断片日記

断片と告知

鍵なしッ子 大阪京都死闘篇その2

朝起きると、相部屋の女性はもういない。荷物もない。同じ部屋に一晩寝たのに、あっけない。JR環状線に乗り玉造から天満まで。電車の中から、昨日歩いた大阪城周辺が見える。桜ノ宮駅のそばは、本当に桜だらけで驚く。天満駅で降り、昨日歩いて気に入った天神のアーケードを抜けてiTohenへ行き、預けてあった額装した水彩画を持って中崎町cocoaさんに行く。iTohenにはオイルパステルの黒い絵、cocoaには水彩の絵を期間中飾らせていただく。レジそばの白い壁に絵を飾る。cocoaさんの雑貨と、水彩の絵は合っていると思う。
展示もし終わったので中崎町のお隣の町、中津へナンダロウさんお薦めの古本喫茶伽羅を探しに行く。道に迷う。いつのまにか梅田にいる。警察で道を聞き昼過ぎに伽羅に着くが、シャッターが下りている。隣のガラス屋のおじさんに聞くと「きまぐれやから・・・1時半か2時くらいには・・・」と言われ時間つぶしに昼飯を食べに行く。町を歩いていて見つけた定食屋。サラリーマンのおじさん達がひっきりなしに店に入っていく。こうゆう店はまず外れがない。塩さば定食を頼む。塩さば、ナスの田楽、揚げだし豆腐、胡瓜のおしんこ、澄まし汁、ご飯。みんなうまい。特に塩さばが最高だった。まだ2時には早いので、伽羅のすぐそばの中津商店街とその周辺を散歩する。中津商店街は古くて寂れているけれど、ちゃんとアーケードがある。商店街の外れに行くと銭湯の煙突が見えた。近づくと解体中で、脱衣所はもうなく、奥の洗い場のタイルが見える。歩いていて古い長屋がたくさんあった。あの人たちは、これからどこの風呂屋に行くのだろう、と余計な心配をする。そして壊している銭湯を見るのは悲しい。歩いていたら淀川にぶつかった。昨日渡ってきた橋も見える。天気がいいので土手に座り川と電車と空を見ながらぼーっとする。土手の隅っこに近所の人たちが勝手に野菜を栽培している。結構広い畑が出来ている。大阪の人のたくましさを感じる。
伽羅のそばの公園でさらに時間をつぶしていると、制服を着た小学1年生の男の子が隣に座ってくる。手をそっと叩いて、何か言いたげに顔を見る。もじもじして何も言わない。でもずっとそばにいて、公園の草をむしっている。30分くらいもじもじ草をむしった後、やっと話だす。お母さんは仕事で4時にならないと帰ってこない、自分はカギを持っていない、部屋に入れない、どうしよう、そんなことをぽつぽつ話す。家が近いというので一緒に家の前まで行く。公園目の前の雑居ビルの3階。当然カギは閉まっていて、郵便受けに合鍵も入っていない。今にも泣きそうな子どもを連れてまた公園に戻る。ナンダロウさん、どうしてくれんのよ、とちょっと八つ当たりしたりする。この子は毎日どうしているんだろう。毎日公園で暇そうなねーちゃんをナンパしているのだろうか。そろそろ伽羅が開きそうなので、伽羅の前のコインパーキングで待つ。駐車場でうんこ座りしている三十路の女と、その横で拾った棒でコンクリほじっている子どものツーショットは、どうなのだろう。2時に伽羅が開き、店内を見て、お店の人と話す。中津の町のこと、壊していた銭湯のこと、お店の棚のこと、奥の喫茶スペースのことなんかを話す。子どもはその辺の本を引っ張り出し、見ている。あの、子ども拾っちゃたんですけど、とお店の人に言うと、いいですよその辺の漫画でも読んでてもらうから、と言っていただき、預けて帰る。ばいばい。ずっとこっちを見ている。手をちょっと振っている。こうゆう時は、どうするのが正解なんだろう。ちょっと手を振り返す。ばいばい。
普段なら歩くところを、あまりにも疲れたので電車に乗る。中津から淀屋橋まで。Calo Bookshop & Cafeへ。昨年の夏にも立ち寄った素敵な本屋さん。個展のチラシを置いてもらう。そのまま心斎橋まで散歩。ここもアーケードが長く続く商店街。大阪の町はみんなこうなんだろうか。ふらふら夕方まで歩いているとiTohenから、そろそろ戻ってこい、という電話。急いで戻ると個展を見に来てくれたお客さんがワラワラと。ありがとうございます。個展初日にふらふらして子どもに捕まっているのなんて、私ぐらいか。偶然、同じ期間大阪で3人展をしているHITOさんも見に来てくれた。東京で会う顔と、旅先で会うとなぜかいつもの倍はうれしい。
夜はiTohenさんたちとcocoaさんと私の5人でお薦めのタイカレー屋さんに行く。ここは昼に塩さば定食を食べた隣の店では。どっちに入るか迷ったけど、昼は定食屋にして良かった。カレー屋さんは夜はビールも飲め、つまみもあり、そのつまみがどれもおいしく、そしてタイカレーもとてもおいしかった。こうゆう店は近所に欲しい。そう言えば、大阪に来てから不味いもんを食べてない。ちょっとしたご飯もみんなおいしい。私の感がいいからか、大阪のご飯レベルが上なのか。たぶん後者だろう。カレーを食べたあと、先ほどの中津商店街の路地奥にあるPANTALOONというギャラリー件バーでお茶を飲む。今の展示は尿素の結晶で作った作品で、真っ白な結晶がアルミのカップや紐やシャツを白く盛り上げている。
天満から玉造まで電車で戻り、近くの銭湯「玉造温泉」に入る。ここは夕方6時から早朝3時まで営業している。しかも土曜はオールナイトと書いてある。オールナイトの町の銭湯なんてはじめて見た。やはりここの脱衣所にもオシメ替え台があり、しかもその台の下は鍵つきロッカーになっていて、珍しい。湯船は、電気、塩ラドン、水、ミストサウナ、サウナ、寝風呂、打たせ湯、深めと種類豊富だった。12時過ぎに宿に戻ると、相部屋の女性は昨日と違う人。布団にもぐってもう寝ている。起こさないように静かに着替える。今日は1日とても疲れた。あの子どもは部屋に入れただろうか。