唐辛子が辛い進化生物学的な理由*

 先日、研究室のメンバーがランチに誘ってくれました。タイ料理、メキシコ料理、インド料理のどれがいいと聞かれ、特に食べ物にこだわりはないので、どれでも良いと言ったのですが、選んでほしいとのこと。しかし、その選択肢の中にある意味をちょっと察して、最も辛い料理を、といったらインド料理に決まりました。


どれが最も辛いかなんて主観的な問題にすぎない気もしますが、いずれにせよ夏といえば辛い料理が食べたくなる人が多いのはなぜでしょうか。考えてみれば、熱帯地域の国の料理は辛いものが多い。


なぜ辛い料理が多いのか?身近な人に聞いてみると、「唐辛子には微生物に対する抗菌作用があるから」という研究者らしい回答がありました。熱帯や夏は暑いので、微生物の繁殖がおこりやすく、その貯蔵や保存に唐辛子が使われてきたという考え方です。


 つまり、唐辛子の辛さに何らかの進化生物学的な適応的意義があるはずです。


 南米ボリビアに生育するトウガラシ(Capsicum chacoense)の野生個体群を調べると、その果実は主にナカガカメムシの一種(Acroleucus coxalis)による吸汁を受け、その傷から植物病原菌(いわゆるカビ)であるフザリウムの一種(Fusarium semitectum)が侵入し、この感染によって種子の生存率が著しく減少していることがわかった。



トウガラシの果実に集まるカメムシの幼虫(Credit: University of Washington


 また、トウガラシの辛さ成分であるカプサイシン(capsaicinoid)は果実によって濃度に変異があった。いずれの果実もナガカメムシの吸汁を受けるが、辛い果実より辛くない果実の方がフザリウムによる感染を受けやすい傾向にあった。さらに実験によって、カブサイシンはフザリウムの成長を阻害することも確認された。


 このように、トウガラシの辛さ(カプサイシン)は、フザリウムによる種子感染を防ぐための防御物質として生産されていると考えられる。


論文
Tewksbury JJ et al. (2008) Evolutionary ecology of pungency in wild chilies. PNAS 105: 11808-11811.


参考ページ
唐辛子はなぜ辛いのか? 


Bugs put the heat in chili peppers


 植物ー植食者ー微生物の相互作用によって生産された天然物質を人が利用していたというわけです。このように、辛さ成分に抗菌作用があるというのにも、ちゃんとした進化生態学的な説明付けがあるのがおもしろいところです。


 インド料理をお腹いっぱい食べた後なのにアイスクリーム屋さんに・・・。世界中のどこでも甘いものに積極的なのは女性です。これにもきっと進化生物学的な意味があるに違いないとついつい考えたくなってしまいます。



もちアイス(雪見だいふくにそっくりで、外側はもちで中身はアイスクリーム)


*2010年7月16日追記:ちょっとタイトルが悪く、誤解が生じやすいようだったので変更しました。前タイトル「熱帯の料理が辛い進化生物学的な理由」