674『サスケの輪廻眼』

1.サスケの輪廻眼(1)

マダラによって放たれた《仙法・陰遁雷派》。
マダラは仙術を当然のように扱う事が出来て、
陰遁――すなわち精神的なエネルギーが雷のようになって
ナルトとサスケに向けて驟雨の如く打ち付けるのですが、
ナルトは六道の力で具現化した両の手に持つその黒い棍棒
回転させて投げつけその雷を防ぎます。

「(サスケが…!)」

自らの術の発動に気を取られ、
サスケが瞬間移動したように錯覚したマダラ。

「(この左目…。
  …なるほど。)」

サスケは発現したばかりの自身の輪廻眼の能力について
おおよそ把握できた模様です。

「(これは…。移動したのではない…!!)」

サスケははじめからそこに居たと言わんばかりです。
まるで水底に沈む物体を水面に見るような感覚。
サスケばかりに気を取られていたマダラは、
死角に滑り込んできたナルトの攻撃を
《輪墓》を展開することでどうにか防ぎます。
目には見えませんが、何者かがナルトの攻撃を阻止しました。

「(何だ、アレは!?)」

何かを感じとったナルトに対して、
しっかりと何かを目撃したサスケ。
ナルトとの応酬の際に出てくる何か――

「また! 来る!!」

《仙法・嵐遁光牙》――
嵐を嗾けてその隙に《輪墓》を繰り出してくることを察知したナルト。
目に見えないその何かに身構えますが、
しっかりと見えているサスケは、
"そこ"に向かって刀を投げつけます。

「当たらない!?」

空を切る刀。
そこに何かが居たのは確かですが、
いったいどういうことでしょうか。

「サスケ。そっちへ行ったぞ!
 何か目に見えねーのがうろちょろしてる。」

とナルト。

「そうか?
 オレにはハッキリ見えてるぞ!
 これは…もう一人のマダラだ。」

とサスケは答えます。

「(輪廻眼となって見える様になったか。
  そしてナルト…
  貴様は見えはしないが感知ができる。)」

二人のやりとりを見聞きしていたマダラは、
自身の《輪墓》が見切られていることに気付きます。

「どうやら、もう一人のマダラには、
 こちら側からの物理攻撃は効果がない様だ。」

この影のようなマダラには
一切の物理攻撃が効かない。
しかし向こう側からは干渉できる――
二次元の紙の上では届かない《高さ》という概念をもつ
三次元からペンで何かを書き込むように紙が感ずるかの様。
より高次元の空間からの攻撃ができるのが《輪墓》なのでしょう。
《神威》のような次元空間転移だけでなく、
干渉も可能とするより高度な術の様です。

「(本来ならこちらの世界からは感知する事も
  目視する事も不可能…
  見えざる世界"輪墓"に存在するオレを…。
  …どうやってこれほどの力を急に得たというのだ?
  …あのうちはサスケ…。
  奴は唯一オレと同じ直巴の写輪眼を開眼していた。
  サスケとオレには何か血とは違う
  繋がりがあるのかもしれんな。)」

"直巴"という単語は一般的でないので、
どういったものかは分かりませんが、
マダラと共通する巴紋様ということでしょうか。

「ならば――さぞや、その左目もオレの眼として
 しっくりくるだろう!!」

サスケの左目の輪廻眼を狙って急襲するマダラですが、
どこからともなく刀が刺さります。
まるでそこにあった刀に見えずに突進したかの様。

「(それが…お前の左目の能力か……。)」

マダラにもサスケの左眼の能力が大凡つかめたようです。

「なら…試してみろよ。
 その程度で死にはしないよな?」

とマダラをサスケは挑発します。

2.サスケの輪廻眼(2)

「(影のマダラにも…
  六道の仙人チャクラによる攻撃は効く…か。
  あの右腕の傷…
  最初にナルトの攻撃をガードした時にできたもの…)」

高次元と思しきところから干渉してきたマダラの影――
しかしナルトの攻撃を防いだ際に負傷したところが、
そのままこの世界に存在するマダラにも存在します。
つまりこの世界に干渉したときに起こった事象は、
そのまま引き継がれるようです。
紙の上では本来認知できませんが、
三次元空間から突如やってきたボールペンが
インクという形で文字を書き残していき二次元空間に残され、
三次元的に見たときボールペンの芯から
そのインクの残量が減っているのと同義です。

「お前の影は一定時間で自分の体に戻る様だな。
 ナルト。また奴の影が出現したら、
 そっちはお前がやれ。
 オレは目に見える方をやる。ただし…」

とナルトに提案をもちかけたサスケ。

「お前に命令されっとイラッとくんの……
 今でも変わらんねーみてーだわ。オレ!」

久々の共闘で、気持ちが昂ぶるナルト。

「話を最後まで聞け!
 …いいか。今がチャンスだ。
 奴と奴の影はおそらく少しの間重なったままだ。
 何でもいい…。次も仙人の力のまま術を準備しろ。
 動きを封じる術がいい。」

もちろんサスケの持ちかけた戦略はマダラにも聞こえています。
それでも成功すると踏み切ったゆえの行動でしょう。

「(輪墓の継続時間とその発動時間…
  そしてそれに対する対処法を想定したか…
  なるほどカンがいい。
  冷静な分析と判断能力…
  そしてオレと同じ直巴…。
  オビトより早く生まれていれば、こいつを…
  イヤ…今さらそんな事はどうでもいい。
  何があったにしろ、今のこいつらは、
  ただのガキではないと理解しなければ。
  すぐにでも両目を揃えるとするか。)」

マダラはナルトとサスケの実力に
輪廻眼一つでは心許ないと感じたようです。

「ならオレ様のチャクラを使え。
 封印術を仕込める。」

と守鶴の申し出を受け、
ナルトは《仙法・磁遁螺旋丸》を拵えます。
一方で六道の力を解放し、《千鳥》を拵えたサスケ。

「ナルト。それをオレに向かって撃て!
 それで上手くいく!」

とサスケ。影はどちらか一方の攻撃しか防げないはず。
挟み撃ちの作戦です。

「ちっとイラつくけど、
 疑う余地はねーな!」

と一瞬で間合いを詰め、
マダラを挟んでの螺旋丸と千鳥の激突!

