*[フィクション/日本] おまけのこ
「おまけのこ」 畠中恵 新潮社
表題作の「おまけのこ」が一番シリーズらしかったと思う。若だんなももう十八歳。でもやることも言うことも10歳ごろと変わらないような。それに引き替え、今回の登場人物たちは著者の身近な人たちをモデルにしたのかと思うほど現代的な感性で生きている。そういう意味では、今までのシリーズ作品より別世界で遊ぶ楽しさは少し少ないように感じた。
*[フィクション/外国]「ダーラナの地主館奇談」
セルマ・ラーゲルレーヴ 松岡尚子訳 日本図書刊行会
「ニルスの不思議な旅」の著者セルマ・ラーゲルレーヴが書いた幻想的な愛の物語。メリー・ラーンによるバイオリンを弾く青年とスウェーデンの自然を描いた絵も、風景の中に入っていきたいと思わせる。
*[ノンフィクション/日本] セックスボランティア
河合香織 新潮社
障害者が性を含めた生を自然に生きるためには、世の中の意識が変わることや行政、ボランティア、ビジネスの取り組みも必要だが、この本を読んで、その人が恋愛できるか、結婚した後それを継続できるかどうかの決め手は本人の性格やコミュニケーション能力なのだと思った。雑誌掲載時に障害者夫婦の熱々の新婚時代を取材した著者が、単行本化にあたってその後を取材すると会話が減っていたという部分で思わず自分の家庭を振り返ったのは私だけではないと思う。
本書に登場する人たちが口々に言うようにボランティアで性を扱うのは、提供する側にもされる側にも精神的負担が大きいのではないだろうか。金のためにやっていると言い張る障害者専門デリヘルのオーナーのスタンスに好感が持てた。
ハサミを持って突っ走る
家庭を顧みない父親とエキセントリックな母親が離婚して、息子のオーガスティンは母親が頼りにしている精神科医に押しつけられる。彼の家族は、怒りを開放し、何物にも囚われず自由に振る舞え、という精神科医の方針に全員が従った結果、家の中も家族関係もハチャメチャであった。
この本は好きではないし、おすすめもしない。共感できる登場人物もひとりもいなかった。あまりにも露骨な表現の部分があるから、たぶん電車の中で読むにはふさわしくないと思う。私が電車のつり革につかまって読んでいるうちにその箇所にさしかかってしまった時は、誰も本をのぞき込まないようにひたすら祈っていた。
それでも、読みながらなにかと気がついたり、考えたりさせられる本だった。こんなに自由なのに檻の中に閉じこめられているような気持ちになるのはなぜだろうと主人公が考える場面では、彼の気持ちがよくわかって切ない気持ちがした。
ボーナス・トラック
越谷オサム 新潮社
風邪だかインフルエンザだかで2週間以上ネットに書く気力をなくしていた。だが読めなかったのは1週間だけだったので、回復期にはひたすら読み続けていた。その中でもかなりアタリだったのがこの「ボーナス・トラック」だ。
ひき逃げされて幽霊になってしまったのに、死んだ実感はないし、落ち込むのが照れくさいしで、生きていた時と同じぐらい軽いノリの亮太。事件を目撃して、真面目に被害者を救急救命しようとしたばかりに、幽霊の亮太になつかれて困り果てる草野。そこに草野の職場であるハンバーガーチェーンのアルバイトたちが絡んで、恋と霊感と仕事と犯人捜しの青春ドラマが展開する。
さえない下っ端社員の面白くもない日常を細々と描いているのだが、ここに生きている時はやはりまったくさえなかった幽霊がうろつくようになると、俄然面白くなるのが不思議だ。バイトたちも収入よりやりがいを重視するやつが集まると書かれているように、草野の勤め先のモデルとおぼしき某ハンバーガーチェーンの好感度が大幅にアップしそうな爽やかな面々なのだ。
別れの場面では泣けたが、草野も亮太も本当にいいやつだったと、読み終えた後に満足のため息をついた。