mmpoloの日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2016-09-28

[]フィリップ・カー『変わらざるもの』を読む



 フィリップ・カー『変わらざるもの』(PHP文芸文庫)を読む。重量級の傑作ミステリだ。カーはイギリスミステリ作家。デビュー作は『偽りの街』だった。第2次世界大戦直後のドイツが舞台となっている。主人公のベルンハルト・グンターは戦時中ドイツの親衛隊で警察の仕事をしていた。ナチスには入党していなかった。

 戦後私立探偵を始める。ドイツ連合国に敗れ戦争犯罪者たちが追求されていた。ナチスの幹部たちも逃亡を企てていた。私立探偵の仕事は行方不明者の捜索などが多かった。

 時代が1949年、失踪人の探索を始めたグンターが何者かに拉致される。総ページ数600ページ、戦後のドイツの歴史が深く絡まり合って、ストーリーは複雑さを極め、先が見通せない。最後までほとんど気を抜けなかった。

 なぜこんな傑作がベストセラーにならなかったのだろう。カーのほかの作品も絶版など入手困難なものが多いという。

 本書に限って言えば、戦後ドイツの複雑な歴史が絡まり合っていることがひとつだろう。もうひとつは600ページという大著のせいではないか。そう考えないと、ほかに欠点が見つからないのだ。ここ数年間で読んだミステリのベストだと断言できる(あまりミステリを読んでいないけど)。


変わらざるもの (PHP文芸文庫)

変わらざるもの (PHP文芸文庫)

2016-09-27

[]『図説 吉原事典』を読む



 永井義男『図説 吉原事典』(朝日文庫)を読む。知人(女性)があなた、こういうの好きでしょうとくれたもの。いささか誤解されているフシがあるが、とくにこの世界が好きなわけではない。でもせっかくもらったから、某所に置いて毎日少しずつ読んでいた。意外にもなかなかおもしろかった。江戸時代の吉原を詳細に描いている。当たり前だが知らないことばかりだった。

 最初に吉原の街の平面図が示される。完全に周囲を高い塀で囲まれていて、大門からしか出入りができない。遊女は決してここから出られない仕組みになっている。吉原のなかは、江戸町、角町、揚屋町、京町となっている。中央の通りが仲の町という。

 弘化3年の吉原の総人口が書かれている。8,778人、うち遊女が4,834人、世帯数が739軒という。遊女には階級があった。揚代も待遇も極端に違った。最高の遊女は1回12万円ほど、ついで7.5万円、5万円、2.5万円、1万円とずいぶん開きがあった。吉原以外で最低の夜鷹などは蕎麦1杯と同じだったという。つまり千円しなかったのだろう。吉原でも最高の遊女に芸者幇間も呼んで気前よく祝儀をはずめば1晩100万円も散財することになったという。

 遊女は貧しい農村などから人買いが集めて来た。生活に困った貧農が幼い女の子を3〜5両(30〜50万円)で売ったという。

 売れっ子になる遊女の条件として、「一に顔、二に床、三に手」とある。美貌がもっとも大事で、次いで寝床でのテクニック、そして手というのは手練手管、「泣いてみせたり、切々と訴えてみたり、拗ねてみせたり、妬いてみせたり、甘えてみたり」という。

 このほか様々な風習や独特の仕組みが詳しく語られる。本当に知らないことばかりで興味深く読んだ。それにしても性病が蔓延していたとか、遊女はみな早死にしたとか、悲惨な話が多かった。

 事典となっているが、物語のように読むことができた。


図説 吉原事典 (朝日文庫)

図説 吉原事典 (朝日文庫)

2016-09-26

[]ギャラリーなつかで「たまびやき」を見る



 東京京橋ギャラリーなつかで「たまびやき」が開かれている(10月1日まで)。「たまびやき」は、毎年ギャラリーなつかで開かれる多摩美術大学工芸学科/陶/選抜作品展だ。今年は第8回になり、参加している作家は、安藤優、石井あや子、大井真希、太田浩子、玖島優希、増田結衣、水谷汐梨の7名。

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大井真希:大きな複雑な形。たくさんの曲面が絡まり合っていて、構造が分かりにくい。今後の展開が期待できそうだ。