「ナルト。六道仙人から授かった術…
 分かっているな!」

とサスケ。

「オウ!
 今がその――」

とナルトも相槌を打ちます。
どうやら六道仙人からは術も授かったようです。
しかし挟み撃ちが成功したと思われた矢先、
"影"だけを残して、本体は別の場所に退避していました。

「サスケ。こいつはオレが止めてっから、
 本体を追え!」

とナルト。
左眼の能力を使いますが、
どうやら届かない様子。

「ここまで離れると輪廻眼の能力は使えないようだな。
 少しだがお前の左目の能力も分かってきたぞ、サスケ。」

マダラもそのことに気付いています。

「急げサスケ!
 マダラの先には――
 カカシ先生がいる!!」

マダラにとっては最初からこれが狙いでした。
《神威》を使うためカカシの写輪眼を奪います。

「(だが…さすがに速いなサスケ。)」

マダラ以上のスピードで、
追いついていたサスケは刀で一閃。
マダラを一刀両断します。
しかし即座にマダラは《神威》を発動。
オビトの居る空間までたどり着きます。
そこにはサクラも一緒に居ます。
サクラに輪廻眼を潰させようとしていたオビト。
ですがその間際にマダラが阻止しにかかるのです。

673『オレらで…!!』

1.オレらで(1)

「(点穴のチャクラが消えない?
  …どういう事だ?
  いったい何をした!?
  八門の最後を止めたとでもいうのか…!?)」

ガイの八門のうち最後の門である死門から
チャクラが吹き出し終えたことを確認したマダラ。
その死門からチャクラが漏れ出ず、留まっているのは、
ナルトが何かをしたからでしょう。
蹴り返されてきた求道玉を棒状に変化させ、
ナルトからの急襲をどうにか防ぎ切りますが、
ダメージは大きいようです。

「(まだ回復が完全ではない……からか!?
  イヤ…!
  こいつの力が急に伸びている!?)」

地を這いつくばっている自身が信じられない、
といった様子のマダラ。
ガイとの戦いでダメージがあるとはいえ、
こうも簡単に自分がやられてしまうわけはない――
ナルトの力が先ほどまでとは、
まるで次元が異なることを肌で感じます。

「孫! チャクラを貸してくれってばよ!!」

四尾・孫悟空の力を借りて《仙法・熔遁螺旋手裏剣》を
完成させたナルト。
尾獣たちのチャクラをもつナルトは、
もはやすべての血継限界に通じたということでしょう。
さすがにこの術の規模にはマダラも肝を冷やします。
輪廻眼の特殊な術《輪墓》を使って、
ナルトを止めようとしますが、
何かを感知したナルトがさっと身を翻します。

「何!? 輪墓を…かわした!!?」

絶対不可避の《輪墓》を避けられたことに、
マダラも目を丸くします。

「よし!!」

仙術しかも熔遁の螺旋手裏剣を直撃させたナルト。
マダラとはいえこの大技を受けて無事ではすまないでしょう。
必死に六道チャクラを展開させ、防御に入りますが、
螺旋手裏剣の勢いを止めるまでには至りません。
そのまま神樹の幹の中を突き進んでいきます。
炭素線が突き進んだ最奥でエネルギーを一気に解放するが如く、
螺旋手裏剣もまた一気にそのエネルギーを爆発させます。
それは神樹の幹を切り倒すほどのパワー。

「ワレヲトリコメ
 シンジュヲ…
 ジュウビヲスベテトリコメ…」

十尾もこのままではまずいと感じたのか、
マダラに自らを取り込むように提案してきます。

「ナルトが…やったのか!?」

神樹が倒れる様を見て、
我愛羅をはじめ、一同がナルトの力に驚愕します。

「ゲキマユ先生なら大丈夫だ!
 もう死んだりなんかしねェーよ!」

瀕死のガイを背負って、その場を離れるナルト。

「ナルトくんがガイ先生を…!?
 八門を全て開いたハズなのに!?」

リーも八門を全て開放してなお
ナルトのお陰でなんとか無事であったガイに安堵。

「うん…何か色々できそうな気がすんだ。
 …今のオレってば…。」

自分の掌に刻まれた太陽の紋を見ながら、
ナルトは自らに納得するかのような表情を見せます。

「飛べるか、二代目?」

扉間のもとに現れたのはサスケ。

「マダラのこの棒に触れても平気とは…。
 …こやつ。死にかけている間に何があったと…。」

扉間を突き刺す黒きチャクラの棒を
何事もないかのように引き抜く様を見て、
サスケが何らかの力を覚醒したことを感じます。

「そういう事か…。」

棒が外れ、周囲を大きく見渡せるようになって、
サスケが何をしたいのか理解します。

「ああ…。
 四代目のマーキングとリンクさせておいたからな…。
 しかしだ…。悪いが今の力で飛ばせるのは、
 一人だけだ。」

扉間の言葉に頷くサスケ。

「十分だ…。
 オレが行くだけでいい。」

マダラとの戦いに覚悟はできています。

2.オレらで(2)

一方のマダラは倒れてきた巨木を一気に吸収し、
まるで樹が一瞬で消えたかのようです。

「そうか…。
 神樹そのものが……。
 ハハハ。全てを一つにする時が来た。」

力が漲り、ほくそ笑むかのようにマダラは言います。

「ゲジマユと我愛羅はガイ先生を守ってくれ。」

仲間のもとにかけつけたナルトは、
ガイをみんなに託します。

「ナルト…。
 …お前が火影ににったら、一緒に杯をかわそう。」

と声をかける我愛羅に、
ナルトは微笑んで、

「オウ!」

力強く返事します。
ナルトが回復した姿を見て、
オビトが何をしたのか悟ったカカシ。
さて、そのオビトはいまはサクラの前にいます。

「アナタは敵…。
 仲間をいっぱい傷つけ殺した…。
 だから本当はこんな事言いたくはないけど、
 この一回だけは味方として特別…
 ナルトを助けてくれてありがとう。」

とオビトに礼を言うサクラ。

「……。最後に頼みたい事がある。
 味方でなくていい…。
 敵としてだ。」

礼を言われる筋合いはない――
しかしこの事態を引き起こしたことに
責任をとれるとしたら、頼みがある、と。

再び場面はナルト対マダラ。

「大じいちゃん仙人に会って、
 力をもらったからかな?
 こっからでもハッキリ感じる。
 大じいちゃんの片方の力を…。」

神樹の根元に突き刺さる父のクナイを手に、
マダラを睨みます。

「御前ではオレを倒せん。
 オレは言わば完全なる不死…。
 永久を手にしたのだ。」

そんなマダラに不敵に笑って見せるナルト。

「バーカ!!
 オレがお前を倒すんじゃねェ…。
 オレらで倒すんだってばよ!!」

もう一つ分けられた六道仙人の力。
ナルトと肩を並べ、マダラを見据えます。

「お前をな…マダラ。」

その左眼には輪廻眼が。
ナルトもチャクラの衣に包まれ、
マダラを討つ態勢は整っています。

「六道仙術を開花し…
 片や輪廻眼を開眼したか。
 …だがな…、オレはその2つの力を
 両方併せ持つ存在だ!
 これが最後の闘いだ!
 オレの力とお前らの力…
 どっちが上か決着をつけてくれよう!!!」

