『リアル・シンデレラ』姫野カオルコ

リアル・シンデレラ

リアル・シンデレラ

周囲から見たら、惨めな人なのかもしれない、幸いを逃した人なのかもしれない、でも、本人はとても充足していたのかもしれない、という話。でも、もう少し、「幸せ」な思いをしてもよかったのになあ、と思い、いやいや「幸せ」ってなんだ、この人は「幸せ」だったのではないか、と思い返し、ああ、でももう少しなんとかならないか…と、また考えて、ああ、わたしって俗物だ、と思う。「幸せ」とは、ガラスの靴をもって追いかけてきた王子様と結婚することではないのですな。
姫野カオルコ、うまいです。本当に「リアル」で、ノンフィクションか、モデル小説かと思うくらい。
ラストシーンはちょっとカタルシスがないなあ、と思う。別に、だれかを救うために命を投げ出すみたいな展開でなくてもいいけれど、まあ、平凡な溺死や病死でもいいような気がする。
最後のページに、ガーファンクルの「Mary was an only child」という歌の歌詞が記されている。「You might have seen Jesus, and not have known what you saw」(君はイエスに会ったのかもしれないね。誰に会ったのかわからなかったかもしれない。)物語の集約としては、なかなか深みがある。姫野カオルコは「Jesus」を「清く尊いもの」と訳している。まあ、誤りじゃないけれど、Jesusというのは、それだけで一つの物語だからなあ。たんなる清らかさというよりは、愛の塊として生きた存在、侮られ、さげずまれ殺されたのに、人々の間にあたたかくよみがえった存在、というか……。姫野カオルコも、小説の流れから読み解くに、この歌詞について、決して外れた理解をしていなさそうだと思うが。
『私たちはこうして原発大国を選んだ』(原田徹)を読んで以来、本当の幸せとはなにか、考え続けている。姫野カオルコが示したのは、その一つの「リアル」な解答かもしれない。

追記:7月15日、丸善で本書が文庫化されているのをみた。文庫版あとがきをぱらぱら読んでいたら、姫野カオルコ、毎日寝る前に聖書を読む、と書いている。ふむ、やはり、Jesusの意味は的確に捉えたうえでの小説なんだろうな。

『「朝がつらい」がなくなる本』梶村尚史

やりたいことがいろいろ出てくると、思わず買っちゃう早起き本。本書は、これまで読んだ早起き本のなかでは一番常識的で穏当な印象でした。というより、早起き本ですらなくって、タイトル通り「朝、きもちよく目覚めるにはどうしたらいいのか」という本。

著者が精神科医だということもあって、無呼吸症候群や、うつ病や、ナルコレプシーや、妊娠中だったりすると、朝の目覚めが悪いので、こころあたりのある人は専門医にかかりましょう、という啓蒙があり、こころあたりのないひとは、生活リズムが崩れている可能性があるので、お酒・たばこを控え、暴飲暴食をやめ、寝る前にテレビやパソコンを見ず、部屋を薄暗くして、バッハやモーツァルトを聞いてリラックスしましょう、といった感じ。
個人的に、とてもいい発見だったのは、早く起きるために早く寝る必要はない、ということ。早く起きようと思って、早くふとんに入って寝付けずもんもんするよりは、眠いときに布団に入って、ぐっすり眠って、気持ちよく目覚めた方がいい、とのこと。
これが案外自分には重要な指摘だったようで、眠くなったら無理をせずとっとと布団に入り、ぐうぐう眠り、早くに目が覚めたら、「やった、まだ時間がある、もうちょっと寝よう」と考えずに、さくっと起きています。想像していた以上に快適。こうやってブログも書ける。nikkouの寝坊の原因は、夜、もうちょっとがんばろうと思って、無理に起きていることだったのかも。いたってシンプルで健康な体でありますな。感謝感謝。

『へルタースケルター』岡崎京子

ヘルタースケルター (Feelコミックス)

ヘルタースケルター (Feelコミックス)

上映中の映画の原作。面白い映画評を読んだので、まあまず原作でも読むか、と手に取る。うーむ。グロテスクだ。主人公の妄想が現実と入り交じる様子が、実になまなましい。現実の描写でもコーヒーのこぼれる様子が読者には血に見えたり、主人公の裸や顔の迫力など、漫画の表現力に圧倒されます。

沢尻エリカがなかなかのはまり役だとか。観に行きたい、と言ったら、nikkouより先に「ぶっこわれてるなあ」と楽しそうに読んでいた相方に「えー」と嫌な顔をされた。