長崎にて










長崎は不思議な街。
路面電車に乗らなくても歩いて回れてしまうくらい小さな空間に西洋と東洋が混在している。
港からほんの少し進むともう山が始まり、坂と階段で構成された住宅街にはびっしりと建物がひしめき合っている。
ひたすら続く階段を下りながらおしゃべりしたおばあさんはどこに行くにも階段で大変だと不安げにつぶやいていた。


港の沖合10kmに浮かぶ軍艦島は元炭坑の島で、最盛期には5000人以上の人々が暮らし世界一の人口密度を誇っていたという。
高層アパートが林立し、市場や学校、娯楽施設もあり、島の中で生活が完結していたらしい。
寒さしのぎに入ったカフェに置いてあったガイドブックには今は無人島となったその島へ渡るツアーが紹介されていた。
稀な運命を辿ったその島に好奇心も湧いたけれど、どうにも寂しげな印象が残った。


後日友人から借りた吉田修一の小説にたまたまこの島のことが書かれていて、旅中に感じた寂しさがよみがえったのだった。