遅くなりましたが、
更新できていない3話を今週中に
記事にしていきたいと思います。

672『夜ガイ』

1.夜ガイ(1)

「心臓の点穴からみても…
 次が最後の攻撃となるな…」

マダラにはガイが八門全てを開ききる様子が見えました。
ガイも最後の死門を痛みに耐えきり
完全開放するまで時間がかかりましたが、
これで悔いを残すことなく、
本当に最大最後の一撃となりそうです。

一方、六道仙人との接触により、
完全に回復したナルトとサスケは
いまにも出撃する構えです。
ナルトの右手には太陽、
サスケの左手には月が
それぞれ紋章として刻まれています。
六道仙人と接触を果たした証でしょう。

さて、場面は再び戻ってガイ。
さらに猛々しい蒸気を噴き出し、
何もせずとも周囲を吹き飛ばしてしまう様子。

「あの構え…夕象じゃない……。」

夕象以上の技であることを感じとったリー。

「ガイ…」

カカシはガイの最期になるであろう勇姿を見、
アカデミー入学の時を思い返します。

「あ! 初めまして…
 うちの子がこれからアカデミーでお世話になります…。」

カカシとその父サクモ。ガイとその父ダイ。
彼らがアカデミーの入学に際して、
軽く会釈をかわします。

「仲良くしてやって下さいね。」

礼儀正しいサクモに対して、

「イヤ。それは無理ですな!」

ときっぱり(?)断るようなダイ。
予想外の無礼にちょっと困惑するサクモですが、

「イヤ…。父さん。違うんだよ。
 今回こいつは――
 アカデミーの試験に落ちたの。」

とカカシが説明したことで、
ようやく納得します。

「そ…それは失礼しました。
 アカデミーの前だったもので、つい…」

とサクモ。

「ガハハハ。そういう訳なんですよ!!」

と豪快に笑って見せるダイ。

「そこ笑うとこなの?」

そんなダイに突っ込むカカシ。

「コラ。カカシ失礼だぞ!」

そんな息子を窘めるサクモですが、

「父さんの方がもう失礼かましちゃってるでしょ。」

とこの年ごろからもう憎たらしいほど冷静です。

「だいたいこいつは、
 忍者アカデミーに入ろうとしてんのに、
 忍術使えないみたいだし…
 どう考えたって…。
 …と…そろそろ行かないと
 時間に遅れちゃうよ。父さん。」

そして思ったことをすぐに口に出してしまう
年頃でもあります。

「では…」

息子の非礼に狼狽しながらも、
時間を考え、その場を去ろうとしたサクモ。

はたけカカシだったな!」

その時、口に笑みを浮かべながら、
カカシを呼び止めたガイ。
気付いて振り返ると、

「応援ありがとう!!!」

と親指を上に突き立て、
不敵に笑うガイの姿は。
言葉を失うカカシですが、
サクモはガイの人柄を見抜き、
息子の頭に手を当て言います。

「カカシ…。アカデミー入学が決まったからって、
 うかうかしてられないよ。
 このままいくとあの子はお前より強くなる。
 補欠の発表はまだだろ…?
 アカデミーもバカじゃない…。
 彼の名前を聞いて、覚えておくといい…。
 いいライバルになるよ。」

月日は経ち、父の言った通り、
カカシのライバルであり続けたガイ。
持てる限りの力を出し、
あのマダラと対等にわたりあっています。

2.夜ガイ(2)

「このチャクラ…!
 認めてやろう!
 体術において…オレの戦った者で、
 お前の右に出る者は一人としておらん!!」

最終奥義《夜ガイ》を繰り出したガイ。
もはや何者にも彼を止めることはできません。

「流!!!」

ガイの掛け声とともに、
ガイを覆っていた高熱の蒸気が、
マダラに向かって龍の如く飛んで呑み込みます。

「何!?
 空間がねじ曲がっただと!?」

と驚くマダラ。
あまりのチャクラ質量に
空間が押しのけられたように感じたマダラ。
つまり測地線x(\tau)に関する方程式


\frac{d^2x^{\mu}}{d{\tau}^2}+{\Gamma}^{\mu}_{\alpha \beta} \frac{dx^{\alpha}}{d{\tau}}\frac{dx^{\beta}}{d{\tau}}=0

の解が直線から曲線に強制的に書き換えられたわけです。
その威力は凄まじく、ガイが通った地面は須らく割れ、
周囲にあった全てを空間ごと弾き出します。
すべての尾獣を取り込んだマダラすら、
防御不可能かつ甚大なダメージを負い、
十尾の神樹に衝突するまで吹き飛ばされます。

「ハハハ…死ぬところだったぞ……
 此奴め!」

ガイの最後の攻撃も虚しく、
マダラを仕留めきれていなかったようです。
とは言っても六道チャクラを結集させても、
命からがらといった様子のマダラ。
力を出しつくし、八門から全ての生命チャクラが
消えそうになっているガイ。

「風前の灯火だが…
 楽しませてくれた…礼だ…。
 灰になる前に――
 オレが殺してやる……!」

そう言って漆黒のチャクラの球体を
ガイに投げつけます。

「求道玉を蹴るだと…!」

そのとき颯爽とガイの助けに入ったのはナルト。
漆黒の球体――求道玉と言うらしいですが、
おそらくは尾獣玉に匹敵するであろうこの球体を
蹴っただけで弾き飛ばして、
死に際のガイにそっと手を翳します。
風前の灯火だったガイのチャクラが
再び燃え出します。

「ナルト…。
 イヤ…なんとなく前と違うな…」

とマダラもナルトの力が異なったものに
変わったことに気付きます。

「ああ…自分でも不思議に思うってばよ…。
 今なら…全部を変えられそうだ!」

尾獣たち、そして六道仙人から力を託され、
ナルトはみんなの力を以て
再びマダラの前に立ちはだかるのです。

671『ナルトと六道仙人』

扉絵にはナルトを象徴するアシュラ像。
退避するようにサスケを象徴するインドラ象。
帝釈天(インドラ)との戦いに常に負け続ける落ちこぼれの阿修羅。
一方で雷を自在に操り戦いに幾度となく勝利を収めるも、
次第に人心が離れていった帝釈天
それをナルトとサスケに対比させています。

1.ナルトと六道仙人(1)

