陸上競技:パパ・マサッタ・ディアクの競技場からの退場

その場にいない人物の三文字のイニシャルが、あらゆるところに登場する。「PMD」、パパ・マサッタ・ディアクは、世界アンチドーピング協会の第三者委員会が特例として、フランス検察当局(Le paquet national financier français)との共同で1月14日にミュンヘンにて行う、待望の記者会見の中心人物となるであろう。世界陸上競技連盟(IAAF)において2014年12月までマーケティングコンサルタントをしていたパパ・マサッタ・ディアクには、IAAFの頂点で行われた贈収賄システムの中心にいるとの嫌疑をかけられており、これがフランス司法当局に徹底的な調査を促した。

彼の父親 ラミーヌ・ディアクは、1999年から2015年にかけてのIAAFの会長であり、現在「贈収賄」と「aggravéなマネーロンダリング」の捜査中で、金銭を受け取ってロシア選手たちのドーピング事件を金銭を隠蔽した嫌疑を受けている。50歳になる彼の息子がまだ捜査を受けていないが、それは彼はこの数ヶ月間はフランスに行かないよう気をつけていたからである。

ラミーヌ・ディアクは、最初の2人の妻とともに15人の子供をもうけており、彼はその大家族の3人目の子供で、用心深くダカールにいる。ル・モンド紙は、彼の父親が判事Renaud Van Ruymbekeの前で行った信じられないような告白を明らかにした。セネガルで行われた選挙キャンペーンで、前会長のアブドゥラヤ・ワデをぶちのめすべくパパ・マサッタ・ディアクがロシアからの金銭で組織した資金繰りについて言及したのだ。判事がこのIAAFの前会長に、誰が金銭を受け取ったのかと尋ねると、ラミーヌ・ディアクは「パパ・マサッタ・ディアクなら答えることができる」と断言した。その4日後、息子パパ・マサッタは、「陰謀」だと宣言し、父親の申し立てを(82歳という)「年齢のせい」だとした。セネガルのテレビ画面には、どっしりとした体格で、白いブーブーに黄色のバブーシュを履いたパパ・マサッタ・ディアクが、ソファーにゆったりと座っていた。分厚いメガネの向こうで、彼はフランス人インタヴュアーに対して落ち着きはらっていた。

「自分はセネガルにいるのだが、裁判官たちが司法共助を出すのは勝手です。自分はセネガル市民であって、フランスの市民ではない。」


パパ・マサッタ・ディアクがふんぞり返っても無駄で、その心配のタネは山積みになっている。フランス司法当局には、彼に尋ねなければならない質問がたくさんある。ル・モンド紙が閲覧を許された予審資料では、Renaud Van Ruymbeke判事が、ステファニー・タショーとシャルロット・ビルゲーの協力を得て組み上げようとした、贈収賄・ドーピング・スポンサー権が一体となった膨大なパズルには、主要でそれゆえ今のところ欠けているピースがあり、それが彼であることが明らかとなっている。

捜査員たちは、パパ・マサッタ・ディアクが2013年7月16日と25日にパリ8区にて、「Elysées Shoppingの看板のもとで」131,400ユーロ(約1840万円)にて「腕時計と高級品」を購入したことを突き止めている。その目的とは?国際陸連の前アンチドーピング部門長 ガブリエル・ドレは、彼も調査を受けているのだが、監視下に置かれていた際に、パパ・マサッタ・ディアク側から高級腕時計を受け取ったと警察に話している。ドレ氏は、ラミーヌ・ディアクの息子が、ロシア陸上選手のドーピングの件を隠すために、国際陸連が本拠地を置く「モナコの、フェアモン・ホテルにて」5万ユーロ(*約700万円)を現金でポンと彼に手渡したと明言している。この131,400ユーロは、その請求額の一部が、ブラック・タイディングス、すなわち英語で「黒っぽい知らせ」なる会社からの85,000ユーロ(*約1190万円)の送金で返済されており、それゆえにいっそう捜査員の興味を引いている。

シンガポールに拠点を置くブラック・タイディングス社(Société Black Tidings)は、イアン・タン・トン・ハンと称する人物により運営されている。この人物は、Athletics Management Service社に対して有利になるよう働いており、これは国際陸運のマーケティング権を保有する日本の会社、Dentsuに利益をはかる(pour compte de Dentsu)組織である。何よりも、イアン・タンはパパ・マサッタ・ディアクのとても良き友人(*bon ami :もしくは愛人?)である。それゆえ年下のマサッタに電話をかけ、彼の友人の保有する会社の一つ、PMDコンサルティングドメイン名を潰しているほどである。


