言語研究の耐用性

関西学院大学出版会発行の「コトワリ」no.37〜38掲載の対談「言語研究の多様性」(小川暁夫×宮下博幸)より。


●「言語類型論」とは

A−1 言語のタイプ分け
屈折語:主語が変わると動詞が人称や時制などによって変化。ヨーロッパの言語など。
孤立語:漢字など単独で意味を持つ単語を竹を並べていくようにして文を作っていく。中国語など。
膠着語:動詞や名詞の後に、助動詞や助詞など「膠(ニカワ)」で言語単位を糊付けするように文を組み立てる。


A−2 シュレーゲルの体系化
・総合的:動詞に人称の情報が融合。たとえば、たいていのヨーロッパの言語は、動詞自体に人称語尾をつけて主語の人称が何であるかを示す。
・分析的:人称の情報が動詞から切り離されている。たとえば日本語は動詞に人称を表す形式はつけないため、主語の人称は文脈がない場合には主語があってはじめてわかる。


B 人間言語の普遍性の追求
・ガーレベンツ(19C末):意味的、機能的な側面。人間言語の持つ意味機能には多くの共通点があり、それが様々な言語形式に顕在化?
・文化論的な広がり:言語を使う人間と、人間が言語生活を営む社会や文化のあり方とリンク。


・A:言語の多様性:人間の外にある世界と言語がどのように関係しているか。
・B:言語(機能)の普遍性:認知の問題。

・・・文化論と認識論のインターフェイス


●言葉の普遍性
・言語と方言の区別の難しさ
・通じるか通じないかも基準にはならない:男言葉・女言葉、若者言葉

→これをまとめるキーワードが「普遍文法」。
・19世紀頃のヨーロッパではこの言葉が「ヨーロッパ基準の普遍」という意味で使われていた?
ピアジェチョムスキー論争
 
 ピアジェ(心理学者):経験論的考え。帰納的。
  経験+人間の認識能力の支え→言語構築の枠組みを組み立てる。帰納法的。

 ノーム・チョムスキー言語学者):「普遍文法」の考え。演繹的。
  言語能力を生得的に有する(生成文法的)+刺激→個別言語のデザインが自動的に決まるシステム。
  項目的に文法を勉強するわけではない(刺激の貧困)のになぜ言語の全体的な文法体系を短期間で習得できる?
  →言語習得の臨界期。その年齢を越えるとスイッチ固定化し言語習得が困難に。(母国語・第二言語の違い)

・この演繹的アプローチは実態を見ても背後にあるものは知ることが出来ない→普遍文法は言葉そのものを見ていても解明できない。


●今の言語学2種
認知言語学:環境との相互作用のなかでの言葉の機能面に注目する言語学
②文法的言語学:まずヒトの言語能力を仮定し、それがどう発言するかを問題にする生成文法的な言語学

→『言葉はなぜ今のような姿をしているのか』(ベルンスト・ハイネ):
 人間という動物が持つ認知の能力こそが、言葉に接する時の普遍性?
 言語類型論的な視点から言語に反映されたヒトの環境との関わりや認知の問題を扱う。 
 生物として環境の中で生きているヒトに言語研究の側から迫る。


●人間言語の原型(プロトタイプ)
機能類型論:人間の言語にはすべての言語に通底する特徴があると仮定
 例1:発音
 ・子音:歯茎音 t d 両唇音 p m →ほとんどの言語にある
 ・母音:あいう(琉球方言など)→母音の3角形のそれぞれの頂点。

 例2:品詞  名詞・動詞(形容詞や副詞はほとんどない言葉もある)

 例3:語順  主語が前、述語が後がほとんど

 含意的普遍性:ある言語が特徴Xをもっていれば、その言語は必ず特徴Yも持っているという連動関係
  例:複数・単数の区別。モノの単複を区別する言語はヒトの単複を区別。
             しかしその逆は必ずしもそうではない。日本語:私/私達 → 机/机たち??