人生万歳!〜恵比寿ガーデンシネマ閉館

今月末で閉館となる恵比寿ガーデンシネマに向かった。現在ベストセレクションも公開中だけど、日程的に見れないので、ここで映画を見る最後の作品として、ウディ・アレン新作の「人生万歳!」を見に行くのだ。
JR恵比寿駅の改札を出て、動く歩道に乗ると「ガーデンプレイス」に行くスイッチが入る。タッタカ歩いて前の人をガンガン抜きながら進むのが、爽快だったりする。あっという間に到着。向こうに丸い月が浮かんでた。東京タワーも見える。

まずは映画の整理券を貰い、地下のロブションでパンを買い*1、それから三越で雑貨や食器に服を見て、地下の食料品売場を物色。ここは他ではあまり売っていないものも多いから嬉しい。それから映画館前に戻って、ベンチに腰掛けて買い込んだものを食べる。フランスのお城のようなロブションを見ながら、変な気分。こんなふうに映画前にパン食べるひととき、大好きだなあ。

開場時刻に近づいたので館内へ。20代後半〜30代の女性が中心で場内は満席、通路に座ってみるひともいる。
*2
「人生万歳!」はとてもとても、面白かった。素晴らしかった。
冒頭からニヤニヤケラケラ笑いっ放し、話の流れが実に気持ち良い。お馴染みの「アレン節」満載だけど、これまでにない軽やかさと強さがある。
他人に対して文句ばかり言っている、皮肉屋でお喋りな主人公を何故か嫌いになれない。実際近くにいたらうんざりしそうだけど、面白いジイさんだなあって付き合えるのは演じるラリー・デヴィッドの「ひととなり」によるのかしら。いつもどおりウディ・アレンだったら、イライラしてそうな気がする。
魅力的な登場人物たちはそれぞれ自由闊達にスクリーンの中で生き、幸せをつかむ。ひょーいひょーいと然るべきところに収まり、それぞれのやりかたで「うまくいく」。その気持ちよさったら!ストン、とココロに落ちたものがあった。
人生万歳!うん、四の五の言わず、それでいいじゃない。「Whatever Works」、そう思おうじゃないか。ちょっと涙ぐんでしまった。
ウディ・アレン作品を多く上映してきたこの恵比寿ガーデンシネマの、満席の場内で、こんなサイッコーの映画を見ることが出来てほんとうに幸せだ。この作品で幕を閉じるなんて、幸せだね。ある意味皮肉かもしれないけれど、いや、だからこそ「人生万歳!」なんじゃないかしら。

終演のアナウンスとともに「蛍の光」が流れてる。うう、早過ぎるよ…。
ロビーではこれまで公開してきた作品のチラシがずらっと並んでいる。スタッフのかたにお話して、撮らせていただいた。

一番上の左角の「ショート・カッツ」、「スモーク」「フラート」…

あー、「ギター弾きの恋」「ハイ・フィディリティ」…

パンチドランク・ラブ」のチラシ、全種集めたなあ。

丹下左膳 百万両の壺」の予告に「あれ?」と思ったんだった。

こう並ぶと、圧巻だなあ。。。
→ 「公開作品で印象にのこっているものを年ごとに1本づつ

たった17年間されど17年間。田舎から東京へ出てきた私に、映画をたくさん見ることができる喜びを支えてくれた映画館だった。ここでもう、映画はかからないんだな。


入口横に「ショート・カッツ」のポスターがあった。第一回公開作品。見に行ったな。新しい「場所」・新しい「映画館」、ここでアルトマンの新作を見ることが出来るなんて!今も大好きな作品だ。
当時の新聞広告も貼ってあった。1994年9月20日

コメントに深津絵里。あー、94年ったら「LIFE」出た年ですよ、つか「LIFE」出たばっかりの時ですよ、子猫ちゃん。コメント、数年前だったらゼッタイ満里奈だよなー。一時期やたらと「M★A★S★H」好きって言ってたよなー、いかにも受け売りな感じでねえ(あっ!)。
そんな悪態つきながら見てたらね、

岡崎京子…。この言葉…。胸が詰まる。「リバーズ・エッジ」もこの年じゃないかしら。連載は93年からかな。この17年て、重いんだなって気がついた。

ありがとうございました。


さっきの新聞広告は「恵比寿ガーデンプレイス」のお披露目もあったから、こんなコピーも載っていた。
恵比寿ガーデンプレイスは生活に必要なものと、人生に必要なものを、いろいろ取り揃えました」
”生活に必要なものと、人生に必要なもの”、このコピーには80年代セゾン文化的なにおいがする。wikiによると「’88年に閉鎖されたエビスビールの工場跡地の再開発として事業が開始されたのは’91年」、ちょうどバブルがはじけたころだ。ああ。
この17年の間に世界はまさしく激変した。インターネットが”生活に必要なもの”になり、次々と起こる事件は”人生観を覆し”、”人生に必要なもの”の意味が変わってしまった。
駅を出ると「現実から目を逸らすように」設けられた通路をくぐり抜けて、「セットのような」空間に降り立つこの違和感は未だ消えないままだ。

ここからの帰り道は余韻を引きづりながら、昼間だったら広尾か代官山方面へ散歩したり、線路脇を歩いて渋谷へ行くのも好きだ(東横線と交わるトコや都バス基地大好き)。夜だったら「動く歩道」脇の道を歩いて駅へ向かった。今日もそうやって駅へ向かったハズだけど何故かまるで覚えていない。
写真美術館はまだあるのだから、まだまだ通うけれども、ガーデンシネマに行くことはもう無いのだ。思い出話はこれで終わりにして、明日からまた映画館に足を運ぼう。もう、こんな気持ちになりたくはないから。
そういえば今年2011年の新作鑑賞、第1本目なんだな。こんないい映画で始まるなんて、うん、幸せだ。

*1:ロブションがパンやる前はウエスティンのグロッサリーだったかしら…。ロブション出来る前はべヌーゴで買うのがお決まりだった。

*2:画像はシネマトゥデイより