mmpoloの日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2016-06-27

[]野木萌葱『東京裁判』を見る



 野木萌葱 作『東京裁判』を新国立劇場演劇研修所10期生有志企画が上演した舞台を見た(芸能花伝舎新国立劇場演劇研修所 実習室、6月25日)。

 ごく簡単な装置。舞台の中央に丸いテーブルが置かれている。それをとり囲む5脚の椅子。芝居が始まると男たちが5人登場して椅子に座る。彼らは東京裁判の日本人側の弁護士たちと通訳だ。客席は舞台正面と右手に設置されていて、また正面客席の後ろ側に連合国側の判事たちと裁判長が並んでいると設定されているようだ。さらに舞台の裏手に同じく戦犯とされた被告28名が並び、舞台右手の客席の後ろに検事たちが並んでいるという設定になっている。実際に登場しているのは中央の5人だけ。

 5人の台詞だけで芝居が進行するが、通訳がいるので裁判長や判事、検事の重要な台詞は、通訳を通じて客にも伝えられるという形式になっている。

 最初に罪状認否から始まる。被告人が起訴状に書かれた罪状を認めるかどうかについて行う答弁だが、弁護人たちは動議を提出し裁判長の忌避を申し立てる。弁護人たちは裁判の形式のなかで取りうべき手段を駆使して被告を弁護してゆく。戦争犯罪を犯したという起訴状に対して、戦争をすることは政治の一つの選択であって国際法上禁止されているものではないと。罪は法に規定されるのだから。罪と責任は違うと。それらが検事や判事と弁護人の間で厳しく討議される。

 ややこしい裁判劇を見せられるのかと思ったが、弁護人たちの内紛や個々の心情など面白く、また緊張感が途切れることなく、手を握りしめながら見ていた。最後にそれまであまり発言しなかった弁護人の一人が、自分は広島被爆したとしてアメリカ批判する。そのとき感動でほとんど涙が出そうになった。

 太平洋戦争戦犯を扱った裁判劇という形式をとりながら、弁護人5人の葛藤を示す性格劇にもなっている。その構成がすばらしい。

 研修生たちの芝居ということを全く感じさせない優れた演技だった。ベテランが演技すればさらに良い芝居になるのだろうが、不満は感じなかった。演出家の名前が記されていないので訊けば、個人ではなく皆で演出したとのこと。素人考えだが、テーブルを舞台の下手寄りに置き、上手の空間を大きく取って、弁護人たちがもっと上手へ進んで演技すれば、舞台が大きくなったのではないか。テーブルに座っているというのが芝居の前提なのだが、立って話すときは上手へ出て行って話すとか、テーブルの形も半月形にして、弁護人たちは正面に向って弧の部分に並び、手前の弦の部分は誰も座らないなど、リアリズムを少し崩しても良かったのではないか。そうすれば役者たちの顔がよく見えることになる。森田芳光の映画『家族ゲーム』でも、家族の囲む食卓が横長のテーブルになっていて、皆向こう側に座っているというのがあったのだから。

 芝居の成功はなんといっても優れた台本にある。野木萌葱という作者は初めて知った。「パラドックス定数」という劇団に所属しているらしい。こんな骨太の芝居を書ける若手の劇作家がいるのだ! 

 5人の役者もすばらしかった。岩男海史、高倉直人、田村将一、中西良介、永田涼、忘れないよう名前を記しておこう。

 帰り道、いま見てきた芝居を反芻しながら感動に浸っていた。研修生の芝居ということで無料だった。なんだか申し訳ない気がした。

2016-06-26

[]アートギャラリー環の野津晋也展「浮かぬ水」を見る



 東京神田アートギャラリー環で野津晋也展「浮かぬ水」が開かれている(7月2日まで)。開廊40周年記念企画IIIと銘打たれている。画廊として力が入っている企画だ。

 野津は1969年島根県松江市生まれ、1992年に鳥取大学農学部を卒業した。さらに2000年に東京芸術大学美術学部油画専攻を卒業し、2002年に同じく東京芸術大学大学院油画専攻を修了している。ユニークな経歴だ。今までにアートギャラリー環や表参道のMUSEE Fなどで個展を行っている。