「ワシの目にはハッキリと
 アシュラのチャクラがお前に寄り添うのが見える。」

と六道仙人。
しかしナルトはあまり驚かない様子。
自分の中の得体の知れない何か、
いまようやくその存在を知って納得したかのような表情です。

「…なら、もう分かっているハズだな。
 兄インドラの転生者が誰なのかも……。」

六道仙人の言葉に頷くように
ある一人の男の名を挙げます。
憧れた友であり、裏切りの敵であり、
常に気にかかる存在だった人物――

「サスケ…」

五影会談の戦いのときの話。
狂気に満ちたサスケと相対したとき、
ナルトはサスケと戦いあわなかったのは、
ただサスケの中の憎しみに応える
自信がなかったわけではありません。
もっと本質的な――
因果ともいや業<カルマ>とでも言うべき
避けられない宿命に安直に対峙すべきでない
とナルトの本能が悟ったからです。

「オレやサスケの前にも…
 その何だ…
 テンセイシャ…ってのがいたらしいけど…
 そいつら結局どうなったんだ?」

とナルト。

「一世代前の転生者は千手柱間とうちはマダラだった…。
 柱間がアシュラ。マダラがインドラだ。
 …その2人がどうなったかは分かるな。」

と六道仙人は言います。
ただしマダラは力を欲するがあまり、
柱間の力も手にしてしまいます。
結果、輪廻眼に象徴される六道仙人の力を得たのです。
しかし、それは六道仙人自体望ましくないとしていた。
力の均衡を図る為でしょう。
そうした輩がインドラ側に生まれるだろうことを避けるべく
うちはの石碑に自らの言い分を遺したのです。
しかし、それももはや徒労であったと語っています。

「じゃあ、仙人の大じいちゃんは、
 ずっと自分の子供の兄弟ゲンカを見てきたって事か?」

ナルトがまとめると、
六道仙人は深々と頷きます。

「…そうか…」

心中を察するように、
ナルトも居た堪れない表情をします。

「忍宗においてチャクラは個々を繋げる力と説いた。
 ワシはチャクラを個一つだけの力を
 増幅するものであってはならないと信じておる。
 母であるカグヤは乱世を終らせた後も
 一人の力だけで世界を束ねた。
 が…やがて母の力はうぬぼれを生み、
 人々はその力の存在を恐れる様になっていった。
 卯の女神と呼ばれていた母が…
 いつしか鬼と恐れられる様になったのもこの為だ。
 力が一人に集中すれば、
 それは暴走しやがて力に取りつかれてしまう。
 今のマダラがまさにそれだ…。
 まるで母のカグヤの様だ。
 インドラの転生者を終えた今は
 十尾の力を得てワシに近づき、
 母カグヤの力にさえ近づこうとしている。」

マダラの力の暴走を危惧する六道仙人。
力が一つに集約すれば整った秩序を崩壊させる
破綻(カタストロフィ)が生ずる――
その現象は物理現象にとどまらず、
こういった歴史的な諸問題にも顔をのぞかせるのが
興味深いところです。
実は一つにまとまることが"平和"ではないのです。

平和とは共存。ゆえに力の均衡をとることは大事なのです。

後に力の均衡を働かせるべく、
六道仙人は尾獣という形で分散させました。

2.ナルトと六道仙人(2)

「無限月読とは幻術にかけるだけではない。
 幻術の夢を見せ続け、生かしたまま、
 個々の力を利用する為に……
 皆を神樹の根に繋げて生きた奴隷とする幻術だ。」

限月読とは単なる幻想ではない――
実態は到底幻想とも言えない、惨たらしいものです。

「母は白眼以外に写輪眼の力をも有していた。
 瞳力を使い、その術を民へと向けた事もある…。
 凄惨な術であった。
 チャクラが一つになってしまえば、
 また新たなチャクラの実が出現する…。
 それだけは何としても止めなければ世界は終わる。」

神樹自体が悪いのではなく、
その力を追い求め、手にし、溺れる愚者が生ずることは
決してこの世界のために良くはないと断言できる――

「ワシはお前にマダラを止めてほしいと思っている。
 今までの転生者と違い、
 少々バカっぽいその意外性…
 そこに可能性があるかもしれん。」

と六道仙人。ナルトは早速その意外性を見せます。

「死んでさえずっと長げーこと
 見守ろうとしてきた世界が…
 こんなになってんのに…
 まだオレ達のことを信じてくれてありがとう。」

と深々と感謝を見せます。

「礼を言うな…。
 ワシにはそんな資格は無い…。
 今の世がインドラ…
 イヤ、母のやり方を本当は望んでいて…
 それが自然の流れだとしたら、
 ワシは自分のワガママで止めようとしている事になる。
 尾獣の使われ方にしてみても、
 世の均衡と平和でなく、兵器として使われる。
 ワシの考えは甘いのかもしれんな。」

と弱音を吐露する六道仙人に、
ナルトはにっこりとしながら、

「イヤ! 大じいちゃんは間違ってねーよ。」

とナルトが力強く断言します。

「その通りだぜじじい!」

湧き上がってきたのは守鶴。
不思議がるナルトに、続いて出てきた牛鬼が言います。

「オビトの奴がな…。
 守鶴とオレのチャクラの一部を
 マダラから引き抜いたんだ。
 お前に足りてねー尾獣の力も
 ちゃんと分かってやがったぜ。…あいつ。」

オビトが助けてくれたことに驚くナルト。

「…色々あってな。
 ワシもお前の中へ入れた。
 これですべての尾獣のチャクラが
 お前の中へ入ったぞ。ナルト!」

と九喇嘛。皆、一部のチャクラであるため
形が不完全ですが、陰の九尾のチャクラは、
ナルトにしっかり渡っています。

「これでやっと約束の時が来たぜ。
 六道のじじいよ。」

六道仙人は頷きます。

「…そうだな。九喇嘛よ…。
 ガマ丸の予言通り…。
 九匹のケモノの名を呼びたわむれる碧眼の少年……
 お前はやはり皆の協力を得る魅力がある様だ。
 ワシの魂をこうして呼べ、
 アシュラが転生したのもうなずける。
 守鶴、又旅、磯撫、孫悟空、穆王、犀犬、
 重明、牛鬼、九喇嘛。
 予言の子が世界を変える時が来たようだ。」

荘厳な雰囲気の中、
ナルトの方を見る六道仙人。

「ナルトよ。お前は何がしたい…。
 この戦いの果てに何を望む?
 お前の正直な考えを聞きたい。」

しばらく見とれていたナルトですが、
真摯な表情で答えます。

「確かにオレってば、
 そのアシュラって奴に似てっかもな…。
 ただそいつと違ってバカでガキで色ンな事
 よく分かんねーかもしんねーけど、
 "仲間"がどういうもんかは知ってんよ。
 オレはそれを守りてェ…それだけだ。」

