オトスコープ(耳内視鏡)による新しい耳の治療 2


それではオトスコープでの治療の一部をご紹介していきます。

まずは耳垢を除去するところから始めます。



既製品の処置具には、耳垢を摘む鉗子(かんし)しかないため、自分で耳かきやブラシを作成して使用しています。


大きな耳垢の塊や毛・異物を取り除くときには鉗子(かんし)を使用します。



耳の中に入ってしまった毛の除去



人間と違って毛に覆われた動物達は、抜け毛や美容院などでカットした時の毛などが、耳の中に入り込むことがあります。


その毛の刺激で耳を掻いて「外耳炎」を発症することもあるため、このような毛をしっかり除去しないと炎症は治まりません。



大きな耳垢は鉗子(かんし)で掴んで摘出します。



摘出した大きな耳垢の塊



このような巨大な(1cm以上)耳垢の塊が、耳の中で「耳栓」のようになってしまうと、どれだけ点耳薬をしても薬が病変部まで届かないため改善しません。


耳の奥に詰まった耳垢は、オトスコープでないと除去することができません。



耳垢や毛などの異物が除去できたら、洗浄を行います。



鼓膜が破れている場合は通常の洗浄液は使用してはいけません、生理食塩水という刺激の無いものを使用して洗浄を行います。


鼓膜の確認をされずに、洗浄液を処方されてる動物たちが来院されますが、鼓膜が傷ついている場合には、洗浄液が炎症を悪化させたり神経症状の原因となることがあります。



耳の穴がきれいになったら、細いチューブ使ってお薬を奥(鼓膜付近)から注入していきます。

耳の壁全体にお薬を塗布するために、「の」字を描きながら注入しています。



これら一連の耳の治療は、全身麻酔下で行い、両耳で1時間程度かかります。




まとめ

オトスコープは、これまできちんと観察できなかった耳の深部・鼓膜の確認ができ、その周囲の耳アカや腫瘤(できもの)などを取り除くことができます。
また、鼓膜が破れている症例では、CT検査などと組み合わせてきちんと中耳・内耳の評価を行い、治療しないと改善しません。
いままでは見えなかった・届かなかった場所の観察や治療ができることから、治りにくかった原因が判明することもあります。
ただし、耳の炎症はアレルギーなどが関連していることも多く、それらの管理も同時に行う必要があります。
また、オトスコープを用いた治療は1回では治りません。繰り返し行う必要があります。
オトスコープを用いた治療には全身麻酔が必要となります。



治りにくい耳の炎症の「原因」と「対処」の例(青字はオトスコープで行うもの)
アトピーアトピー性皮膚炎の管理(難しい)、洗浄による耳の清浄化
食事アレルギー(耳のトラブルに多い) → 徹底した食事管理、洗浄による耳の清浄化
細菌・酵母菌などの感染 → 徹底した耳の洗浄、抗菌薬の投与
鼓膜の損傷 → 洗浄による耳の清浄化
鼓膜周囲の毛・耳アカ → 摘出と洗浄による耳の清浄化
異物 → 摘出
腫瘤・腫瘍 → 摘出
中耳炎 → 鼓膜切開、中耳の洗浄


オトスコープによる治療をご希望の方へ

全身麻酔が必要になるため、完全予約制です。
かかりつけの獣医師からのご紹介も承ります。担当の先生にご相談ください。
お電話だけでは看護士からの簡単な説明しかできません。詳細についてはご来院の上、ご相談ください。
初診時からいきなりオトスコープを行うことはありません。最初は耳の状態を通常の診察・検査で観察し、治療計画をたてていきます。

オトスコープ(耳内視鏡)による新しい耳の治療 1

オトスコープ(耳内視鏡)を使用することによって、耳道内が鮮明に観察でき、通常の耳鏡ではほとんど観察できなかった鼓膜も容易に確認できるようになりました。

オトスコープは観察するだけの検査器具ではなく操作をする穴があり、そこからカテーテルや鉗子(かんし)などを挿入することで、耳道洗浄や異物、耳垢の除去が可能です。


オトスコープで観察した鼓膜




外耳炎のワンちゃんの耳の中(動画)


この動画のワンちゃんは、「綿棒で掃除をしながら点耳薬をしていたが治らない」と言う事で転院されて来られた子の耳を、オトスコープで観察したものです。

綿棒で掃除をすることで耳垢を奥に押し込んでしまい、耳の奥で「耳垢のによる耳栓」が形成され、点耳薬が奥まで入っていなかったため改善しませんでした。



「外耳炎」は耳に起こる炎症であり、「耳を振る」「痒がる」「耳が匂う」などの症状を引き起こします。

動物病院に来院される病気で一番多いのが「外耳炎」だと言われています。

軽度の外耳炎は投薬だけで治まりますが、難治性の場合は鼓膜が破れて中耳炎・内耳炎まで引き起こしてしまいます。

難治性の外耳炎や中耳炎では、手術で耳の穴を全て摘出しないと治らない場合もあります。

ただ、この手術を行うには以下の問題点があります。

・病変の広がりなどをしっかり調べるためには、CTやMRIなどの高度画像診断が必要であり、また難易度の高い手術となるため、大きな病院で検査・手術する必要がある
・顔面神経麻痺や手術後の化膿などの手術後の合併症の多さ
・施設によりますが、数十万円(両耳だと100万前後かかることも)の手術費用


