西洋医学の進歩(2)

母のこともあり、ともするとポカンと虚ろな目をしている自分に気づくことしばしば。
しかし無理やり空元気を出す気にもなれず、かといって自堕落になってもしかたないので、できることをやっていこうかと思います。

今後直面する可能性の高い放射線治療はどんなものなのかと思っていたら、たまたま『PET Journal』という医用コンピュータ撮影技術の専門誌に出会った(PETは、愛玩動物のことではなく、Positron Emission Tomography; ポジトロン断層法の略)。
開いてみたら、「ガンマナイフ」という放射線治療装置について最近の動向が紹介されていたので、以下、まとめてみた(No.6)。

結局、
・高い精度で病巣にターゲットを絞れるので、正常部位への被害が最小限ですむ
・病巣が3cm以下なら、日帰りまたは短期入院で治療を受けられる
・精度を高めるためフレームという部材で頭部を固定するところがちょっとつらいかもしれない
というところ。

以下、まとめ。



東京女子医科大学大学院医学研究科 さいたまガンマナイフセンター 四方聖二、林基弘「ガンマナイフ治療の現状と展望」

γナイフというのは、頭部・頚部を放射線治療するための機械。

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放射線治療とは】
● Radiosurgery(放射線治療)の定義:"The delivery of a single, high dose of irradiation to a small and critically located intracranial volume through the intact skull"(頭蓋骨を無傷に保ったまま、頭蓋内の微小かつ決定的な部位に、一回で相当量の放射線を照射すること)
● ガンマナイフは、Lars Leksell(スウェーデン, 1907-1986)が40年以上前にプロトタイプを開発
● 2007年末までに世界で45万人以上、日本では10万人以上の患者が治療を受ける
● 用語:
低位放射線照射(STI:stereotactic irradiation)=病巣に対して多方向から放射線を集中すること
EBM(en:Evidence-based medicine)=根拠のある治療

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【ガンマナイフの特徴】
● LINAC(放射線治療用のX線・電子線の発生装置)やそのバリエーションである他の低位放射線治療機器とは根本的に異なる
● 治療器のしくみ:
・約200個のコバルト(Co60)が同心円状かつ半円球状に敷き詰められている
・各コバルトからは常時γ線が放出されている
・それがコリメーターヘルメットの中心に集中(照射焦点は「不動」)
・中心はγ線が集中するので、Automatic Positioning System(APS)というロボットアームで患者頭部が高精度に移動する
・80%線量域の直径が4mm、8mm、14mm、18mmのコリメーターを選択可能。これらの組み合わせで病巣の形状に合わせて治療計画を作成
・コバルトの周囲は厚い金属でシールド

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【治療手順】
1)頭部フレーム(レクセルGフレーム)を装着して頭部を固定:ガンマナイフ固有の方法。フレームを使うことで、機器に強固に患者頭部が固定されるため、高精度な治療が実現
2)定位画像検査:CT、MRIなど
3)治療計画作成。2の画像情報を治療計画作成用ワークステーション(ガンマプラン)に転送。神経機能解剖学と放射線生物学の視点から照射計画を作成(UIで)
最近では、他院撮影の非定位のPET画像(DICOM形式)もガンマプランに実装されたCo-registration機能によって定位画像に正確に重ね合わせられる。つまり綿密な計画作成が可能
例)多発性転移性脳腫瘍10個程度では、8000本以上の多門照射になるが、線量計算も正確かつ迅速で一期的(段階的でなく1回での)治療が可能
4)照射:ガンマプラン上で作成の治療計画は治療ユニットを制御するコンピュータに転送され自動的に照射実行
ガンマナイフでは線量率はコバルト60の放射線物理学的半減期に依存するため、理論値と測定値の誤差がなく、高い安全性が保証される

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【ガンマナイフの長短】
● 長所
a)手術不可能な脳深部の病変、手術後に重篤な神経学的後遺症の恐れがある運動野や言語野などの部位にある病変の治療が可能
b)全身麻酔不要、出血も伴わないため、高齢者や開頭不可能な条件の症例にも対応
c)大量出血や感染症などの合併症の危険性がない
d)治療は日帰りまたは短期入院で済み、すぐに社会復帰が可能

● 短所
a)一回の照射=SRS(stereostatic Radiosurgery定位手術的照射)であるため、対応できる治療病巣サイズに限界がある(一般的には、径30mm以下、容積10ml以下によい適応)
b)侵襲的に(=患者に負担を強いて)頭部にフレームを装着する必要があるため、治療対象が脳腫瘍などの頭頸部疾患に限られる
c)長期的な治療効果や後遺症については、通常の放射線治療よりもデータが少なく治療評価が難しい場合がある

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【ガンマナイフが効果を発揮する疾患・最近の傾向】
● 悪性脳腫瘍(転移性能腫瘍など)、良性脳腫瘍(髄膜腫など)、脳血管障害(脳動静脈奇形など)、機能的脳疾患(てんかんなど)、その他、眼球内腫瘍など
● 日本では近年転移性能腫瘍への治療が増加。治療全体の6割を占める。諸外国と比べて高い
● 理由。健康皆保険制度の普及によりガンマナイフ治療の経済的負担が少ないこと

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【治療症例】
転移性脳腫瘍(56歳男性)
肺ガン治療中に右半身麻痺、転移性能腫瘍と診断。嚢胞穿刺ののちγナイフを辺縁線量20Gy(グレイ)で施行。治療後約半年のMRIで腫瘍の著名な縮小、右半身麻痺は改善
(多発性病巣であっても一期的に治療可能。長期生存例では全脳照射に伴う晩発性高次脳機能障害も回避可能。全身状態が良好でない高リスク患者でも治療を受けることができる)

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【今後の展望】
2006年8月、ガンマナイフ最新鋭機Perfexion 1号機、フランス・マルセイユTimone大学病院導入。
・コバルト線源自体が可動
・複数のCollimator径を組み合わせることが可能
・1つのisocenter当たり6万通り以上の多様な照射野形状を作成可能
・治療ベッド自体が0.1mm単位での位置調整を保証
・従来機に比べ10倍以上の高速移動が可能