【相続回復請求権】事例研究民事法も明日で最後【知らないと書けない論点】

はいはい。


今日もやってました事例研究民事法。


気がつくと、今日で726ページ終了ということで、とうとう明日で第2部(事例研究民事法の)終了のお知らせ。


今日は、なんと相続回復請求権が出た。
まじで、これ固有の論点を知らないと、条文にない表見相続人の要件とかの問題を書けないというおそろしい分野。


あと遺産分割とか、択一以外だとなかなかじっくり勉強できないところもチェックしとこう。


ということで、以下、個人的まとめメモ。

相続回復請求権

民法884条は、相続回復請求権を定める。
本条は前段で、「相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間」相続回復請求権を行使しないときは、時効によって消滅するとし、
後段で、「相続開始の時から20年を経過したとき」も、前段と同様に時効によって消滅すると定める。
判例は、いずれも相続回復請求権の消滅時効を定めるものと理解している。
このようなことを条文で定めているものの、相続回復請求権の内容については定めていない。
一般的には、真正の相続人が、表見相続人に対し、相続権の確認を求め、あわせて相続財産の返還など相続権の侵害を排除して相続権の回復を求める権利と解されている。


本条が想定している場面は、例えば、相続欠格者や戸籍の上でのみ相続人となっている表見相続人に対して、本当の相続人が遺産の回復を求める場合である。


もっとも、自己の相続財産を侵害されているのなら、直接、相続財産の持分権に基づく返還請求権や妨害排除請求権を行使していけばいいわけで、これと別に相続回復請求権という権利を観念する必要はないとも思える。
そのため、相続回復請求の制度をどう理解すべきなのかが問題となる。
判例によると、民法884条の相続回復請求の制度は、

 表見相続人が真正相続人の相続権を否定し相続の目的たる権利を侵害している場合に、真正相続人が自己の相続権を主張して表見相続人に対し侵害の排除を請求することにより、真正相続人に相続権を回復させようとするものである。

という。この理解を前提に、本条が相続回復請求権について消滅時効を定めた趣旨は、

 表見相続人が外見上相続により相続財産を取得したような事実状態が生じたのち相当年月を経てからこの事実状態を覆滅して真正相続人に権利を回復させることにより当事者又は第三者の権利義務関係に混乱を生じさせることのないよう相続権の帰属及びこれに伴う法律関係を早期にかつ終局的に確定させる

というところにあるという。
すなわち、判例は、裁判における相続回復請求権の主張は、原告たる真正相続人の請求の基礎づけとしてではなく、むしろ原告の物権的請求権に基づく相続財産の返還請求に対抗して、相続回復請求権として884条により時効消滅した旨の被告の抗弁として現れると理解する。


学説上、相続回復請求権の法的性質については、通常の例えば所有物返還請求権等の個別的請求権、あるいはその集合がたまたま相続権存否の争いを前提として行使される場合に、それを相続回復請求権と呼ぶにすぎないと解するというのが通説的立場で(集合権利説)、判例もこの立場に親和的と解されている。


ということで、相続回復請求権の問題となる場面は、相続人の請求に対する抗弁で、相続回復請求権の消滅時効によって請求を阻止するときということになる。
ということは、884条は、抗弁を主張する側のための規定ということになる。
したがって、通常、請求をするのが原告であるから、その請求を阻止する被告が884条による消滅時効を主張することになる。
そこで、相続回復請求の当事者の問題として、原告適格と被告適格をいずれも満たすかという点で問題とされる。