 野津は最近あまり見かけなくなったシュールレアリスム系の画家だ。とくに石田徹也が亡くなったあと、優れたシュールレアリストとして貴重な存在だ。

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 1階のスペースに紙に描かれた大きな作品が展示されている。毛が生えた猿の腕のような物体がうねうねと伸びている。作家のテキストによると、玄関近くの天井の隅のひび割れから雨水が滴り落ちるようになり、その開口部の回りに黒いすすのようなものが年輪のように拡がっている、とある。恐らくカビの一種だと思われると書かれている。それに触発されて描かれたのがこれだろう。

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 ほかに2階の展示室にあった大きな赤いリボンの作品が印象に残った。椅子の上に鎮座している大きな赤いリボンは床を覆った黒いカビに侵食され、リボンの一部もカビが浸透しつつある。天井や壁は赤い色がしみ出しているかのようだ。

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 西欧のシュールレアリスムと異なり、どこか湿っぽさを感じさせるのが日本的とも言えそうだ。ともあれ、西欧のシュールレアリスムに影響されて制作を始めたのだろうが、独自に日本的シュールの作品を作っている。ぜひ神田まで足を運んでほしい。

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野津晋也展「浮かぬ水」

2016年6月20日(月)〜7月2日(土)

11:00〜18:30(最終日は17:00まで)

日曜休廊

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アートギャラリー

東京都中央区日本橋室町4-3-7

電話03-3241-3920

http://www.art-kan.co.jp/

JR神田駅東口を出て中央通りを右折し(三越方向へ向かい)、カメラのキタムラの先を右折、すぐに老舗の蕎麦屋「砂場」があり、その手前を左折するとすぐ。(徒歩3−4分)

あるいはJR新日本橋駅または地下鉄三越前駅下車、連絡通路にて2番出口より徒歩3−4分

2016-06-25

[]STEPSギャラリーの吉岡まさみ展「secret memory」を見る



 東京銀座のSTEPSギャラリーで吉岡まさみ展「secret memory」が開かれている(7月2日まで)。吉岡は1956年山形県生まれ。1981年に東京学芸大学教育学部美術科を卒業している。1982年東京のかねこ・あーとGIで初個展、以来同画廊やときわ画廊、巷房などさまざまな画廊で個展を行ってきた。2007年からはアメリカドイツなどでも個展を行っているし、2015年にはセルビア国立美術館倉重光則とセルビア人画家との4人展を行っている。

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 今回の吉岡の展示はインスタレーションだ。画廊の壁面2面と床の一部を使って作品を制作している。その制作方法について、

1.B1の大きさの紙にマジックインクでドローイングする。

2.ドローイングを縮小コピーし、透明フィルムに転写する。

3.プロジェクターを使って、フィルム作品を画廊の壁に大きく投影する。

4.投影された作品の線の上をなぞりながらデザインテープを貼っていく。

5.テーピングはすべてスタッフが行い、作家本人は制作に加わらない。

 吉岡の作品のユニークな点は、制作最後の画廊の壁面へのテープを貼る作業をスタッフにまかせ、吉岡が一切タッチしないところだ。もちろんドローイングは吉岡が描くし、テープの色もどの壁面に投影するかも吉岡が決めている。しかし仕上げには一切タッチしていないのだ。

 壁面へ直接テープを貼っているので、会期終了後は剥がしてしまい、作品は映像記録としてしか残らない。たった10日間という贅沢な展示だ。

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 今回は同じようにドローイングしたものを、4号〜10号程度の大きさの板にプロジェクターから投影し、その形を吉岡本人が削ったものを着色したレリーフ状の作品も作って、奥の小部屋に展示している。いわばマケットみたいなものだ。

 会期終了とともに消えてしまうインスタレーション作品をぜひ自分の眼で見てほしい。ただSTEPSギャラリーは琉映ビルというエレベーターのないビルの5階にある。そのつもりで行かれること。なお同じビルの4階はギャラリー58になっている。

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吉岡まさみ展「secret memory」

2016年6月22日(水)〜7月3日(土)日曜休廊

12:00〜19:00(土曜日17:00まで)

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Steps Gallery(ステップス・ギャラリー

東京都中央区銀座4-4-13 琉映ビル5F

http://www.stepsgallery.org/

晴海通りから天賞堂GUCCIの間の道を入った右手

2016-06-24

[]ギャラリー惺SATORUの3人展「循環−風と水と大地」を見る



 東京吉祥寺ギャラリー惺SATORUで「循環−風と水と大地」をやっている(7月3日まで)。これは平体文枝、吉川民仁、山神悦子の3人展。3人のレベルが揃って高く、とても良いグループ展になっている。この3人の関係は? と問うと、ギャラリーで選んだのだという。

