観光地にある観光トイレ

 先日、京都市右京区妙心寺 退蔵院」内にある、京都市「観光トイレ」の再整備を行う機会に恵まれた。現在、京都市内にある合計113ヵ所ある公衆トイレのうち、寺院の境内の内にある公衆トイレは特に「観光トイレ」と呼ばれ、妙心寺の他に、金閣寺、 仁和寺、東寺、平安神宮龍安寺の計6ヵ所に現存している。

 半世紀前の過去、京都市においては、昭和31(1956)年から約12年間、文化観光施設税(通称:文観税)という税金が存在した時代がある。この税金は、昭和60(1985)年から3年間続き、数々の寺社仏閣の拝観停止騒動を起こした古都保存協力税(通称:古都税)と同様に、京都市内の寺社へ支払う拝観料に課税を行う類の地方税であった。昭和40年前後、この文観税を財源に各寺社に整備されたのが、現在6ヵ所残る「観光トイレ」であり、ちなみに岡崎の京都会館はこの文観税を財源として昭和35(1960)年建設されている。

 観光トイレの再整備にあたっては、京都の寺院にふさわしく、「和」の美しさを表現するデザインを目指し、漆喰(しっくい)塗の外観に瓦屋根をあしらっている。御影石(みかげいし)の縁石から玄昌石(げんしょうせき)タイルを四半敷きに敷き込み、軒裏には赤杉のあやめ貼りを計画した。和風照明には、数寄屋造りの指物照明を使用し、「観光トイレ」という小さな空間であるからこそ、本物の「和」のしつらえの構築を心がけた。

 普段、あまり考えることのない公衆トイレのありかた。観光都市・京都にふさわしい上質なトイレ空間こそ、京のおもてなしの心をあらわす、ひとつの作法といえるのではないだろうか。