最大判昭和53年12月20日民集32巻9号1674頁

本判決では、共同相続人間に相続回復請求権の適用があるかと言うことが問題となった。

■ 事実
 遺産分割から排除された一人の共同相続人が他の共同相続人に対して、自己が相続により取得した共有持分権の侵害を理由に被告らの登記の抹消を求めた。
 本訴提起以前に原告は遺産分割調停を申立てたがすぐに取り下げ、それから5年以上が経過していた。被告らは、884条の消滅時効を援用したのに対し、原審は、本件請求は共有権に基づく妨害排除であり相続回復請求権ではないとして同条の適用を否定した。これに対して侵害者側は上告した。
■ 判旨
 最高裁は、全員一致で上告を棄却したが、その理由付けは二つに分かれた。まず少数意見は、従来からの共同相続人間不適用説から、共同相続人間の争いに同条の適用なしとした。
 これに対して、多数意見は、悪意有過失者不適用説ともいうべき新しい見解を示した。すなわち、同条の沿革、共同相続人による侵害もその相続分を超える部分で非相続人による侵害と異ならず、第三者との関係での法律関係の早期決着の要請も相続人・非相続人間と共同相続人相互間の両者の聞で差異はないことから、共同相続人間に適用を否定する理由はないとする。
 もっとも、「自ら相続人でないことを知りながら相続人であると称し、又はその者に相続権ありと信ぜられるべき合理的事由があるわけではないにもかかわらず自ら相続人であると称し、相続財産を占有管理することによりこれを侵害している者」は時効援用権がないとする。
 そして、この一般論を共同相続の場合にあてはめ「共同相続人のうちの一人若しくは数人が、他に共同相続人がいること、ひいて相続財産のうちその一人若しくは数人の本来の持分を超える部分が他の共同相続人の持分に属するものであることを知りながらその部分もまた自己の持分であると称し、又はその部分についてもその者に相続による持分があるものと信ぜられるべき合理的事由(たとえば、戸籍上はその者が唯一の相続人であり、かつ、他人の戸籍に記載された共同相続人のいることが分明でないことなど)があるわけではないにもかかわらずその部分もまた自己の持分に属するものであると称し、これを占有管理している場合」は相続回復請求権の消滅時効を援用できないとした。
 さらに、一般に各共同相続人は共同相続人の範囲を知っているのが通常であるから、共同相続人間で同条が適用されるのは特殊な場合に限られることになる、とした。

演習問題

 亡Aの嫡出子であるBは、A所有の甲不動産を相続し、これをCに売却してC名義の登記がなされた。Bは他に相続人がいないと信じていたところ、後にDがAの子であることが判明し、Dは、甲不動産につき相続による共有持分を主張している。
 この場合におけるBCD聞の法律関係を、
 ①Aの死の2年半後にDがAの子であるとして認知の訴を提起しこれが認められたときと、
 ②Dがいわゆる「藁の上の養子」として他人の実子として届けられていたとき
に分けて論じなさい。

小問①について

Dは、Aの死後3年を経過するまでは、検察官を被告として(人訴42条1項)、認知の訴を提起することができる(787条但書)。そして父子関係が確定すれば、認知の遡及効(784条本文) によって、DはBとともにAの共同相続人で、あったことになる。
しかし、認知の遡及効は第三者Cの権利を害することができず(784条但書)、さらに民法は特則として、他の共同相続人Bがすでに相続財産を処分した場合には、Dは価額のみによる支払請求権を有するにすぎないとする(910条)。
そうだとすれば、小問①のDは、Bに対してのみ、甲不動産についての持分の価額を請求することになる。これに対してBは、884条の期聞が経過していれば、このDの請求権が相続回復請求権であるとして、その消滅時効を主張することが考えられる。

小問②について

大法廷判決に従えば、本間のBは、①②ともにDが戸籍上に顕れない真正相続人であるため、善意かつ合理的事由がある共同相続人に該当しそうであり、884条の消滅時効を援用しうる。
もっとも、最判平成11年7月19日民集53巻6号1138頁によると、この要件の存否を判断する基準時と立証責任に関して、善意かつ合理的事由の判断は、当該相続権侵害の開始時点を基準とすること、相続回復請求権の消滅時効を援用しようとする者は、当該相続権侵害の開始時点において、善意かつ合理的事由があったことを主張立証しなければならないとし、このことは、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人において、相続権侵害の事実状態が現に存在することを知っていたかどうか、またはこれを知らなかったことに合理的な事由があったかどうかにはかかわりないとする。
したがって、Dの存在を知らず、かつ、知らなかったことにつき合理的な事由が存在したことは、Bの相続権侵害の開始時点を基準として判断し、また、その主張立証責任も消滅時効を援用するBの側が負わなければならない。

