「憂国」 三島由紀夫


日曜日


夕方前、プリンターのインクを買うために新宿へ出る。師走の賑わいを呈して異常な人の多さ。
小田急百貨店の地下の食品コーナーは様々な名の知れた総菜屋が食事ができるようにレストランスペースを設けているのだが、腹ごしらえをするため一番鶏という店にはいりメニューにお薦めと記された特上親子丼を注文する。溶けるように柔らかな鶏肉にみりんの効いた甘いだし汁で味付けられた半熟卵がのせられていて非常に食欲をそそる。


特に目当てはなかったが時間つぶしに、南口のギャップが入っているビルの高層階にあるタワーレコードへ行く。何故かCDではなく文庫本コーナーに向い、三島由紀夫の「憂国」や16歳の頃書かれた「花ざかりの森」が収められた短編集を発見。以前買って読んだような記憶があるのだが、パラパラとページをめくっているうちに初めて読んでいるような気分になってきて思わず買ってしまう。

憂国」は三島由紀夫本人の死を彷彿させる軍人の割腹自殺が描かれた1961年の作品。舞台は1936年、天皇親政による国家改造を目指し青年将校ら1483名が起した二・二六事件のさなか、同胞を慮りまだ青年の趣を残す武山中尉がその美しい妻を伴って自決をする時の模様が描かれている。とりわけ、三島がまるで憑依したように固執している武山中尉が刀で腹をかっきる描写は数ページに及び、おどろおどろしさを通り越して作者の精神に異常なものを感じてしまう。客観的に描いているはずなのだがその生々しさは感覚的すぎて痛みさえ感じるほど。その後の三島の行く末を知っているだけに何を考えてこの作品を書いたのか気になるところ。