このような大変な手術をできるだけ回避するために、当院ではオトスコープと呼ばれる「耳内視鏡」を用いた治療を行っております。



当院のオトスコープ


スコープは動物専用に開発されたもので、動物の耳の形に合うような形状で、先端が樹脂に覆われており耳道を傷つけにくくなっています。

CCDカメラはオリンパス社のものを主に用いており、サブでSTORZ社のものも使用しています。


モニターは、消化器内視鏡で使用している大型モニターに出力しており、処置の静止画・動画はパソコンで保存・管理しております。


次回、実際の治療方法についてご紹介いたします。

歯折した歯の治療 その6

レジンという被せ物を接着させるための処理をします。



レジンで穴を塞ぎます。



レジンが固まったところ、表面が凸凹しているため研磨していきます。



粗研磨。




仕上げ研磨。




出来上がり。



出来上がり後のレントゲン。



これで歯折した歯の処置は終了です。


この「歯折」の記事を書いている間にも、歯折を放置して顔が腫れてしまい、抜歯しか治療法のない状態で来院されたワンちゃんがいました。


今までは大学病院など専門病院でしか出来なかった処置が、当院で実施可能となりました。


歯を抜かずに治療できるワンちゃんが増えてくれれば幸いです。

歯折した歯の治療 その5

前回の続きです。


「ファイル」という道具で神経を除去した後に、詰め物を入れるためにさらに歯の穴を削ります。


出来た穴に、細菌の増殖を抑える根幹シーラーというものを注入します。



その後、ガッタパーチャポイントという詰め物を挿入していきます。



挿入したものがしっかり奥まで入っているかをレントゲンで確認します。
(下の写真はすべてのガッタパーチャポイントを挿入した後ではなく、形成した穴の確認のためにガッタパーチャポイントを1本だけ挿入した時のレントゲンです。)



しっかり挿入できていることが確認できたら、「グラスアイオノーマセメント」という物で蓋をします。

これには、熱・電気刺激・化学的な刺激を遮断する効果があります。

特殊なライトを当てることで硬化します。




硬化したらダイアモンドバーで形を整えます。




次回、最終的な被せ物をしていきます。

歯折した歯の治療 その4

今回から、折れてしまった歯を抜かずに治す方法をご紹介していきます。


症例は3kgの小型犬で、歯が折れた時期は不明とのことでした。


右上顎第4前臼歯が折れて神経が露出してしまっています。


折れて1−2日以内であれば神経を残して治療を行います。


今回のケースでは、折れた面に歯石か付いているため、折れてからそれなりの時間が経っていると思われました。


イムリミットを過ぎた神経は、口の中の細菌が入り込んでいるため抜いて治療を行わなければいけません。



まずは歯石など除去しきれいな状態にします。




次にレントゲンを撮影し、歯の根の方に感染が広がっていないかを調べます。




もし、感染が広がっている場合には、前回のご紹介したとおり抜歯が適応となります。


今回は大丈夫だったので神経を抜いて歯を残す治療を行います。



まずは、神経を抜くために歯に穴を開けます。



出来た穴から、ファイルという道具で神経を摘出します。



続きは次回に。

歯折した歯の治療 その3

それでは抜いていきます。


まず歯肉をめくって顎の骨を露出します。


ラウンドバーと高速のエアータービンの組み合わせで骨を削ります。


歯の根っこの部分が見えるようになりました。


テーパーシリンダーバーと高速エアータービンの組み合わせで歯を分割します。


分割した歯を抜いていきます。


全部抜き終わったところ。


めくった粘膜を縫合して、抜歯でできた穴を閉じます。


抜いた歯です。



歯が割れたことで歯の中の神経が露出し、そこから細菌が入って感染し、その感染が広がって歯の根っこと周囲の組織が腐っていました。


こうなってしまうと抜歯するしか治療方法がありません。


こうなる前に、歯が欠けた・歯が折れた場合は早期に適切な治療をしなければなりません。


次回より歯を抜かない治療をご紹介していきます。

歯折した歯の治療 その2

今回は、「歯折した歯を治療せずに放置して悪化してしまった」ケースの治療についてご紹介いたします。


歯折を放置した場合、「頬っぺたが腫れてきた、血や膿が出る」「歯が痛そうでご飯が食べれない」という主訴で来院されることが多いです。


実際の症例です。「頬っぺたに穴が開いて、膿がでて痛がっている」という主訴のワンちゃんです。



麻酔下での口腔内精査とレントゲン検査を行います。



歯石を取ってきれいにしたところ。

歯石で見えなかった、歯折による穴が見つかりました。



レントゲンを撮ってみると・・・




歯が折れた→歯の中の神経が露出した→適切な治療がなかった→神経が感染を起こした→神経を伝って感染が顎の骨に広がった→顎の骨が溶けて頬っぺたまで感染が広がった



こうなってしまうと、歯を残す治療はできません、歯を抜いて治療するしか選択肢がありません。


歯周病の場合は、歯がぐらぐらしている場合もあり、その時は簡単に抜歯することができるのですが、「歯折」の場合は、歯の周りの組織(顎の骨)は正常なこともあり、抜歯も大掛かりになることがあります。


次回、具体的な抜歯方法を書いていきます。