シセとパパ・マサッタ・ディアクは「まったくやりたい放題」だった
イアン・タンとブラック・タイディングス社の名前は、ロシア人 リリヤ・ショブホワの件でも登場する。このマラソン選手は、ドーピングのために最終的に2014年4月に出場停止となっているが、2012年のロンドンオリンピックに参加できるよう、そしてすべての血液検査結果をまとめた記録である「生体パスポート」の異常なデータを隠すために、45万ユーロ(*約6300万円)を支払ったと述べている。

捜査員たちは、パパ・マサッタ・ディアクが恐喝(chantage)にも関与したのではないかと疑っている。世界アンチドーピング協会第三者委員会による結論では、2012年12月にこの人物は、弁護士ハビーブ・シセ(調査中)とともにモスクワへ行っている。豪華なバルツング・ケンピンスキー・ホテルで、この二人の人物はロシア連盟の会長ヴァレンティン・バラフニチェフとロシア・ナショナルチームのコーチ アレクセイ・メルニコフと会ったらしい。この2人の国際陸連倫理委員会の幹部は、国際陸連の倫理委員会が1月7日に終身資格停止にしている。Le Monde紙がこれに加えて、バラフニチェフ氏は、モスクワでハビーブ・シセとパパ・マサッタ・ディアクに会う予定があったことは、きちんと認めているものの、彼は「マーケティングについて」語っただけだと断言している。金銭を送っても結局は出場停止となることを防げなかったと判明したため不満であるとして、ショブホワは返金してほしいとした。そして2014年3月に、彼女はブラック・タイディングス社の「イアン・タン」なる人物からの振替として30万ユーロ(*約4200万円)を受け取った。

「シセとパパ・マサッタ・ディアクは、国際陸連の内部では「まったく制御できず」、自分たちのやりたいことをすることが認められていた、と世界アンチドーピング協会第三者委員会の調査員は、そのレポートに記載している。この権限ゆえに、彼らは不当に金銭を得るための詐欺を組織することができたのだ。」


2012年オリンピック女子1500m競技の優勝者、トルコ人のアスリ・アルプテキンは、その犠牲者の一部と思われる。ロンドンでの受賞後、メディアは彼女が50万ユーロの報奨金を受けたことを報じた。それにも関わらず、彼女の生体パスポートには異常なデータがあった。パパ・マサッタ・ディアクが関与したのはここである。この選手とその夫は、第三者委員会の前で証言することを受諾し、彼女らによれば、この人物が2012年11月にイスタンブールを訪れ、50万ユーロ(*約7000万円)を現金で用意すれば、引き換えに彼女の異常データを隠蔽すると彼女らに提案した。この試みは失敗した。しかし、第三者委員会は「国際陸連マーケティングでパパ・マサッタ・ディアクが単独で関係した範囲では、彼はある選手の生体パスポートについて語ることを硬く禁じており、ましてや隠蔽のための支払いに現金を要求することについてはなおさらである。これは少なくとも、行動規範の全くの掟破りである」ことに気付いている。(?) LeMonde紙と接触したパパ・マサッタ・ディアクの弁護士ジャン-イヴ・ガロー女史は、私たちの要請には答えなかった。

調査員たちは、2013年7月29日に、パパ・マサッタ・ディアクが彼の父親に送ったメールにも興味を持っている。この息子は、ロシアの陸上競技連盟会長ヴァレンチン・バラフニシェフが、ロシア人の生体パスポートに関して過度に興味を示している国際陸連のある人物に対して介入するよう、彼に働きかけたと書いている。「そのために、次の人物に対するロビイ活動と弁明(explication)の仕事が行われた。C. Thiaré (50k)、Nick Davies (UK press のロビイ活動 30k, そしてJane Boulterを静かにする)、G. Dollé (50k)とPY Garnier (Champagnolleのアシスト 10k, Cheikhが管理)」とパパ・マサッタ・ディアクははっきり記載している。警察から監視を受けた際に、このメールに関する尋問を受けたラミーヌ・ディアクは、息子は「黙らせるために、誰かれ構わずに金銭を与えた」のだと説明した。ル・モンド紙が接触したヴァレンチン・バラフニシェフやこの「ロビイ活動」の対象となった人物たちは、この引証に異議を唱えてはいるが、それでもやはり彼らは調査員たちの興味を引いている。