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 平体は1966年石川県生まれ。1989年に筑波大学芸術専門学群美術専攻を卒業している。今まで、なびす画廊、Oギャラリー、千空間、ギャラリー砂翁、ギャラリー福果、ギャラリーカメリアなど、各地の画廊で個展を開いている。2002年には文化庁派遣ベルギーに滞在し、2007年には損保ジャパン東郷青児美術館の「DOMANI−明日展」に、2015年には損保ジャパン日本興亜美術館の「クインテットII−五つ星の作家たち」にも参加している。

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 吉川は1965年千葉県生まれ。1991年武蔵野美術大学大学院造形研究科油絵コース修士課程を修了している。1995年文化庁インターンシップ研修員。1990年鎌倉画廊で初個展をして以来、同画廊ギャラリー覚日本橋高島屋美術画廊Xなどで個展を重ねている。2012年には川村記念美術館の「抽象と形態」にも選ばれて参加した。またスイスアートバーゼルやNICAFに何度も出品をしている。

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 山神は香川県生まれ、生年は明らかにしていない。御茶の水女子大学家政学部を卒業している。数年をアメリカスイスで暮らし、帰国後大石洋次郎に油彩を、黒田克正にクロッキーを習っている。個展はGアートギャラリーやかねこあーと、ガルリSOL、ギャラリーGANなど、30回近く行ってきた。1998年にはマケドニアで、2000年にはブルガリアで滞在制作を行っている。2012年にはベルギーの「Slick contenmporary art fair」に参加している。

 今回3つの壁面に3人が大きな作品を2点ずつ、もう一つの壁面に小品を並べている。展覧会のタイトル「循環−風と水と大地」は、3人の作風に自然に触発されて制作しているという共通点を見出して画廊提案したのだろう。3人の作品がそれぞれ異なりながらも、一つのスクールと言われても不思議はないほどの共通点を持っており、企画した画廊主の見識を称えたい。

 初めて入った画廊だったが、開廊16年とのことで、今まで一度も足を運んだことがなかったのを愧じた。吉祥寺駅公園口またはアトレ西口から徒歩7分、小さいながら良い空間だった。

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「循環−風と水と大地」

2016年6月18日(土)―7月3日(日)

12:00―19:00(最終日17:00まで)

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ギャラリー惺SATORU

東京都武蔵野市御殿山1−2−6 地下1階

電話0422−41−0435

http://gallerysatoru.com/

2016-06-23

[]ラファティ地球礁』を読む



 R. A. ラファティ地球礁』(河出文庫)を読む。奇妙なSFだ。以前も『つぎの岩につづく』(ハヤカワSF文庫)を読んだことがあった。『九百人のお祖母さん』(ハヤカワSF文庫)も持っていたが、これは読んだ記憶がない。書棚にもないので、読まないまま手放してしまったのかもしれない。

 本書は地球に住みついた異星人であるプーカ人のデュランティ一家地球人とどう交流するか、というよりどう戦ったかをプーカ人の側から書いている。ふつうSFに見られる、非地球的な要素をいかに説得的に語るかとか、そういう努力は一切ない。彼らがバガーハッハ詩なる奇妙な4行詩を唱えると、簡単に人間も殺すことができる。詩だからちゃんと脚韻を踏んでいる。

 その一例。

物盗り気取りはうんざり、止め頃

あぶくがはじける! 手からこぼれる!

スタット! 足元に気をつけろ!

ジャッカル斧を持っている!

 これで地球人スタットガードは殺されててしまうが、「妙なもので、人を殺しても、当の相手だけはそれがわからなかったりする」なんて書かれている。

 いわば、ほら話SFの系譜に属するだろう。『つぎの岩につづく』もほら話SFだった。ほら話SFといえば、スタニスワフ・レムの「泰平ヨン」の優れたシリーズを思い出す。レムのことだから単なるほら話ではなく、それが大きな哲学的思索に繋がっていた。だから、レムと比べれば、ラファティSFが射程の短いものに思われても仕方ないだろう。『九百人のお祖母さん』を読まないで手放したのも不思議はなかった。