畠中恵『こころげそう』

こころげそう 男女九人 お江戸恋ものがたり

こころげそう 男女九人 お江戸恋ものがたり

 ああ、切ない。幼馴染な9人の男女の仲間内で感情の糸がもつれてもつれまくり、それに日常の謎が絡んでくる江戸を舞台とした連作集。於ふじをああいう形で登場させたのが、いかにも「しゃばけ」の作者らしい。
 江戸時代なんて自由恋愛の方が珍しくて、本人の感情よりも何よりも「家」が優先されて、恋ばかりか自分の人生だって自分の思い通りにならないままならぬさで溢れていたんだなって、この本を読んで改めて思った。家のしがらみがなく自由恋愛出来る現代に生まれた幸せよ。
 連作集を読み進めるうちにどっぷり感情移入して、この幼馴染な9人のうちに芽生えた三角関係の行方にやきもきしっぱなし。たぶんそうなるんじゃないかと思ったように物語は進んだものの、でもでもでも!この終わり方はあんまりじゃない?お絹ちゃんが可哀そうだーー!続編はたぶんないよね。さりげなく江戸の庶民の暮らしぶりが織り込まれ書き込まれてるこの作品を「これで私の時代小説読まず嫌いも治るかも!」感心しながら読んでいたのにー。そこだけが不満だ。
 ちなみにタイトルの「こころげそう」は「心化粧」で「口には言わないが、内心恋こがれること」(江戸語辞典より)の意とか。