サイムが消えた。ある朝、彼が職場に現れず、数人の不注意な者が彼の不在を口にした。翌日、彼のことを話題にする者は誰もいなかった。三日目、ウィンストンは記録局のロビーにある掲示板を確認した。そこにはチェス委員会の名簿があったが、サイムの名前だけが削り取られていた。それだけで十分だった。サイムは存在しなくなったのだ。初めから一度も存在しなかったことになったのだ。 気候は焼けるように暑かった。迷宮のような省内は空調で一定に保たれていたが、一歩外に出れば舗道は足を焼き、ラッシュ時の地下鉄の悪臭は地獄のようだった。「ヘイト・ウィーク(憎悪週間)」の準備が佳境を迎え、全省庁の職員が残業に追われていた。行進、…