mmpoloの日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2017-10-23

[]吉行淳之介『やややのはなし』を読む



 吉行淳之介『やややのはなし』(小学館)を読む。晩年の吉行のエッセイを集めたもの。具体的には昭和57年から平成3年にかけて発表したもの。吉行は1994年に70歳で亡くなっているから、60歳前後のものだ。短いエッセイが49編集められているが、これらがみな面白い。短いエッセイがみな面白いなんてさすが晩年の吉行だ。

 「美人六百年周期説」の冒頭、

 17、8年前になるか、「あの男は、ゲテ好みだ」とか、「あの男が美人だと言う女に、ロクなのはいない」とか、私はしばしば言われており、その言い方はかなりはびこって浸透していた。

 とある。そういえば私も中学生くらいの息子がいるある女性画家のことを、彼女美人ですねえと言ったとき、話し相手の画家Tさんが、え、あれが? と言ったので傷ついた。後日別の場所で数人の画家たち(すべて男)の前で同じ話をし、Tさんから、あれが? と言われたことを披露すると、全員がTさんと同じ反応をした。私の美意識もおかしいのだろうか?

 「ある奇術師の言葉」というエッセイ。吉行が評判の奇術師アダチ龍光と対談したときの話。昭和天皇の古希の祝いのときに宮中へ呼ばれて天皇の前で手品をした。その報酬について、

「変な話ですけれど、そのときの報酬といいますか、御下賜金といいますか、お車代というか……」

「向うは水引が違うんですよ。白と赤じゃなくて、宮中のは白とグリーン。アダチ龍光と書いてあって、殿も様もない、そりゃ、向うが上だもの」

「上は上だけど」

「金一封、2万円入っていました……」

 古希ということは1978年だろうか。当時の2万円は安くないだろうか。今だったら5万円程度に相当するかもしれないと考えれば妥当な金額か。まあ、宮内庁が金額を決めるのであって、昭和天皇が指示したことではないから。

 「ウイスキー」という章で、酒量の話がでてくる。

「斗酒ナオ辞セズ」などという言葉があるように、英雄豪傑は必ず大酒飲みで、たくさん飲めるほど人間としての器量が大きい、という考え方が根強く残っている。

 しかし、これは迷信なのだ。もう一度繰返すが、酒を飲めない大人物はいくらでもいる。もっとも、ここらあたり微妙なところがあって、大き過ぎるペニスは不自由だということはわかっていても、一度はそういうものを持ってみたい、という心持に似たところがある。

 本書の掉尾を飾っているのが「川端康成その円弧と直線」という康成論。昭和文学全集の解説として書かれたものらしい。康成の処女作を『ちよ』だとして、それは初恋の女への想いだという。その円弧を閉じるのが『みづうみ』である。円弧の上辺から垂直に伸びてゆく線が生まれて、『眠れる美女』『片腕』『たんぽぽ』だという。この直線の基点が『禽獣』だ。

『禽獣』は名作の評価高いが、その酷薄さ残酷さについて強調されすぎるところがある、と私はおもう。たしかに、康成の見え過ぎる眼は、自分の心の動きと無関係に対象を見てしまうところがある。しかし、それを書き記すのは、自分のやさしさに苛立ち腹を立て、それを放棄したためである。そういう意味でも『禽獣』は晩年作の先行作品といえる。

 吉行の作家論をもっと読みたかった。


P+D BOOKS やややのはなし

P+D BOOKS やややのはなし

2017-10-21

[]SPCギャラリーの柴田美智子展「変容」を見る



 東京日本橋兜町のSPCギャラリーで柴田美智子展「変容」が開かれている(10月28日まで)。柴田は東京都江東区生まれ、詳しいことは分からない。1994年に日本橋好文画廊で個展を開き、その後もギャラリーフレスカ、スパン・アートギャラリー新宿眼科画廊、ブロッケンギャラリーなどで個展を開いている。

 今回は猿の立体が展示されている。リアルな猿でありながら面白かった。金網のような素材で形を作り、それに麻糸を張り付けているようだ。ほとんどが尾を天井から吊り下げている。尾だけで吊り下げられていながら、そのバランスが巧みで生き生きとしたポーズを見せている。

床にも黒い2頭の猿が置かれていて、倒れている猿の下半身が溶け出しているように見え、それが長く伸びてその先からもう1頭の猿が立ち上がっているように見える。これがタイトルの「変容」だろうか。

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 画廊の空間を見事に使っている。見ていて気持ちの良い展示だった。

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柴田美智子展「変容」

2017年10月16日(月)―10月28日(土)

12:00−19:00(最終日17:00まで)日曜休廊

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SPCギャラリー

東京都中央区日本橋兜町9-7 SPCビル3階

電話03-3666-1036

http://www.spc.ne.jp/

地下鉄東西線日比谷線 茅場町駅11番出口より徒歩1分

地下鉄東西線銀座線都営浅草線 日本橋駅D2番出口より徒歩3分

2017-10-20

[]櫻木画廊の沓澤貴子展-watcher of the sky-を見る



 東京上野桜木の櫻木画廊で沓澤貴子展-watcher of the sky-が開かれている(10月29日まで)。沓澤は1971年静岡県生まれ、1996年に武蔵野美術大学造形学部油絵学科を卒業し、1998年に同大学大学院油絵コースを修了している。2001年ガレリアラセンで初個展を開き、Oギャラリー、かわさきIBM市民文化ギャラリーギャラリー砂翁、櫻木画廊などで発表をしてきている。