六道仙人はナルトの中にしかと答えを見たようです。
そして同じくサスケにも接触していた六道仙人。

「それがお前の答えか…」

サスケも同じ答えを出したようです。
インドラの転生ながらも、
真実に辿り着いたようです。

「…かつて弟アシュラに全てを託し
 兄インドラに目を向けてやることができなかった。
 それが災いの元となった。
 利き腕を出せ。
 此度は兄インドラの転生者であるお前にもワシの力を…」

サスケの中に善を見出した六道仙人。
サスケは利き手として左手を掲げます。

「…託す事にした。
 そしてこれから先…ナルトとサスケ。
 お前達がどうするか…
 どうなるかはお前達次第だ。」

一方で右手を掲げるナルト。

「オレとサスケは本当の兄弟じゃねーけど、
 オレ達かなりの友達だから。」

ナルトの表情を見て、
六道仙人も微笑みます。
二人に六道の力が与えられます。

さて、ガイとマダラの決闘ですが、
マダラをやり込めるもいまいち決定打に欠く様子。
ガイは最終奥義《夜ガイ》を発動する覚悟をします。

670『始まりのもの』

1.始まりのもの(1)

「…ここは……?
 …オレってば……死んだのか?」

温かく自分を包む水辺。
ふと意識を戻したようにナルト。

「何をもって死とする?
 御主の死に対する倫理的観点は
 ワシの時代のものとは異なるな。
 簡単に己を"死"という言葉に置き換えるとは…
 気概を持つのだ、新人よ。」

何やら智者と思しき老人が語りかけてきます。

「誰?」

ハッとしたように声をする方に
顔をむけるナルト。

「ここにおいて的確な質問ではあるが…
 ワシの名を聞き、
 先駆者の見聞と一致するかは
 いささか不安ではある…。
 我は安寧秩序を成す者…。
 名をハゴロモと言う。」

錫杖を背負い、ゆらゆらと浮かぶ漆黒球の中心に
座り込むように浮かんでいる老人。
心当たりなさそうに訝しがるナルトを見て、

「その返し…。こちらとしても、
 その様な状態になる兆しは読み取っておったわ。」

と"察していた"ことを呟くように言います。
厳めしい様相に小難しい口調――
何が言いたいのか分からない様子に
ナルトは困惑を通り越して少し苛立っている様子。
しかし、心を落ち着けると、
その両の目、そして額に輪廻眼があることに気付きます。

「人を観察する目は持っておる様だな。
 後は己のこの状況を現実的に理解できるとよいが…
 お前はまだ死んだ訳ではない…
 ここは御主の精神世界だ。
 はやる気持ちは分かるが…
 しかし今は急いたところで無為である…。
 それゆえ…」

なんとここはナルトの中の精神世界。
ナルトという意識の中で語りかける神々しい老人――
この老人が何者であるかは、
すぐに明かされることになるのですが、
ナルトに宿る神性なるれば、
これはもう一つのナルトの姿――
そうとらえることもできるでしょう。

「もっと!! スムーズに!!
 カンタンにフツーに話せねーのかよ!!!」

難しい単語が連発するだけでは
ナルトにとってただの音の羅列に聞こえるのでしょう。

「ワシは時代錯誤である…。
 長きに渡る時の流れは文化的伝統や観念…
 倫理において大きな変化をもたらしたのだ。
 こうして時代を超え、転生期に合う度に、
 それらの両者にある相違を大きく感じとる事となった…
 新たな文化や言語を形式主義的に規定し
 学ぶこともできたが…」

しかし堅苦しい口調は直らずです。
"転生"というワードが気にかかりますが、
ナルトはそれでころではありません。

「だぁー!! うっせーよ! もう!!
 オレってばこんなとこで、
 変なじじいの話を聞いてる場合じゃねーってのにィ!!」

ナルトの訴求を無視して
ハゴロモと名乗る老人は続けます。

「言葉の探求一般、
 学問全般とはあいまいなものであり、
 定義困難であるがゆえに
 意思の疎通ができぬとあらば、
 今の観念論的な上学と
 唯物論的な考えを考慮して
 簡単に話してみるしか…」

この老人が自らを育んだ時代背景と
ナルトが歩んだ時代背景は違う――
それゆえもたらされる言葉の使い方が異なり、
然るに意思の疎通が難しい――。

「…アンタ。宇宙人か何かか?
 威厳はめっちゃある様に感じっけど」

ある種の観念や精神が、
まるで存在するかのように振る舞うことと(観念論)、
逆に物質という確かに見え、感じる存在のみを肯定すること(唯物論
相反する2つを折衷して敢えて行動に移すとすれば――
あーー!!
確かにまどろっこしいので、要約すれば、
老人自身の気質には合わないが、
ナルトにあえて合わせたように話してみれば、

「つーかそれは言い過ぎじゃね?
 宇宙人って何だよ、アハハ!
 つってあんま違わねーか…それと。」

とあまりにも神々しい威厳と合わないフランクな口調に
再びたじたじになるナルト。

「まだ、伝わらぬか…。
 これほど会話が複雑な様相を呈しているとは…」

と首を傾げる老人。

「イヤイヤ!
 さっきのしゃべりでいいから!
 やっと分かったから!
 しゃべり方があんまりにもシフトし過ぎて
 びっくりしただけだってばよ!」

とナルト。

「あ、マジ?
 ならこんな感じでいくんで
 夜露死苦! …つって!」

と感性でもっていく会話に切り替えた老人。

「…あっ! でも…
 なんかしゃべりと顔がまったく一致しねーから
 すっげー恐ぇーんだよね……。
 やっぱ…もうちょいかたい感じ残しつつ…
 急にバカみたくなるから…。」

とちょいとわがままなナルト。
人間、イメージした雰囲気、
受け入れた存在の言葉が伝わるものです。

「それは言い過ぎではないか?
 バカとは何事だ!
 まあ…さっきのしゃべりでは、
 そう思われてもしかたないか……。
 と…こんな感じはどうだ?」

と老人。

「そこ!!! オッケー!! そこで決めて!!」

と頷くナルト。
通じ合ったことに喜んでいる様子。

「うむ…。だいたい分かってきたぞ。」

ラジオの電波を拾うように、
話し言葉のチューニングを終え、
ようやく本題へと移ります。

2.始まりのもの(2)

さて。
ナルトにとってやっぱり気になるのはこの老人の正体。
いったい何者なのか――
聞きたい事はたくさんありますが、
とりわけまず初めに自分が何者かを
老人は話し始めます。

「ワシはすでに死んでいる輩の者だ。
 チャクラだけでこの世を漂い、
 世代を超えて忍宗の行く末を見届けてきた僧侶…
 名をハゴロモ。そして忍宗の開祖にして、
 六道仙人とも言う。」