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安藤優:狛犬を表現しているという。今回唯一の男性。どこか「男」を感じさせる造形。

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玖島優希:壁面に設置された3つの作品。一見タブローにも見えるような形。陶でこんな形を作った作家は今までいなかった。ある意味、不思議な造形だ。

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太田浩子:壺のような形態だが、きわめて小さい口が一番上に開いているだけ。これでは壺の機能は果たせない。壺に似た形のオブジェ。

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増田結衣:小品が並んでいる。日常に使われる食器などに見えるが、いずれも機能しない。頭に取っ手があっても蓋になっていない。土瓶のようだが注ぎ口がない。だまされそうな形だ。

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水谷汐梨:今回の中で一番純粋なオブジェともいえる。きれいな形態をしている。水谷は骨壺と言っているがちょっとだけペニスを連想した。

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石井あや子:一番変な作品。形としてはヘッドフォンなのだが、メジャーが伸びている。これは通学電車の中で他人がそばに密着するのが嫌で、メジャーの数字45cm離れてほしいことを表しているという。「持ち歩く縄張り」と言っている。まさにアメリカ社会学者T. E. ホールの『かくれた次元』の内容を造形化したような作品だ。

       ・

「たまびやき」

2016年9月26日(月)−10月1日(土)

11:00−18:30(最終日は17:00まで)

       ・

ギャラリーなつか

東京都中央区京橋3-4-2 フォーチュンビル1階

電話03-6265-1889

http://homepage2.nifty.com/gallery-natsuka/

かくれた次元

かくれた次元

2016-09-25

[]ブコウスキーパルプ』を読む



 チャールズ・ブコウスキーパルプ』(ちくま文庫)を読む。ブコウスキーを読むのは初めてだった。『町でいちばんの美女』の題名だけは知っているという程度。いつかは読みたいと思っていた。

 本書はミステリ仕立て、主人公が私立探偵ニック・ビレーンだ。ところが鼻っからの依頼が、とうに亡くなっているセリーヌを探してほしいというものだった。セリーヌは死にましたよと答える探偵に、依頼人はセリーヌは生きているのよ! と、セリーヌが生きていることの確証を要求する。

 ほかに赤い雀をさがしてくれ、女房の浮気を調査してくれ、などの依頼が舞い込む。調査の途中、カーラジオのスイッチを入れると、突然依頼人からの連絡が流れる。ラジオ自動車電話のように使っている。原著の発行をみたら1994年だった。

 ついに宇宙人のすごい美女にマインドコントロールされているという依頼人まで現れる。ところがこの宇宙人が本物だった。地球征服を企んでいるという美人の宇宙人は、本当は蛇のような存在で、自由に姿を変えることができるし、超能力も持っている。

 そんなハチャメチャなストーリーが進行していく。題名の『パルプ』とは、20世紀前半にアメリカで流行した安っぽい紙を使った大衆小説のことを指すらしい。だから本書は荒唐無稽な大衆小説のつくりを模しているのだろう。

 内容の支離滅裂さや荒唐無稽さに驚きながら読んだが、それなりにおもしろかった。今度『町でいちばんの美女』を読んでみよう。


2016-09-23

[]飯田市への旅



 飯田市へ行って来た。11月初めに予定している山本弘展に展示する作品を借りるため、天竜峡山本弘未亡人宅を訪い、作品を数点借りてきた。

 その夜は昨年亡くなった友人の兄貴さんから、友人の遺品としてケンプの弾くベートーヴェンピアノソナタ全集のLPをいただいてきた。彼はケンプが好きだった。私がクラシック音楽を聴くようになったのは10代の終わり頃、彼から繰り返し聴かされたこのレコードと、ヒュッシュの歌うシューベルトの「冬の旅」からだった。

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 翌日東京へ戻る前に飯田市美術博物館を訪ねたが、祝日の翌日ということで休館だった。りんご並木にたくさんのりんごが実っていた。その一角には日夏耿之介の詩碑が建っている。

あはれ 夢まぐはしき密咒を誦すてふ

邪神のような黄老は逝つた

「秋」のことく「幸福」のことく「来し方」のことく