分間だった。