フォー・ディア・ライフ (講談社文庫)

フォー・ディア・ライフ (講談社文庫)

新宿2丁目で保育園を営む花咲慎一郎。運営資金不足のため、金になるやばい仕事を請け負う探偵業にも手をそめている。保育園の経営、探偵業から巻き込まれる事件に奔走する。

登場人物がなかなか魅力的で、するっと読める。新宿2丁目の無認可保育園ということもあって、預かっている子どもたちは、国籍などいろいろな問題を抱えている。重い話も読みやすくかかれていて、それなりにおもしろかった。この作家の他の作品も読んでみたいと思った。
大人が主役で、社会を動かしているんだけれど、その大人には子どもが深く関わっていて、結局は子どもが主役のような・・・そんな感じ。

「園長先生!すみません、起きてください!園長先生!」
いつものようにバカの付く力で叩かれて、部屋のドアが悲しい悲鳴をあげた。
俺は、せっかくこれから食おうとしていた函館名産のウニ丼を諦めて、夢から醒めた。どうしていつもいつも、何か食う夢を見ていると邪魔がはいるんだ?

起きあがると、胸の上に置いたままだった新聞の折り込み広告が、すべって床に散らばった。北海道一周格安、四泊五日の旅。広く高い空、白い雲。緑の草原にゆったりと草をはむ精悍な競走馬。吹き渡る風は乾いて涼しい。ああ、そうだ。きっと、涼しい。

果つる底なき (講談社文庫)

果つる底なき (講談社文庫)

江戸川乱歩賞受賞作。
謎の言葉を残し不可解な死を遂げた友人の坂本。その死に疑問をもった伊木は、坂本が調べていた不正融資、そして坂本の死について調査にのり出す。

組織のなかで信念を貫き悪をあばく個人。ありがちなはなしかもしれないがそこそこおもしろい。ただ、人が死に過ぎ。ちょっと冷めちゃうな〜。
『いまの世の中、上場会社の決算だって粉飾なんて当たり前だ。病院(上場企業でも赤字や債務超過に陥っている企業ばかりを相手にしている審査部の通称)の連中がどんなことをしているか知ってるか。決算からプレス発表まで都合のいいように作ってるんだぞ』というくだりがあった。タイムリー。

鉄扉を開けると、七月初旬のむっとする空気が足元になだれ込んできた。梅雨空はどんよりと重く、ここのところ降ったり止んだりという天気が続いている。午前十時。私は、融資先を訪問するために銀行ビルの裏口を出て、店から少し離れたところにある駐車場へ向かうところだった。土、日は人でごった返す渋谷も、平日の午前中となる街の人手はまだ少ない。とくに東急プラザのある表通りから一本入ったこの辺りは閑散として、回収前のゴミが収集場所から道路に溢れている。