第三取得者であるDの保護

共同相続人BがDに対して相続回復請求権の消滅時効を援用しうるとしても、それを第三取得者であるCが援用しうるかは別の問題である。
この点につき判例は、相続人から第三取得者に対する請求は所有権の行使であり、相続回復請求権でないことから第三取得者による884条の消滅時効の主張を認めない。
もっとも、表見相続人が時効を援用できる場合には第三取得者にも援用権が認められうるという立場を採っている。
そうだとすれば、Bに884条の適用がある場合には、小問②におけるCもBの消滅時効を援用できる。
では、そもそも消滅時効期間が経過せず、884条の適用がない場合には、小問②のCは保護されるか。
この場合には、第三者保護規定がないため、権利外観法理に頼らざるをえず、具体的には94条2項の類推適用が考えられる。ただし、権利外観法理が適用されるためには、外観に対する第三者の信頼のほかに、外観作出についての本人の帰責事由が必要とされる。
しかし本問では、Dにかかる帰責事由は認められない。したがって、Cは、甲不動産につき取得時効(162条2項) が成立すれば格別、そうでないならばDの更正登記請求に応じざるをえない。

遺産分割

1 意義
遺産の分割とは、相続財産に属する個々の客体の分割をいうのではなく、分割の客体となっている財産すべてを対象として、一切の事情を勘案したうえで総合的に行われるものである。相続開始から遺産分割までの相続財産は、共同相続人の共有に属する(898条)。
2 分割の範囲
遺産分割の本質が遺産価値の再配分によって新たな権利関係を将来に向かって形成することになることから、遺産分割の対象と成井さんは分割時における遺産を対象とすべきというのが判例の立場(分割時説)。
注意すべき点は、そもそもなにが分割の客体になるのかということ。
共同相続人が相続開始によって相続分にしたがって共有した財産であって、遺産分割時にそのまま残っているものが客体であることには間違いがない。
他方、判例は、遺産分割前に共同相続人が合意の上相続財産中の不動産を売却した場合、その代金(代償財産)は、当事者間に合意がない限り、もはや遺産分割の対象ではなく、一般財産法上の財産として扱われるとする。つまり、相続分を超えて持分以上を第三者に譲渡したような場合の第三者に対する代金支払債権については、持分の侵害を理由とした不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得に基づく返還請求で処理することになる。
また、相続財産に属する財産から賃料等(法定果実)が生じた場合にも、判例は、各共同相続人が相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するとし、しかも遺産分割によって果実を生んだ元物が誰に割り付けられてもそのことは果実の取得になんら影響を及ぼさないとする。
さらに、可分の権利であるゆえに相続開始時に各共同相続人に相続分に応じ分割される権利(可分債権等)も、実務では、共同相続人の合意がないかぎり綜合的分割の対象ではないとされる。可分の相続債務も同様。ちなみに、遺産分割手続の外での相続分とは、実務では法定相続分または指定相続分を指す。


遺産共有状態にある不動産の取得時効(最判昭47年9月8日民集26巻7号1348頁)

■ 事実
 Xは前主Bの占有を併せて20年を経過して他の相続分を時効取得したことを原因とする所有権移転登記を請求し、Yらはその棄却を求めかつ反訴により共有持分の確認を求めた。
■ 争点
 取得時効の要件である自主占有は「所有の意思」をもってする占有であって、その意思の有無は民法185条によって「権原の性質上」客観的抽象的に判定されるため、共同相続人の一人のみが相続財産につき現実の占有をしていても、権原の性質上、自分の相続分以外の、他の共同相続人の相続分については管理のためにする他主占有を有するにとどまる。そこで、他に相続人がいるにも関わらず被相続人の財産は自分が単独で相続したものと誤信して占有していた場合、占有者に取得時効に必要な「所有の意思」が認められるかが問題となる。
■ 判旨
 共同相続人が自己の相続財産を超えて占有する不動産について、自主占有「共同相続人の一人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人がなんら関心をもたず、もとより異議を述べた事実もなかったような場合には、前記相続人はその相続のときから自主占有を取得したものと解するのが相当である。」
 として、本件において遺産相続人の1人であるBはA死亡当時戸主であったので、家督相続制度のもとにあった関係もあり、家族であるA死亡による相続が共同遺産相続であることに思いもいたらず、戸主たる自分が単独で相続したものと誤信し、単独所有者として占有使用し、その収益はすべて自分の手におさめ、地租も自分の名義で納付してき、昭和30年はじめ頃長男Xに贈与して引渡し、その後、XはB同様にしてきた。他方、他の相続人は遺産相続の事実を知らず、BやXの占有、使用収益になんらの関心をよせず、もちろん異議ものべなかったというような事情があったことから、Xの請求を認めて、Yらの反訴は認めなかった。