薬毒の種々相

岡田茂吉師御論文です)

未発表『文明の創造』昭和27(1952)年執筆

 あらゆる病原が薬毒である事は、充分納得出来たであろうが、単に薬毒とい




っても、非常に多くの種類がある以上、それによる症状も自ずから千差万別で




あるのは言うまでもない。それらについて詳しく書いてみよう。


 まず洋薬であるが、これにも服薬、注射、消毒薬、塗布薬等種類があるか




ら、まず服薬から取上げてみるが、これは昔から一番多く用いられており、そ




の種類も何千何万あるか、数え切れない程あって、気が付いてみればこれらも




おかしいのである。なぜなれば、いかなる病気といえども、その原因は一つで




あって、その現れ方の局部によって、種々なる病名が付くのであるから、本当




から言えば、効く薬ならたった一つでいい訳である。ところが右のごとく多数あ




るという事は、全く真に効く薬がないからである。


 そうして口から服む薬は、強すぎると口が荒れたり、中毒したりするから、大




いに弱めたと言いながら、何しろ一日数回で何日、何十何百日も服むとした




ら、幾ら少ない毒素でも相当の量に上るのである。そうして面白い事には洋薬




による苦痛は鋭い痛み、痒み、高熱、麻痺等すべて強烈であるが、漢薬の苦




痛は鈍痛、重懈(おもだる)さ、微熱等で緩徐(かんじょ)的である。また疫痢に




対する蓖麻子油(ひましゆ)とか、便秘に用いるカスカラ錠とか、その他色々な




新しい薬もあるが、なるほど一時は効くが結局は悪くなる。下剤も糞便処理の




機能を弱らせるから、一層便秘する事になる。また下剤を服む、便秘するとい




うように鼬鼠(いたち)ゴッコになり、ついに慢性便秘症となるのである。しかも




僅かずつでもその薬毒が溜る以上、他の新しい病原となるが、このための病




気は腎臓が多い。また腸を掃除するといって下剤を服ませるが、これなども実




に馬鹿馬鹿しい話で、掃除はチャンと腸自体が具合よくするのだから、余計な




事をして妨害するからいい訳はないのである。言うまでもなく不潔不必要なもの




が溜れば、腸は下痢にして出すように出来ている。疫痢なども私の長い経験




上、蓖麻子油を服まさない方が結果がいいのである。ここで浣腸についても注




意したいが、これも非常に悪い。ヤハリこれも下剤と同様、腸の活動を鈍らせ




るからである。考えてもみるがいい。糞便という汚物が溜れば、自然に肛門か




ら出るように出来ている。それだのに外部から誘導して出すなどは、何たる反




自然的行為であろうか、考えるまでもなく駄目に決まっている。またよく解熱手




段として浣腸を行うが、これは熱と糞弁とは何ら関係ない事を知らないからであ




る。以前こういう患者を扱った事がある。それは三歳の男児で、腹が太鼓のよ




うになっている。訊いてみると生まれて早々から浣腸を続けて来たので、段々




癖になり、浣腸をしなければ便が出ないようになってしまったので、つい悪いと




知りつつも、余り苦しがるので止める事が出来ないというので、私は医学の無




智に呆れたのである。今一つは医学は便秘すると自家中毒を発(おこ)すとよく




言われるが、これなども全然意味をなさない。医学は便が溜ると、便毒が身体




中に廻るように想うのだろうが、実に滑稽である。便はどんなに溜っても便の袋




以外に滲出するものではない。溜れば溜る程段々固くなるだけであるから、何




程溜っても健康にいささかも支障はないのである。私の経験から言っても、一、




二ケ月くらいはザラで、酷いのになると半ケ年も出ない者があったが何ともなか




った。以前ある婦人雑誌に出ていたが、二ケ年もの人があったそうだが、何と




もなかったという事である。これで見ても便秘は心配ないのである。





 次に寒〔感〕冒、結核、胃、腸等に関する薬剤は既に述べたが、その外脳に




対する鎮静剤、点眼薬、含嗽(うがい)薬、利尿剤、毒下し、温め薬、強壮剤、




増血剤、風邪引かぬ薬、咳止、痛み止等々あらゆる薬剤は、ことごとく病気増




悪の原因となっても、病気を治し得るものは一つもないのである。それについて