この老人こそ六道仙人、その人だということです。
その輪廻眼の眼光、神々しい雰囲気、
それらがその人物をただ厳然と示しています。
ナルトもその名を認識しています。

「知ってるも何も…
 最初に忍術をつくった人だろ?」

しかし六道仙人は"忍術"というところを強く否定します。

「忍術ではなく忍宗だ。
 ワシの忍宗は希望を作り出す為のものだった。
 戦いを作り出す忍術と混同してはいかん。」

チャクラの使用目的が異なるのです。
聞きたい事がたくさんあると逸るナルトですが、
六道仙人が錫杖で水面を叩くと、
そこにはナルトに似た雰囲気をもつ黒髪の青年が。

「お前は我が息子"アシュラ"の…」

ナルトの中に"アシュラ"という息子の影をみた六道仙人。

「…とにかく…今は色々と条件が整ったのだ。
 お前に託さなければならない事がある。」

と六道仙人。
また訳が分からなくなったナルト。

「あしゅ…らぁ…?
 たくす?
 わけ分かんねーこと言ってねーで、
 オレをこっからだしてくれって!!」

早くこの精神世界から還らなければ――

「…すまんがそれはワシにどうこうできる話ではない…。
 外の者がお前をどうするかだ…。
 ワシはお前に伝えるだけだ…。」

今は急いても仕方がないと語る六道仙人。

「なので少し聞いてもらう…。
 いや。お前は聞かねばならない。
 まずはワシの母と息子たちについて…。」

そうして忍宗が生まれた経緯を騙り始めたのです。

3.始まりのもの(3)

「ワシの母である大筒木カグヤは
 遠い場所からこの地に来た。
 神樹の実を取りに来たのだ。
 お前達もこの戦争で見たあの神樹…
 そのチャクラの実だ。
 カグヤはその実を喰らい力を得て
 この地を治めた。」

大筒木カグヤ――
六道仙人ことハゴロモの母にあたるこの人物は、
力を求めて遠き彼の地からやってきて、
神樹の実を食らいます。
そして超自然的な力を手に入れ、
その地を治めることに成功したのです。

「カグヤってどっから来たの?
 六道仙人より強い?
 …やっぱ母ちゃんって怒るとこえーもんね!」

と子供のように無邪気なナルト。
諭すように六道仙人は続けます。

「どこから来たかは、どうでもいい事だ…。
 母は強かった…誰よりも。
 人々は母を卯の女神だの鬼だのと呼び、
 崇め、恐れていた。
 後にカグヤは2人の子供を産んだ。
 そのうちに一人がワシだ。
 ワシら兄弟は母の残した罪をあがなうため、
 神樹の化身である十尾と闘い…
 それを己に封印した。
 チャクラの実を取られた神樹は
 それを取り返そうとして暴れていたのだ。」

十尾――神樹として崇められていた存在。
その実を奪われ、神獣と化し、
各地を荒していたのをカグヤの子である
ハゴロモとその兄弟(名は不明)の2人が治めたようです。

「それからさらに後、
 ワシも二人の子供をさずかった。
 兄をインドラ。弟をアシュラと名付け、
 忍宗を教えたのだ。
 だが二人には大きな差があった。
 ワシの強いチャクラを持つ遺伝子と
 そうでない遺伝子……
 その伝承が極端に出現したのだ。」

やがてハゴロモも二人の子供を授かります。
兄・インドラと弟・アシュラ。
兄弟ながら決定的に性質の異なる二人。

「…優秀な兄インドラと、
 落ちこぼれのアシュラ。
 これは言うべきではないかもしれんが…
 両親がいくら優秀とて…
 その力をそのまま受け継ぐとはかぎらん。
 …心当たりがあろう…。
 お前もそうだった様だからな…。ナルトよ。」

一般的に優秀とされる観点で見れば、
アシュラは確かに落ちこぼれだったようです――
ナルトにもその気持ちは理解できる。

「そしてお前は本当にアシュラとよく似ている…。
 やってきた事も…。」

"落ちこぼれ"という見方はある尺度から見た話です。
時が経てばその欠点を補うため、
別の"何か"が生まれてくる。
そういう尺度から見れば、"優秀"とは何か分かりません。

「ん?
 やってきた事って?」

と訊き返すようにナルト。
ナルトの傍らにきた六道仙人は、
アシュラとナルトが良く似ていることに
どことなく微笑みます。

「インドラとアシュラは違う道を歩いた。
 兄インドラは生まれし時より
 強い瞳力とセンスを合わせ持ち、
 天才と呼ばれた。
 何でも一人の力でやりぬき己の力が
 他人とは違う特別なものだと知った。
 そして力こそが全てを可能にすると悟った。
 一方、弟のアシュラは小さい頃から
 何をやってもうまくいかず、
 一人では何もできなかった。
 兄と同じ力を得る為には己の努力と
 他人の強力を必要とせざるをえなかった。
 そして…修行の苦しみの中で…
 肉体のチャクラの力が開花し…
 兄と並ぶ力を得た。
 そして強くなれたのは皆の協力や
 助けがあったからこそだと理解したのだ。
 そこには他人を想いやる愛があることを知った。
 そして愛こそが全てを可能にすると悟ったのだ。」

自らを研鑽し続けたアシュラ。
折れることなく、力を開花させることができたこと、
自らが此処に存在することを皆のおかげだと悟り、
そこに"愛"があればこそ、
如何様にも強くなることができることを確信したのです。

「ワシは弟アシュラの生き方の中に、
 新たな可能性をかいま見た気がした。
 己の中の十尾の力を分散し、
 個々に名をあたえ、"協力"という繋がりこそ
 本当の力だと信じたのだ。」

六道仙人もアシュラの生き方に強く共感したのです。
人は決して一人ではないし、強くはない。
しかし一人一人が互いを大事に想い合えば、
そのつながりがあることで強くなれる。
ナルトは強く頷きます。

「…そして、ワシは弟アシュラを皆を導く
 忍宗の後見人とした。
 兄インドラも弟アシュラに
 協力してくれるだろうと思ってな。
 だが…兄インドラはそれを認めなかった。
 そしてこの時より長きに渡る争いが…始まったのだ。
 そして肉体が滅んでもなお、
 二人の作り上げたチャクラは消えることなく
 時をおいて転生した…。
 幾度となくな…。」

インドラにとっては力こそが全て。
力ある者が統べるべきという考えから、
弟アシュラとは相いれなかったのでしょう。
アシュラもインドラを取り入れるまでいかなかった。
そこに"愛"はなかったのです。
二人が互いに踏み違えたことで、
永きに渡り続く憎しみの連鎖が始まるのです。