1億500万ユーロの賄賂
パパ・マサッタ・ディアクは、1990年と2000年の転換期に、スイスのスポーツマーケティング会社 International Sports Marketing(ISL)で経験を積んでいる。ISLは国際陸連のテレビ放映権を独占しており、1989年から2001年にかけて1億500万ユーロの賄賂を、国際サッカー協会と国際オリンピック委員会(IOC)の幹部にばら撒いたとして、スイス司法当局から追求を受けていた。この状況を受けてラミーヌ・ディアクは、2011年の年末に懲戒処分・訓戒を受けている。

2001年のISLの経営破綻を受けて、国際陸連は次のパートナーを見つけねばならない。デンツー(Dentsu)が国際連盟のテレビ放映権と番組提供を同時に獲得する。「権利販売のマーケティング、とりわけ国際陸連が確かな可能性を見出していた急成長領域においてデンツーを支援するために、ラミーヌはその領域で評価を得ていたパパ・マサッタ・ディアクに助力を求めた。この評価は中国、ロシア、インド、カタールなどにも関係した」と、国際陸連の事務長(2011-2015) エッサー・ガブリエルは、10月8日にVan Ruymbeke判事の執務室で説明している。

ここ数年間で、2011年にテグ(韓国)、2013年にモスクワ、2015年に北京、そして2019年にドーハで行われる世界陸上競技選手権大会があり、この急成長する領域がもてはやされた。韓国のSamsungグループ、中国の巨大石油企業Sinopec、もしくはロシアのVTB Bankとの重要なパートナーシップが契約が結ばれた。「この時期には、スポンサー企業とパパ・マサッタ・ディアクとの協議があって、彼は私に、ダメな広告会社(une mauvaise publicité)は交渉の邪魔になると言っていた」と、ガブリエル・ドレは、ロシアのドーピング事件の隠蔽を説明するにあたって調査官の前でその記憶をたどっている。11月1日にラミーヌ・ディアクは「あれは一番いい売り手だった。アフリカ、ついでカタール、中国で陸上競技を発展させることに彼は貢献したんだ」とまとめている。

2014年12月にガーディアン紙は、2011年10月にパパ・マサッタ・ディアクによってカタール関係者に送られた、500万ドルの送金を要求するメールの一部を掲載した。2017年の世界選手権大会の候補地 ドーハは、その一ヶ月後にロンドンと候補地を争う形となって選考を逃している。しかし、このカタールの首都は、2019年の世界選手権会場を獲得している。この種の介入についてはすべて否定していたにもかかわらず、パパ・マサッタ・ディアクはそのコンサルタントのポストを辞任せざるを得なくなった。

世界アンチドーピング協会第三者委員会の作業と並行して調査していた、イギリスの民間調査員 マルタン・ドゥべは、贈収賄・金融および税務犯罪中央対策室の警察官による審査を9月30日に受けており、パパ・マサッタ・ディアクが国際陸連内部でしめた重要性を次のようにまとめる。「パパ・マサッタ・ディアクが国際陸連マーケティング部門だった。文書上ではそれはエッサー・ガブリエルだったのだが、実際にはディアクだったのだ。会長の息子だったため、彼は思い通りにすることができた。エッサー・ガブリエルにとっては、ディアクは国際陸連のためにたくさんの金銭をもたらして、いい仕事をしていた。」調査員ドゥべ氏は、国際陸連と同時にデンツーのためにも(à la fois pour)働く「パパ・マサッタ・ディアクをめぐっては、ものすごい利害の対立があった」と考えている。ラミーヌ・ディアク自身は、そこで彼に何らの不都合も認めなかった。

「彼は国際陸連で要求されているレベルの結果をもたらす、だから自分は彼と仕事を続ける。」

国際陸連の倫理委員会は、1月7日にパパ・マサッタ・ディアクを終身資格停止とするよう勧告した。しかし、国際陸連のかつての亡霊にとって、この処分で厄介ごとが終わることは意味していなかった。彼のレポートでは、世界アンチドーピング協会の第三者委員会は、「パパ・マサッタ・ディアクをめぐる契約、マーケティングと番組提供に関する協定について、独立した機関が完全な監査を進める」ことを勧めている。ドーピング事件に次いで、スポンサー権がしっかり世界陸上競技の一連の不祥事となりかねないみたいだ。そこでもまた、パパ・マサッタ・ディアクが主要な役割を演じるであろう。
(Le Monde紙 2016年1月12日)