種々な実例を示してみるが、まず頭脳に用いる鎮痛剤など、一時はちょっと効




果を見せるが、ついには癖になって、知らず識らずの裡にその余毒が溜り、




種々な病原となる。また点眼薬は最も不可で、目星等でも固めてしまうから、反




って治り難くなる。また世人は知らないが、点眼薬はトラホームの原因ともなる




から注意すべきである。これは点眼薬にもよるが、事実は眼瞼(まぶた)の粘




膜へ薬毒が滲透し、年月を経て発疹となって出ようとするからである。また悲し




くもないのに常に涙の出る人は、点眼薬が時を経て涙に変化したものであるか




ら、出るだけ出れば自然に治ってしまう。ところが医学は涙嚢(るいのう)の故




障等というが見当違いもはなはだしい。また目脂(めやに)は前頭部の毒素ま




たは眼の奥の浄化によって排泄されるものであるから非常にいいので、何より




もいかなる眼病でも目脂が出るようになれば必ず治るのである。


 次は鼻薬であるが、鼻薬の中、特に恐るべきはコカイン中毒である。よくコカ




インを吸う癖の人があるが、一時爽快なので止められなくなり、長い間に脳を




冒して、夭折する人も少なくないが、特に芸能人に多いようである。


 次に含嗽薬であるが、これは極稀薄な毒ではあるが、始終用いていると、口




内の粘膜に滲透し、毒素となって排泄する時、粘膜が荒れたり、加答児(カタ




ル)を起したり、舌がザラザラしたり、小さな腫れ物等出来たりするから廃めた




方がいい。特に咽喉を使う芸能人には最も悪い。また一般水薬についても同じ

事が言える。長い間にヤハリ粘膜から滲透した薬毒は右と同様になるが、薬が




強いため悪性である。しかも意外な事には舌癌もこれが原因である。ところが




医学は薬で治そうとするから、病を追加する訳である。また薬入り歯磨等も、歯




を弱める事はなはだしいのである。


 次は塗布薬であるが、これも仲々馬鹿にはならない。塗布薬の毒素が皮膚




から滲透して、種々の病原となる事がよくある。以前こういう患者があった。最




初身体の一部に湿疹が出来たところ、医師は悪性として強い塗布薬を塗った




ので、段々拡がり二、三年の内には全身に及んでしまった。それまで有名な病




院に掛っていたが、もう駄目だといわれ、私の所へやって来たのであるが、私




は一目見て驚いたのは、身体中隙間もなく紫色になっており、ところどころに湿




疹が崩れ、汁が流れており、痒みよりもそれを打消す痛みの方が酷いそうで、




夜もろくろく眠れないという始末なので、流石の私も見込みないとして断った




が、それから一、二ケ月後死んだそうである。


 またこういう面白いのがあった。この患者は肩や背中が凝るので、有名なあ




る膏薬を始終貼っていたところ、長年に及んだので、膏薬の跡が背中一面幾




何学的模様のようになってしまい、いくら洗っても落ちないという事であった。そ




れは膏薬の薬毒が皮膚から滲透して、染めたようになってしまったので、しかも




絶えず相当痛みがあるので、私も随分骨折ったが、余程強いためと見えて、一




年くらいで大体治ったが、たかが膏薬等と思うが、決して馬鹿にはならない事を




知ったのである。





 今一つ全然世人の気のつ付かない事がある。それは有名な仁丹(じんたん)




で、この中毒も相当なもので、これは幾人もの例で知った事だが、仁丹常用者




は消化機能が弱り、顔色も悪く病気に罹り易くなる。今日問題となっている麻薬




中毒の軽いようなものである。


 ここで、薬毒中の王者ともいうべきものを一つかいてみるが、それは彼の駆




黴剤としての六〇六号、一名サルバルサンである。これは砒素(ヒソ)剤が原料




となっているくらいで、耳掻一杯で致死量となる程の劇薬であるから、浄化停止




の力も強いので、梅毒の発疹等にはよく効く訳である。もちろん浄化によって皮




膚へ押し出された発疹であるから、一度サルバルサンを注射するや、症状は




たちまち引込むという訳で、一時は綺麗になるが根本的ではない。これは医学




でもサルバルサンは一時的で、他の駆黴療法をあわせ行わねばならないとし




ている通りである。これについて私は大発見をした。というのはサルバルサ