「…おばけに取りつかれるみたいでなんかヤダな。
 …で…、今も誰かに取りついてんのか?」

と困惑気味のナルトに、
六道仙人は包み隠さず言います。

「お前だ。ナルト。
 弟アシュラはお前に転生したのだ。」

と――。

669『八門遁甲の陣』

1.八門遁甲の陣(1)

「行って下さいガイ先生!!!
 ボクはもう――」

最後の覚悟を表すように
紅く燃え上がるガイの闘気。
死門をこじ開け、
六道の力を手にしたマダラすら凌駕する勢いです。

「アレがガイ先生の言っていた夕象!!」

ガイが拳を振り下ろすたびに、
隕石でも衝突したかのような凄まじい衝撃が走ります。
さながら巨象が足踏みするかのよう。

「(夕象は1速から5速までのギア上げ連続攻撃のハズ…
  …八門の杜門まででも相当な負荷を体に強いる…
  おそらく死門の痛みは…
  ボクには想像を絶するもののハズ!!)」

リーが推測するように、
ガイもその想像を絶する痛みからか、
思わず連続攻撃の手を緩めてしまいます。
車のギアで考えれば1速目に大きな力を要し、
2速、3速…とエンジンの回転数を
燃料を適宜噴射することで調整しながら
抵抗の小さい高ギアにすることで、
車全体の速度を速めていきます。
夕象も同じく、対数曲線的な出力を得ると思われますが、
ところどころでの回転数調整の際の燃料(チャクラ)の噴射が、
すでに死門まで開いたガイにとって応えるのでしょう。

「…空気を殴りつけぶつけてくる体術技か…
 いわゆる空気砲…
 (…アレを4・5発食らい続ければ厄介だな。
  なによりそれを作り出す拳に
  直接やられるのは避けた方がいいだろう。)」

と六道の絶対的な力を得たマダラすら
本能的に畏怖する凄絶さです。

「八門遁甲の陣とやり合うのは稀だ!
 せっかくだ。相手をしてやる!」

《夕象・壱足》を喰らってもまだまだ余裕のマダラ。
ガイも連続攻撃のために今一度集中します。

マイト・ガイは何をした?」

八門遁甲について良くは知らない我愛羅
カカシが答えます。

「八門遁甲の陣。
 己の力のリミッターを外し、
 極限まで力を引き出す技だよ。
 かつて中忍試験でリーくんが
 君にやってみせたアレの最終段階。
 リミッターの全開放は五影をも上回る
 何十倍もの力出すことができる。
 だが…それは一瞬…。
 この技の後…開放者は必ず死ぬ。」

そんなガイの様子をリーは悲しみを拭いながらも、
しかし称えるように言います。

「悲しくなんかありません!!
 覚悟を決めた男を前に――
 哀れみも悲しみも侮辱になります!!!」

大切な者を命まで懸けて守ろうとする
最後にして最大に輝く瞬間――
その花火のごとく爆発する力を
悲しんで見届けないことなど
決して望まれてはいないことはリーは分かっています。

空気を蹴り上がり昇り続けるほどの火力。
舞うように空を逃げるマダラをガイが追っていきます。

「オレ達はガイのサポートだ…。
 聞いてくれ。」

ミナトもリーの言葉に納得し、
次に自分たちがどうすべきかを提案します。

「発動型ではなく形態変化する消えない常備タイプ…
 触れた箇所は消える…が接触した感覚がハッキリとある。」

マダラの周囲を張り付くように防護する黒いチャクラ球。
おそらく尾獣玉のような濃縮チャクラですから
高質量の物体でしょう。

「そしてアレを飛ばせる距離は約70メートル。
 それ以上はコントロールが効かなくなるからだ。」

したがってたとえマダラとはいえ制御できる限界がある。

「ちゃんと存在し目視して追えるなら、
 カカシ…君の神威も通じるという事。
 そして、離してしまえばコントロールを失わせられる。」

チャクラ球を引き離してしまおうという作戦のようです。

「正直言って左目は見えなくなってきてまして…
 神威で的確に狙うにはかなり近づかないと…」

しかしカカシの視力は落ちてきており、
《神威》もコントロールが定まらない――

我愛羅くん。砂を準備してくれる?」

それならば、と我愛羅の砂雲による移動を組み合わせる策です。

「オレの砂でカカシを上空へって事だろうが、
 オレの砂のスピードでは奴の攻撃の的になるぞ。」

砂雲の飛行速度はそれほど速くはないことを伝える我愛羅
ミナトはその点も考慮に入れてはいるようです。

「大丈夫。オレが居るから。
 カカシにはオレのクナイを持たせる。」

一方、滾るように闘志を燃やすリーを見て、

「だって君はまだ、
 ガイが命を懸けて守りたい青葉なんだから。
 …リーくん。
 君はここで我愛羅くんのサポートをお願い。
 それともう一つ…ボクのクナイを。」

と諭し、ガイを皆で最大限サポートする態勢を整えます。

2.八門遁甲の陣(2)

マダラの隙を狙い澄まし、《夕象・壱足》を放つガイ。
すぐさま防御の為チャクラの障壁を展開するマダラ。
しかしその凄まじい衝撃を耐え凌いでいる間もなく、
《夕象・弐足》、《夕象・参足》、《夕象・肆足》が入り、
マダラといえどまさに手も足も出せない
右にも左にも物理的に動けない状況に陥ります。

「何があろうとただ突っ込めガイ!!」

ガイの好勢にミナトの応援も熱が入ります。
渾身の一撃を繰り出すために拳をためたガイ。
《夕象・伍足》――ファイナルギアです。
しかし、そうはさせまいと、
チャクラ障壁の殻に閉じこもり絶対防御の構えと同時に
チャクラ球をガイに向けて斉射するマダラ。
そのタイミングに合わせてリーがミナトのクナイを投げます。

「いいタイミングだ、リーくん!」

それに合わせてミナトは飛雷神の術でガイの前に出、
黒いチャクラ球を全て受けて、
それらとともに再び飛びます。
これで後はチャクラ障壁のみです。
今度はカカシと我愛羅の出番。
障壁の向こう側へガイを《神威》で飛ばします。
死に体となっているマダラに、
ガイの渾身の一撃が炸裂します。
障壁を突き破り、マダラを勢いよく地面に叩きつけます。

「…柱間以来だ。
 このワクワクは!
 まだ踊れるだろ?
 さらに別の技はないのか?
 もっと楽しませてくれ。」

さすがに生身の体ですから、
六道の力があるとはいえ、
満身創痍は隠せませんが、
マダラの表情は生き生きとしています。
さらに上位の技はないのかとまでガイを挑発します。
ガイもまだ余力がありそうです。
"朝""昼""夕"と来て"夜"が無いわけではないでしょう。
次こそガイの最終奥義というところでしょうか。
一方その頃ナルトが目を覚ますと――

