「1分間の携帯通話料は、東京はニューヨークの2.7倍」なのか?

「日本の携帯料金は高い」という福田尚久氏のツイート

たまたまtwitterのツイートをたどっていったら、こんな発言を見かけた。

おっしゃる通り。端末開発費用、端末代金、MNOの巨大な利益、MNOの海外投資、全て全て結局はユーザが100%払っている。だから日本の携帯料金は高い。RT @rokuzouhonda:端末開発費用のMNO負担額が大きいのも、周り巡ると元は通信費用ですよね。
http://twitter.com/naohisafukuda/status/11825601501

いまだにこんなことを言っているんだなあと思って、発言者を見てみると日本通信常務取締役の福田尚久氏である。Twitterでの発言は個人的なもの(”my tweets are of my personal thoughts.”)と書いてあるし、これといって日本通信に不満があるわけでもないのだが、この発言に疑問を感じたので、

@naohisafukuda 「日本の携帯料金は高い」<すみませんが、これは電話機が高いということですか、それとも通話料の意味ですか? 後者は別に高くないですよね→ http://tinyurl.com/yjsfxpv (PDF、総務省資料)
http://twitter.com/mohno/status/11831144750

とお尋ねした。すると、

@mohno 同じ資料ですが、1分間の携帯通話料は、東京はニューヨークの2.7倍です。
http://twitter.com/naohisafukuda/status/11832028393

とお答があった。だが、これは3年前に「「東京の携帯通話料はNYの3倍」という記事の中身」というエントリで懸念していたとおりの答えなのである。

「2.7倍」というのはどういう数字か

総務省の資料「平成20年度 電気通信サービスに係る内外価格差に関する調査」(PDF)には、携帯電話の総括として以下のように書かれている(16ページ)。

○ 低利用者では、ニューヨークが高く、東京は平均的な水準である。
○ 中利用者では、ニューヨーク、パリが高く、東京は中位の水準にある。
○ 高利用者では、東京はパリ、デュッセルドルフと並び高い水準にある。

これを見れば「1分間の携帯通話料は、東京はニューヨークの2.7倍」どころか「ニューヨークは携帯通話料が高いんだな」と思うのが普通であろう。では、総務省の総括が間違っているのだろうか。もちろんそうではない。資料の16ページ以降のグラフを見れば、この総括どおりであることがわかるだろう。補足すると、音声通話に限れば、高利用者モデルですら東京4200円、ニューヨーク3800円と、大差ないことがわかる。

では、「1分間の携帯通話料は、東京はニューヨークの2.7倍」という表現はどこから出てきたのだろうか。先に示したエントリは読売新聞の「東京の携帯通話料はNYの3倍」という記事に対するものだが、この「大きな開き」を示す数字は、その先にある「参考 各国の平均的な利用分数による料金比較」(19ページ)から出てきたものだ。ここで示されている以下の図を見ると、たしかに「1分あたりの通話料」は東京が27.7円なのに対し、ニューヨークは10.0円であり、2.7倍を裏付けている。しかし、都市名の下にある「平均的な利用分数」を見ると、東京は95分で、ニューヨークは385分とある。長電話する人なら、料金単価が下がって当たり前じゃないか。


料金プランの比較

3年前にもやったことだが、改めてアメリカと日本の携帯通話料金を比較してみよう。今回はVerizon WirelessとdocomoのWebサイトから料金プランを抜粋してみる*1

Verizon WirelessのIndividual Plansは、以下の通り(地域はニューヨークを選択)。

月額(ドル) 無料通話(分) 追加料金(ドル、1分あたり) 深夜週末
39.99 450 0.45 無制限
59.99 900 0.40 無制限
69.99 無制限 なし 無制限

3年前は59.99の上にも199.99までのプランがあったが、69.99の無制限プランに集約されたようだ。

続いてdocomoのバリュープランは、以下の通り(1ドル=90円で換算、追加料金は30秒単位を1分単位に換算)。

月額(ドル) 無料通話(分) 追加料金(ドル、1分あたり) 深夜週末
20.07 25 0.44 n/a
33.33 55 0.40 n/a
55.56 142 0.31 n/a
88.89 300 0.22 n/a
144.44 733 0.17 n/a

「あれ? やっぱりVerizonは無料通話が長いし、docomoは基本料金が随分高いじゃないか」と思う人がいるかもしれない。だがアメリカでは着信でも通話料がかかるのだ。つまり、無料通話分はざっくり半分になり、追加の通話料は倍になると思ってよい。そして、アメリカの携帯プランはたいてい2年縛りがある。つまり、docomoでいうところの「ひとりでも割」、つまり基本料金が半額となる条件が最初から課せられているのである。それを踏まえて表を書きなおすとこうなる。

Verizon WirelessのIndividual Plans(発信・着信が同じ場合)。

月額(ドル) 無料通話(分) 追加料金(ドル、1分あたり) 深夜週末
39.99 225 0.90 無制限
59.99 450 0.80 無制限
69.99 無制限 なし 無制限

docomoのバリュープラン(「ひとりでも割」を適用)

月額(ドル) 無料通話(分) 追加料金(ドル、1分あたり) 深夜週末
10.04 25 0.44 n/a
16.67 55 0.40 n/a
27.78 142 0.31 n/a
44.44 300 0.22 n/a
72.22 733 0.17 n/a

Verizonは、docomoより追加通話料がずっと高くなっているのも注目すべき点である。たとえば、普段1日平均5〜6分(発着信で10〜12分相当)しか使わない人は39.99ドルのプランを選べばよいはずだ。ところが、無料通話分を超えると料金がどんどん上がっていくのである。39.99ドルのプランの人が、たまたま1日平均で10分(発着信で20分、1カ月の発着信600分相当)話してしまうと、107ドルもかかってしまうのだ。それくらいならと上位のプランを選ぶ、あるいは無制限プランを選ぶ人も多くなるだろう。さらにいえば、ニューヨークでの平均通話時間が他の都市に比べて突出して長いのも、そのためではないかと推察できる。

一方、docomoなら1日4分(1ヵ月120分相当)のつもりで27.78のプラン(タイプMバリュー)を選んでおけば、1カ月で300分話したとしても52ドル(4712円)で済む。上位プラン(タイプLバリュー、4200円)にしておけばよかったかもしれないが、たまに何かが起きて頻繁に長電話しなければならないことが起きても、そのときだけのことと諦められる程度の金額ではないだろうか。

東京での平均利用分数が95分であるという数字を思い出してみよう。いや、それより自分の通話時間を考えてみる方がよいだろう。ほんとうにアメリカの通話料金が「うらやましい」と思えるほど安いと言えるだろうか。

*1:なお、総務省の資料はVerizonとdocomoの家族向けプランを想定しているので、ここで示す数字とは多少異なっている