青木昌彦『現代の企業』についてのメモ

 新書の『青木昌彦の経済学入門』ちくま新書)が面白かったので読んでみました。
 ただ、忙しくて読むのが飛び飛びになったのと、何といってもかなり専門的な本で、数式やら各国の労使関係についての法制度なんかがバシバシ出てきて(しかも原著は1984年出版なんで、今とはまた違う状況であって説明を受けてもピンと来ないことが多い)、正直な所、あんまり理解できなかったですし、それほど面白いとは思えませんでした。


 内容的には、ロナルド・H・コース『企業・市場・法』で問題視された「企業」という存在について、各国における企業のあり方の違いをゲーム理論と各国の法制度からアプローチした本になっています。
 特に、オイルショック以降、世界的に存在感を持ち始めた日本企業のあり方を明らかにしようとしていて、小池和夫などの理論も引きながら、日本的経営の合理性を示そうとしています(このあたりがこの本を古く感じさせる要因でもありますが)。
 そして、経営者の役割に関して、「経営者の本質的な機能を、協調ゲームの解を見いだすことに共通の利益を有する株主集団と従業員の間のそれとして概念化」(116p)したところに、この本の特徴の一つがあるんだと思います。


 ただ、ここで読書メモ的に紹介したいのは青木昌彦の金融政策についての言及。
 『青木昌彦の経済学入門』について稲葉振一郎氏や田中秀臣氏が、「マクロ経済を語っていない」と不満を示していましたが、少なくともこの本においては、「日本では金融政策の効果があまりないだろう」との見立てのようです(再度書いておきますが原著は1984年出版)。

 スタンレー・フィッシャー、マイケル・ブルーノ=ジェフリー・サックスといった経済学者たちは、相互にかさなりあった長期の賃金協定が支配的であるアメリカ合衆国においては、貨幣量の増大は実質賃金率を切下げ、したがって賃金のインデックスセーションの限定された効果のゆえに、利潤の削減(スクイーズ)の現象を緩和することができると主張している。かくしてアメリカ合衆国においては、貨幣政策と産出量のあいだには、相対的に強い結びつきが存在するのかもしれない。ことばをかえていうならば、能動的貨幣政策に一定の役割があるのかもしれないのである。他方、日本とドイツのように賃金交渉が年次的におこなわれる国々においては、実質賃金率は交渉の当事者自身によって調整され、能動的な貨幣政策には限定された余地しか残されないということであろう。(246-247p)

 
 まあ、この時点ではさすがにデフレを伴う長期不況までは予想していなかったのでしょう。


現代の企業―ゲームの理論から見た法と経済 (岩波モダンクラシックス)
青木 昌彦
4000266780


青木昌彦の経済学入門: 制度論の地平を拡げる (ちくま新書)
青木 昌彦
4480067531