 今年1月に銀座のOギャラリーで個展をし、櫻木画廊では昨年1月に発表している。その櫻木画廊の個展について次のようにブログに書いた。

 沓澤は色彩の美しい抽象作品を描いている。色面で作られる形は何も具体的なものを連想させない。ほとんど色彩の変化というか、色彩の揺らぎと量感で作品を作っている。その揺らぎが画面に静かな動きを生み出している。色彩の揺らぎがつくる動きは緩やかだが、表面的なものではなく深いところから続いているように見える。沓澤独特の抽象作品だ。

 今年は少し変化を見せている。従来の作品を深化させた傾向のもののほか、強い形を描いているものがある。それらは必ずしも成功しているわけではないが、新しい展開を探っているその姿勢はとても好ましい。また麻袋に描いている作品もあった。それも違った味を出している。

 沓澤がさらなる深化と新しい展開を見せてくれることを切に望んでいる。

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麻袋に描いた作品(これのみ)

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沓澤貴子展-watcher of the sky-

2017年10月17日(火)―10月29日(日)

11:00−18:30(最終日17:30まで)、月曜日休廊

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櫻木画廊

東京都台東区上野桜木2-15-1

電話03-3823-3018

JR日暮里駅南口から谷中の墓地を通って徒歩10分

東京メトロ千代田線千駄木駅1出口から徒歩13分

東京メトロ千代田線根津駅1出口から徒歩13分

SCAI THE BATHHOUSEの前の交番横の路地を入って50mほどの左側

2017-10-19

[]北斎の肉筆画

 今週初めに知人の画家の個展のオープニングパーティーがあった。パーティーの会話のなかで北斎の名前が出ると、参加していた老画家Kさんが僕のところにこんなのがあるよと1枚のカラーコピーを取り出した。長い1本の竿を担いでいる男が描かれている。画面を左下から右上に引かれた竿の線は見事で半端なものではないと思わせた。

 Kさんが、若いころ由良哲次という学者から頂いたものだと言った。Kさんのお父さんが印刷業をしていて由良哲次と親交があった。お父さんの用事で由良さんの家を訪ねると玄関に見事な絵があった。その絵に圧倒されて立ちすくんでしまった。由良がそれは等伯だと言い、君はこの絵の良さが分かるのかと訊かれた。分かるも何も凄くて声も出ませんと答えた。室内に案内されるとさらに素晴らしい若冲か何かの屏風があった。Kさんは由良に気に入られてこの絵をもらったのだったが、君はお金に困ったら売り払いそうだからと、その場で絵に賛を書き込んだ。

 Kさんが披露したコピーには隅に北斎為一の署名がある。北斎の肉筆のようだった。Kさんは僕のところにそんなすごいものがあるはずがないと言われる。だが絵の格はすばらしいものだ。

 Kさんが続ける。由良哲次は戦前に書画骨董を収集していて、晩年に京都府立美術館にそれらを大量に寄贈し、由良哲次コレクションが作られているようです。帰宅して由良哲次を調べてみた。Wikipediaによれば、「由良哲次は日本の歴史哲学者日本史家、美術史家、浮世絵蒐集家。横光利一の『旅愁』のモデル」。さらに、「利殖の道に明るく、奈良県新沢千塚群集墳保護のため奈良県に私財1億円を寄付した他、奈良県橿原考古学研究所に3億円の寄付をおこない、由良大和古代文化研究基金を設置した。1979年、食道癌のため東京大学医学部附属病院で死亡。彼が蒐集した美術品の数々は、死後、奈良県立美術館に寄贈された。遺産の総額は時価10億円を超す」とある。Kさんの北斎は確かな筋から伝来したものだった。

 由良という名字は珍しいので、もしやと思ってWikipedia由良君美を引いてみた。やはり由良君美は哲次の息子だった。君美は東大教授で比較文学などを教えていた。高山宏四方田犬彦を育てている。以前、由良君美の『みみずく偏書記』をブログに紹介したことがある。また四方田が由良との交流を描いた『先生とわたし』も読後感想文をここに載せている。君美には感心しなかったが、四方田の本はとても良かった。


由良君美『みみずく偏書記』を読む(2012年7月19日)

「先生とわたし」を読む2011年9月2日)

2017-10-17

[]ガレリア・グラフィカbisの笠谷耕二展を見る



 東京銀座ガレリア・グラフィカbisで笠谷耕二展が開かれている(10月21日まで)。笠谷は1964年東京都生まれ。2007年にイタリア フィレンツェに留学する。2008年帰国するが、日本とイタリアに工房を持ち制作活動を続けている。

 2010年にエキジビット・ライブ&モリスで個展、2011年からガレリア・グラフィカbisでほぼ毎年個展を開き、今回が6回目となる。

 大理石の頭部像に似せたものをバナナで作っているという設定の彫刻作品。バナナはきわめて本物にそっくりだが、実は陶で作られている。型抜きをして焼き、油彩で着色している。みごとな出来栄えだ。とてもおもしろい。

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笠谷耕二展

2017年10月16日(月)〜10月21日(土)

11:00〜19:00(最終日は16:00まで)

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ガレリア・グラフィカbis

東京都中央区銀座6-13-4 銀座S2ビル1階

電話03-5550-1335

http://www.gg-bis.com