668『紅き春の始まり』

1.紅き春の始まり(1)

「まさか…最後の死門を…」

言葉を失ったのはカカシだけじゃありません。
一同はその覚悟の意味を知り目を丸くします。

「ガイ!
 それはダメだよ!
 よく考えるんだ!
 ここに居る誰もそれを望んではいないよ!
 …君の父上だって…」

踏みとどまるように説得するミナト。
しかし、ガイは首を横に振ります。

「いいえ。オレが望んでいるんです。」

強く落ち着いた声。

「ガイ先生…。
 ガイ先生にとって…
 今が本当にその時なのですか!!?」

リーも突然訪れた別れに、
どうやってガイを止めてよいのかわかりません。

「リー。そんな顔をするな。
 今度はお前が笑って見ていろ!!」

忍の才能が何もないことに悲嘆する日々――
それを精一杯努力することで、
変えて行けることを教えてくれ、
自分の信じた道を貫いていけることの強さを
笑いながら示してくれた先生。
突然の別れに涙がこみ上げてきます。
ガイは死門へとチャクラを解放していきます。

2.紅き春の始まり(2)

「ガイ!
 このバカヤロ――!!」

甦ってくる幼き日々。

「ご…ごめんパパ。
 5才にもなって校庭500周すら…
 できないなんて。」

と謝る我が子に、
もう一度喝を入れます。

「だから謝るなァ!!!
 そこを叱ったんじゃァない!!!
 己の努力を謝るな!!!
 お前の努力に須津例だぞ、ガイ!!!」

我が子に強烈な熱血指導をするガイの父。
涙を流しながら抱き合う姿を見て、
冷やかな目で見守る周りの人々。

「アレ…。またやってるわよ、あの親子…」
「アレって虐待じゃない?
 それより何でタイツ?
 キモイわね。」

そんな主婦たちの小言にも、

「応援ありがとォ――!!」

とむしろ感謝すら見せるガイの父。

「パパ…今のは応援じゃなくて…」

そんな父親の様子が周囲に比べて浮いていることは
幼い目からでも分かります。

「いいかガイ!
 お前の青春は始まったばかりだ!!
 青春に後ろ向きはない。オレのように!!
 お前が忍術と幻術が使えない事は
 むしろパパからすればうれしい事だ!!」

意外な言葉にキョトンとするガイ。
父は続けます。

「短所が分かれば長所が光る!!!
 お前の体恤は今からもう光り出している!!
 その齢でもう我が子の長所に気付けたのだからな!!」

その言葉に一瞬安堵するように笑うガイ。
しかし、すぐ不安が勝って訊ねます。

「パパ…本当は強がって…」

強がっているように見える父。しかし――

短所も長所になる!!!
 くどいとは丁寧な事!!
 うるさいとはにぎやかな事!
 頑固とは一途な事!

 わがままな人は…猫みたいな人!」

最後は置いといて、
子供に大切なことを教える父。
自分が信じた道を貫くには、
ときに自分の短所が長所であるように
働かさなければならない。
ようは考え方次第――
悲観したところで、何も為せないのです。
それを変えるか、そのまま通すかも自分次第です。

「おい。マイト・ダイ。
 お前また子供と修行ごっこかァ?」
「万年下忍がよくやるぜ!!
 アハハハ!!」

そんな親子のやりとりを
冷やかに見守る父の同僚たち。

「おう!
 応援ありがとー!!」

とにこやかに返す父とは違って、
ガイは睨み返します。
そして石ころを拾って投げつけるのです。

「パパを二度とバカにするな!!」

しかし、その言葉の代償を払うことになったガイ。

「ガイ。なぜ、あんな事をした!?」

病院のベッドの上で、父に訊ねられます。

「パパは…
 パパはどうしてそんな前向きでいられるの…?
 …青春はいつ終わるの?」

そんな我が子の質問に、
父は笑って答えます。

「青春に後ろ向きがない以上に
 終わりはないんだ。」

青春とは、前に向いているから青春と呼ぶと。
前を向き続けて死ぬ時こそ、
最高に燃え上がるのだと。

「パパはどうかしてる!!
 死ぬ時に青春もクソもないよ!!
 そんなの死ぬまで信じて
 強い奴に勝てる保証はないじゃないか!?
 今日のボクみたいに!!」

と喚く息子に、
父は言い聞かせます。

本当の勝利ってのはな!
 強い奴に勝つ事じゃあない。
 自分にとって大切なものを守り抜く事だ!

形だけの白黒が本当の勝利ではないんだ――と。

「ボクは…
 ボクは…ただ…
 パパの言う青春を…
 守り抜きたかったんだ!!」

そう言って涙する我が子に、
胸を打たれる父。
そっと抱き寄せ自らも涙します。
それから月日が経ち、父・ダイはガイに
禁術・八門遁甲の陣を授けます。

「下忍のオレが日々修行し、
 20年かけてやっと会得した唯一の技だ!!
 つまりこの技は遅々として
 唯一お前に伝える技!!!
 そしてお前にとって最も特別な技となる!!!」

禁術によって噴き出すチャクラのオーラを
目の当たりにしながらガイは固唾を呑んで見守ります。

「お前は確かに立派になった!
 だがこの技を使用するには一つの厳しい条件をつける!
 自分ルールだ!!」

強力な禁術を使用するための自分ルール――
霧隠れの忍刀七人衆に囲まれたとき、
応援に駆けつけてくれた父がその背中で示してくれました。

「逃げろって…父さん!
 相手は上忍連中で、
 しかも忍刀七人衆だぞ!
 父さん一人で止められる相手じゃない!!
 オレには……死門…
 "八門遁甲の陣"がある」

逃げろと言う父に、必死で反抗するガイ。
しかし宥めるように父は言います。
自分をルールを解くとき――その時こそ
自分の大切なものを死んでも守り抜くと決めた時。

3.紅き春の始まり(3)

死門を開いたガイ。
赤き蒸気を身にまといます。

「八門全開時、特有の…血の蒸気というやつか…。
 フフ…だがこうやって見ると、
 なんだろうな…
 まるで秋に散り朽ちる枯葉色…落ち葉の様よ。」

とマダラは碧きを過ぎ、落ちて朽ちるための、
死の前に咲き誇る色だと嘲てみせます。

「…確かにそうだ。
 だがただ朽ちて落ちる訳ではない!!
 それは新たな青葉の養分となるのだ!
 そして青葉が芽吹く新たな春へと繋げる時こそが
 青春の最高潮!! 深紅に燃える時!!!」

次の代、または仲間に託す自分の想い。
火の意志に託し、自らの命を燃やし、
その赤く染まる夕日のような眩しさをぶつけるは
ガイの奥義《夕象》<せきぞう>です。